第22話 模擬戦×レガリア
「ユウヤ! がんばってー!」
「模擬戦をすると聞いて応援に来ました!」
「見に来てやったぞ!」
闘技場の観客席にセットたち3人の姿があった。
俺は3人に手を振って、レクスと向かい合う。
レクスは前回同様、大剣を手に持っていた。
「さっさと始めようぜ」
俺は短剣を抜き、ポケットから石ナイフを取り出した。
レクスを中心に回るようにゆっくりと歩き始める。
「また同じ戦法か?」
レクスの後方を捉えた瞬間、地面を蹴って距離を詰める。
短剣で背中目掛けて左下から逆袈裟に斬り上げた。
が、俺の短剣は背中に回した大剣に防がれてしまった。
「なんも変わってねぇな」
「それはどうかな」
左手に持つ石ナイフが青い光を放つと、灰になって消えた。
「何しやがった……ッ!」
レクスは態勢を崩して大剣を手から滑り落とした。
俺は石ナイフに
「どうした? 大剣を拾わないのか?」
「どうなってやがる」
大剣は重みで深々と地面に突き刺さり、レクスは引き抜けずにいた。
「その腰の剣を使えよ。メインはそっちなんだろ?」
「……仕方ないか。こいつを使うつもりはなかったが」
レクスがゆっくりと剣を抜いた。
煌びやかな装飾が施された鞘から現れた刀身は銀色の輝きを放ち、刃の中心を青い線が走っている。
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【ミスリルソード】
魔石とミスリルを組み合わせて作られた剣。
魔力伝導率が高く、魔力を流すことで切れ味を増す。
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──こっちも出し惜しみはしない方が良さそうだな。
俺は短剣の刀身を血で纏い、
「んだそれっ! 鎖が短剣に……そいつも
「魔装? なんだそれ」
「魔装をしらねぇのか? 迷宮に眠る武器だ。
威力は大したもんでな、迷宮に挑む冒険者のほとんどは、魔装目当てって程だ」
「迷宮にそんな物があるのか。こいつは魔装かどうかはわからないが、洞窟で拾ったんだ」
「そんなおかしな武器を見るのは初めてだ。
……話はこれぐらいにして、そろそろ始めようか」
「あぁ、いつでもいいぞ」
瞬きをした一瞬。目の前にレクスが現れた。
「なッ!」
俺は血刃をミスリルソードの剣筋に構え、いなしながら後方に回避する。
──縮地か? 前に戦った時は6mしか移動出来なかったはずだが……
「ほらどうしたッ! 戦いはもう始まってるぞ?」
縮地を読んで距離を取ったが、一瞬にして詰められた。
俺はさらに距離を取りながらレクスを鑑定する。
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【名前/性別】レクス / 男
【レベル/Exp】Lv.72 / 866860<Next:32802>
【スキル】片手剣:Lv.9 / 大剣:Lv.6 / 身体強化:Lv.8 / 威圧:Lv.5 / 縮地:Lv.8 / 毒耐性:Lv.4 / 生活魔法:Lv.-
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──縮地のレベルが8になってる……それに片手剣と身体強化のレベルも上がってるのか。
「なにぼーっとしてんだ!? 隙だらけだぞ!」
距離を離すも一瞬にして縮地で詰められる。
短剣の間合いに詰めようにも、剣戟が激しく避けながら捌くので精一杯だ。
「クソッ!」
俺は更に距離を取り、壁を蹴って反撃に出た。
全身の勢いを殺さず、縮地を発動。レクスの背後に回り込む。
「なっ……縮地だと!?」
レクスは、俺の姿を見失った。
俺はレクスの無防備な背中に向けて一閃する……が、背中に回したミスリルソードで防がれてしまった。
「まったく……背中から斬り掛かるのが好きな奴だ、な!」
レクスが振り向きざまに剣を横一閃に振る。
俺は体勢を立て直すために後方に距離を取った。
「ッ!」
「あの時と戦略が何も変わってねぇなぁ!」
目の前にレクスが現れた。
俺は咄嗟に血刃でガードするが……
「くッ!」
下から振り上げた剣でガードが上に弾かれた。
「もらった!」
レクスの剣が隙だらけの右脇腹に襲いかかる。
俺はインベントリから魔剣グランロストを左手に取り出し、脇腹をガードしたが勢いは殺しきれず吹き飛ばされた。
「いってぇ……」
「なんだ? その短剣、どこから出した?」
「内緒……。それよりガードしてなかったらヤバかったぞ?」
「何言ってんだ。ちょっと怪我するぐらいじゃねぇか」
「へぇ……
レクスは戦いになると周りが見えなくなる。
現に前回の試験でも、今の模擬戦でも殺されかけた。
「笑えねぇな……ちょっと炙るか……」
「あぶる? 何言って……はぁ!?」
俺はファイアボールを左手に構えると躊躇なく放った。
「え、いや……ちょッ!」
レクスが飛んできたファイアボールを
レクスの頬を掠め、後方に飛んで行ったファイアボールは爆音と共に壁を粉砕して見せた。
「……てめぇ、殺す気か!」
「大丈夫だ。ちょっと火傷するぐらいだ」
「んなもん、火傷で済むわけねぇだろ!」
俺は次のファイアボールを構えた。
「ストーップ! ユウヤ、ストップ!!」
俺の前にセットが割り込んできた。
俺は慌ててファイアボールを消して、左手を下ろす。
「ユウヤお前、魔法使えたのか!?」
「どうなってるんですか?」
「魔法が使えるなんて言ってなかったよね?」
サンクたち3人が俺に詰め寄る。
「あー、なんて言うか」
俺は言葉を詰まらせた。
──やばいな……ついカッとなって魔法を使ってしまった……周りが見えてないのは俺も同じか……
「この前の試験の時は、そんなこと解析結果にも書かれてなかったはずだが?」
詰め寄る3人にレクスも加わってきた。
「いや……色々あって使えるようになったんだ」
「色々ってどうやって!? 魔法適性がなくても使えるようになるの?」
「たぶん……?」
俺は目を逸らしながら答えた。
「どうやるの? 教えて!」
「習得の方法を教えてください!」
「てめぇだけずりぃだろ!」
「ユウヤ、俺にも教えろ!」
「わかった! 教えるから落ち着いてくれ!」
4人の視線が俺に集まる。
──魔法は
「魔法は魔力を理解すれば簡単だよ?」
考え込んでいる俺にティナが話しかけてきた。
「そう言われてもなぁ……俺も感覚的なものだから、教えるのが難しいんだ」
「魔法は自然現象を魔力を使って作り出したものなの。この世界で起こる自然現象は魔力の素になる魔素が起こしてるのは知ってるよね?」
4人は真剣な表情でティナを見つめて頷いた。
「魔素はこの世界の色々なところにあって自然現象を起こしてるけど、人はその魔素を体内で変換して魔力として使ってるの。だから、膨大な魔力を操作できれば自然現象を起こすこともできるよ」
「生活魔法が使えるなら、魔力は感じ取れてるはずなんだけど、魔法が使えないのは魔力に指向性を持たせていないから、指向性を持たせないと手のひらに集めてもすぐに外に逃げて行っちゃうの。まずは体の中にある魔力を意識して、それを手のひらに移動させて──」
ティナは静かに目を瞑ると、手のひらに青白い光が集まり始めた。
「初級魔法のファイアボールは火の塊、アクアボールは水の塊、サンドショットは土の塊、エアショットは空気の塊を頭の中でイメージして魔力を変化させて……」
そう説明するティナの手の上には、それぞれの初級魔法が完成した。
「これに指向性を持たせてあげると──」
各魔法は壁に飛んでいき小さな爆発を起こした。
「魔力の込める量を調節すればユーヤみたいに威力が高く……?」
一連の流れを見ていた俺を含める全員がティナを見て固まっていた。
ティナはそんな俺たちを見て小さく首を傾げた。
「4属性……嘘だろ……」
「ティナちゃん、すご……」
「ティナ、魔法使えたのか!?」
──昨日、鑑定した時は魔法なんて表示されてなかったはずだ。
俺はティナを鑑定すると──
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【名前/性別】ティナ / 女
【レベル / Exp】Lv.?? / ????<next:->
【スキル】火魔法 Lv.? / 水魔法 Lv.? / 風魔法 Lv.? / 土魔法 Lv.? / 繝槭リ繧ェ繝シ繝ゥ Lv.? / 生活魔法Lv-
【ユニークスキル】遨コ髢楢サ「遘サ / 逡ー遨コ髢灘卸騾
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表示がおかしくなっていた箇所がいくつか表示されるようになっていた。
「ん、使えるようになってた」
──全属性魔法を習得済みってことか……
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「魔力を……体ん中の魔力を意識して……」
「んー魔力を……ゆっくり集める……」
「体に流れてる魔力を1箇所に……」
「貯めた魔力を手のひらに……ミスリルソードに送る感じで……」
ティナの説明を受けた4人は個々に修行を始めていた。
レクスは元々、ミスリルソードを使いこなすために魔力操作は出来ていたので物覚えが早いようだ。
「みんな、そろそろ飯にしよう」
「もぅさっきからいい匂いがして修行に集中できなかったのよ!」
「僕たちに作ってくれたんですか?」
「もちろんだ。ぜひ食べてくれ」
俺は盛り付けた食器を手渡していく。
ちなみに食器は盗賊達の財宝に入っていた金食器を洗って使っている。
見た目が派手すぎるが、食えればそれでいいだろう。
「せっかく作ったんなら食ってやらなくもないぞ」
「カトル、嫌なら食わなくてもいいんだぜ? お前の分は俺が食ってやるからな」
レクスがカトルをからかいながら、意地悪な笑みを浮かべた。
「これは何と言う料理ですか?」
「お肉の塊を焼いただけ……にしては何だか違うようだけど」
「これはハンバーグって言う料理だ。見たことないのか?」
「ハンバーグはねぇ、柔らかくて、とーってもおいしいんだよ」
──他のみんなはハンバーグを知らないのにティナは知っているのか……育った地域性の違いか?
「ユーヤ、はやくっ!」
俺が料理をしている間、側で目を輝かせていたティナが自分の皿を持って、早く食べたそうにこっちを見ている。
「そうだな。それじゃ食べるか」
「「いただきます」」
俺とティナが食べる姿を見て、4人が喉を鳴らすほどに唾を飲み込んだ。
4人はハンバーグにフォークを入れる。
「え、うそ……柔らかい」
「フォークがこんなにも簡単に入るなんて!」
「なんだこれ!肉なのに肉じゃねぇみてぇだ!」
「この上にかかってるソースも美味いな」
4人は感想を言い合いながら自分の皿を平らげ始めた。
皆には話していないが、カトルには火魔法、セットには水魔法、サンクには風魔法、レクスには土魔法の
他人への付与が可能かを試させてもらっているわけだが、それぞれの属性はみんなが取得したいものを事前に聞いておいたので、決して一方的なものでは無い。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
結果を先に言うと、
食事によるスキル取得で最強戦士軍団の育成……なんてことは出来ないということだ。
だが、4人は筋がよかったのか、ティナの指導が的確だったのか各々がスキルを取得できたようだ。
現にさっきから、俺の周りを火、水、風、土の初級魔法が飛び交い、闘技場の壁や地面をめちゃくちゃにしている……
「な、なんですかこれは!」
勢いよく闘技場の扉が開かれ、女性の叫び声が響き渡った。
「エルさん……今日は帰って休んでたんじゃ」
「書類業務があったのを思い出したんです。騒ぎ声がするから来てみたら……闘技場の片付けを誰がすると思ってるんですか!」
「悪い、片付けてから帰るからさ。そうカッカすんなって……」
頭を押えるエルさんに声をかけたレクスだったが、すごい形相で睨み返された。
「もういいです!皆さん出ていってくださいッ!」
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
「追い出されちまったな……あいつ、怒ったら怖いんだな」
「だな……」
「うん……」
「そうですね……」
「エルさんは怒らせないようにしような」
「「「「うん」」」」
エルさんに追い出された俺たちは、解散し宿に帰ることになった。
かなり遅くまで闘技場にいたらしく、外は薄暗く街灯に照らされ、静まり返っていた。
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