第21話 財宝×魔剣
「ユーヤ、どうかな?」
ティナは白いレースのワンピースをなびかせながら聞いた。
少しウェーブがかった金色の長い髪に鮮やかな青い瞳、色白の肌に白いワンピースを纏った姿はまるで人形のようだった。
「あぁ、似合ってる。でも、その丈だと動きずらそうだな」
俺たちは大浴場で体を綺麗にしたあと、大通りにある洋服屋に来たわけだが……
「あーんもぅ、なんでも似合うわ!次はこれを着てみてッ!」
この興奮している男は、この店の店主だ。
ティナの服を買いに来たのはいいが、ティナを見るなりこちらのオーダーに添わず、ティナは着せ替え人形のような扱いを受けている。
「もうちょっと動きやすそうなのをお願いしたいんだけど」
「何を言ってるの!? おしゃれは我慢なのッ! それが分からない坊やは黙っててちょうだい!」
とまぁ、ずっとこの調子だ。
「これから長旅になるから、少しでも動きやすいのがいいんだ」
「あーもぅ! うるさいわね。素材や機能性を求めるなら防具屋にでも行ってちょうだい」
「はぁ……それもそうだな。ティナ行こうか」
「ん」
「え……ちょっと、ティナちゃん!?」
「あっ、このワンピースは買い取るよ。1番似合ってたし」
俺はそう言って、値札に書かれた金額を入口近くの店員に渡して店を出た。
護衛対象のティナに防具を着せるのはどうかとも思ったが、安全のためにはそれなりに固めた方がいいのかもしれない。
「ティナちゃーんッ! 戻ってきてぇ……」
俺たちは、店主の泣き叫ぶような声を無視して防具屋へ向かった。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
「シェリーさん、いるー?」
シェリーさんの防具屋の扉を開いた俺は、奥の部屋に声をかけた。
相変わらずシェリーさんは奥の部屋で作業をしているらしい。
「はーい。あら、ユウヤじゃない。防具の修理かしら?」
「いや、今日はこの子の防具をお願いしたくて」
「え、なに? 女の子?」
シェリーさんがティナを見て、少しあたふたしている。
「ちょっと護衛依頼でノースフルまでいくから、防具を固めようかと思うんだ。それで、この子が護衛対象なんだ」
「あっ、なんだ。そういう事……え、ちょっと待って、ノースフルってあのノースフル!?」
「長旅になるから動きやすいのがいいんだけど、何かいいのはある?」
「んー動きやすさならユウヤと同じ革防具だけど、ノースフルまでだとちょっと不安よね……そうだ! 最近、ギルドがエレメンタルの素材を大量に仕入れたのよ! 少し値は張るけど、あれを使えば強度を上げれるわ」
「それじゃ、それでお願いするよ」
「まいどありっ! 先に採寸してから金額決めるわね」
シェリーさんはそう言ってメジャーを取り出し、ティナを採寸し始めた。
「そうね……この子の体格なら材料費込みで金貨1枚ってとこかしら。ついでにユウヤの分も作っちゃう?
作るならサービスしてあげるわよ?」
「確かに俺の防具も必要か……それじゃ俺の分も頼むよ」
「ユウヤの体格だと……端数は切り捨てて、2人合わせて金貨2枚でどうかしら?」
「わかった。それで」
そう言って、俺は金貨2枚をポケットから出して手渡した。
「まいどありぃー。それで、2人はいつ頃出発するの?」
「確か王都行きの馬車が2日後に出るって言ってたな」
「ふ、2日!? これは徹夜確定ね……」
シェリーさんは遠い目をしながら呟いた。
「もし無理そうならティナの分──」
「大丈夫よ! もらった仕事はしっかりやらせてもらうわ。完成したら届けるから!」
シェリーさんはそう言って奥の部屋に走っていってしまった。
「俺たちの宿は狐の尻尾亭というところだから!」
「わかったわ!」
「最悪ティナの分だけでもよかったんだが……ま、いいか。ティナ行こうか」
「ん」
「ユウヤさん……こちらに向かわれたと聞き……伺いました」
俺たちが防具屋から出たところで声をかけられた。
「エルさん!?」
そこには目の下に大きな隈を作り、やつれた顔のエルさんが立っていた。
「どうしたんだ!?」
「ゴント盗賊団の徴収品の処理に時間がかかってしまいまして……先程終わりましたので、お声をかけにあがりました」
「目の下にすごい隈ができてるけど……大丈夫?」
「大丈夫です。これもギルド職員の業務ですから……それでは、ご案内致しますのでこちらへ……」
──ギルドってかなりのブラック企業なんじゃ……
俺はフラフラと歩くエルさんの後を追って闘技場へ向かった。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
「エル。ご苦労じゃったな。あとの説明はワシがしておくから、お主は帰って休みなさい」
「マスター……ありがとうございます。それでは私は……こちらで失礼致します」
そう言ってエルさんは一礼してフラフラと闘技場を出ていった。
「よう来たのう。ユウヤ、ここに置いてあるものが全てユウヤの収益じゃ」
「これ全部か!? 半分も減ってないじゃないか」
俺は、目の前に山積みにされた財宝に驚愕した。
「持ち主のわかる物は処理をしたんじゃがのう、そもそも盗賊に襲われ持ち主を特定出来ることは稀じゃ。兎にも角にも受け取りを頼む」
「それもそうか……」
俺は財宝の山をインベントリに収納した。
「それと、これがゴント盗賊団の討伐報酬じゃ」
「ありがとう」
俺は手渡された金貨が入った袋もインベントリに収納した。
「まったく、いつ見ても便利な能力じゃのう」
「ははは……」
「それはそうと、ゴントの奴らの財宝に気になるものがあってのう。わしが独自に調べさせてもらったんじゃが」
そう言って懐から出したのは、黒い柄と鞘の短剣だった。
短剣からは、魔素らしい禍々しさが感じられる。
「この短剣がどうしたんだ?」
「調べたが、こいつは
魔剣と呼ばれる短剣に鑑定のウィンドウが表示された。
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【グランロスト】<魔剣>
暴食の魔剣。
斬った対象の魔素・魔力を喰らい鋭さを増す。
ただし、魔素が切れるとなまくらになる。
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──魔剣……ってことは転移者の血液が使われているのか?
「難しい顔をしおって、どうかしたのか?
これもお主の取り分じゃ。主武器が短剣じゃから丁度よかったじゃろ」
「ん、あぁ……」
俺は短剣を受け取り、インベントリに収納しよとしたとき、袖を引っ張られた。
「ユーヤ、それわたしが持ってたのだよ?」
「これティナのなのか?」
「ん。ユーヤが持っとけって。使うの?」
「使ってもいいのか?」
「ん? ユーヤのだから」
ティナが首を傾げながら答えた。
どうやら、この短剣はティナが盗賊に捕らえられた時に奪われていた物らしい。
──ティナをノースフルに送り届けたら保護者に返すことになるだろうが、それまではありがたく使わせてもらうか。
「そうじゃ、レクスが模擬戦の続きをしたいと言っておったぞ。闘技場もスッキリしたしのう、今晩からできるがどうする?」
「それじゃ、お願いするよ」
「そうか。レクスにはわしから伝えておこう。夕暮れにまた来るといい」
「わかった」
──レクスと模擬戦か……今の俺でどこまで戦えるか、少し楽しみだな。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
日が落ち始め、空が赤く染まり始めた頃。
ギルドを訪れた俺は、受付嬢に声をかけて闘技場へと向かった。
「よぉ! 待ってたぜ、ユウヤ。さっさと続きをはじめようぜ!」
闘技場の扉を開けると笑顔で迎えるレクスがいた。
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