第17話 謎の少女×昇格
「んっ……どこだここ」
目が覚めると知らない部屋のベッドにいた。
体の怪我は治療されたのか、包帯が巻かれている。
服も白い服に着替えさせられていた。
体を起こすと、俺が眠っていたベッドに寄りかかるようにして、寝息をたてる少女が目に入った。
「この子はあの時の……」
窓から差す夕日で、綺麗に輝くブロンドの髪が寝息と共に静かに揺れる。
──12,3歳ぐらいか? 服がボロボロだな……この子も盗賊に囚われていたのか?
相当乱暴に扱われたのか、服は所々破けてしまっている。俺は少女にそっと布団を掛けた。
その時、部屋がノックされドアが開いた。
「ッ!? 先生を呼んできます!」
ドアを開けた女性は俺を見るなり、慌ててどこかへ走っていった。
──先生?
しばらく待っていると再びドアが開き、顔立ちの整った白衣の男が入ってきた。
「ユウヤさん、目が覚められてよかった……私はギルド医務員のステルです。どこか痛いところや、違和感はありませんか?」
「んー特に……問題はないな」
俺は体を少し動かし、確認しながら答えた。
「よかった、後遺症も無さそうですね」
「ここはどこなんだ?」
「ギルドの医務室です。あなたは重度の魔素中毒でここに運ばれ2日間程、昏睡状態だったんです」
「そんなに寝てたのか……それで、魔素中毒って?」
「高濃度の魔素溜まりに長時間いると発症する症状のことです。重症化したまま放置すると、いずれ自我を失い──」
「ユウヤ! 目が覚めたのね!」
「セット、他の方に失礼なので静かにしてください」
「ったく……」
先生の話を聞いてると、セット達が勢いよく部屋に入ってきた。
「おやおや、賑やかですね。体調も問題なさそうですから、動けるようなら退院で構いませんよ」
先生は笑顔で言うと、部屋を出ていった。
──話が途中だったが、問題ないならいいか……
「3人揃ってどうしたんだ?」
「ユウヤが目を覚ましたって聞いたから来たんじゃない。私たちが盗賊のアジトを討伐隊に教えなかったら危なかったのよ?」
「そうだ。これでボアモスの借りは返したからな」
「本当にカトルは正直じゃないですよね。さっきまで1番心配してたのはカトルなんですよ?」
サンクがニヤニヤと笑みを浮かべながら言った。
「いや……だから……俺はコイツが目を覚まさなかったら、借りを返せないからだな……」
カトルはしどろもどろに答えた。
「みんなにまた迷惑かけたな……ありがとな」
「いいのいいの、私たちは当たり前の事をしただけだから。それよりも、ユウヤの横で寝てるその子は誰なの?」
皆の視線が少女に集まる。
「ああ、俺もこの子が誰だか──」
「んっ……ご主人様、おはよ……」
ゆっくりと目を開いた少女は柔らかい声で呟くように言った。
「ねぇ、今ご主人様って言った?」
「僕もそう聞こえましたが……」
「ユウヤ……女の子に自分のことをご主人様って……いくら自分が助けたからって、お前……」
3人が冷たい目でこっちを見る。
「ちがっ……だから俺もこの子が誰だか知らないんだ。なんで一緒にいるかも分からなくて」
「……? わたしはご主人様から離れないように言われてたから」
少女は首を傾げながら言った。
3人の白いまなざしが突き刺さる。
「ご主人様って誰のことか知らないが、俺はユウヤだ」
「ユーヤ?」
「そうだ。ご主人様なんて呼ばないでくれ」
「……ん。わかった。ご主人様はユーヤ」
少女は首を少し傾けたあと、小さく頷き返事をした。
「全然わかってないだろ……」
俺は額に手をついて呟く。
「ちょっと待って、この子はユウヤと誰かを間違えてるんじゃない?」
「そうだと思う……俺はご主人様なんて呼ばせる趣味は無いからな……」
「しかし、人をここまで間違えたりするでしょうか? ユウヤさんが記憶を無くす前まで一緒にいたという方が信憑性がありそうですが……」
「きっとそうよ! この子がユウヤの記憶を取り戻す手がかりになるかもしれないわ!」
──そう言えば記憶喪失ってことにしてたな……
「ねぇねぇ、名前はなんて言うの?」
セットが少女に優しく声をかけると、少女は助けを求めるように、俺の袖を引っ張った。
「え、どうして?」
「お前の顔が怖いんじゃね?」
「はぁ!? あんたに言われたくないわよ」
「痴話喧嘩するなら外でしてください……まったく」
「うるさくて悪いな……名前は言えるか?」
俺は少女に話しかけた。
「……ん。名前はティナ」
「ティナちゃんって言うんだ!どこから来たの?」
「……」
セットが話しかけるとティナは黙ってしまった。
「この人たちは悪い人たちじゃないぞ?」
ティナは俺の顔を見たあと、ゆっくりと口を開いた。
「わたしは……ノースフルから来たの」
「ノースフル!? ホントにノースフルから来たの?」
「……ん」
セットの圧にティナが少し脅えている。
「ノースフルってそんなに有名な所なのか?」
「有名も有名、超有名よ!」
「ノースフルは、この国唯一の古代迷宮がある迷宮都市です」
「もしかして、その迷宮ってギルドの掲示板に貼られている四つの迷宮のことか?」
「そうです! ノースフルの迷宮に挑むことは冒険者の憧れであり、目標でもありますからね」
珍しく、サンクが興奮気味だ。
「ティナちゃん、ノースフルってどんな所なの?」
「迷宮は入る度に姿を変えると聞きましたが、本当にそんなことがありえるのですか?」
「迷宮の奥にはゴールドクラスでも歯が立たねぇ魔物がいるってのは本当か?」
3人の食いつきぶりにティナが困惑している。
「あなたたち、外まで騒ぎ声が聞こえてますよ?」
声の方に目をやると、エルさんがドアを開けて立っていた。
「ユウヤさんを呼んでくるようにお願いしただけですよ? いつまでかかっているんですか!」
「ごめんなさい……」
「すみません……つい話しに夢中になってしまいました」
「わりぃ……」
3人はエルさんに頭を下げた。
「まったく……ユウヤさん、マスターが待っていますので、来ていただけますか?」
「ああ、わかった」
身支度を済ませた俺は、みんなと一緒にランディの元へ向かった。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
「失礼します」
エルさんがドアをノックし開ける。
「諸君、待っておったぞ」
「こちらへどうぞ」
応接室に通された俺たちは、エルさんに従ってマスターの向かいのソファに腰掛けた。
カトルたち3人は緊張しているのか、顔が強ばっている。
──ティナが当たり前のように付いてきたが、よかったのか……?
「わざわざ来てもらって悪いのう。今回はシルバークラスの昇格試験の件で話があってな。今回のゴント盗賊団の成果もあり、他ギルドの承認も得ることができた。お主ら4人は今日からシルバークラスじゃ」
マスターがそう言うと、左右にいた職員がシルバークラスのギルドプレートをテーブルに置いた。
「え、うそ……」
セットが今にも泣きそうな顔で呟いた。
「マスター、俺たちは今回の盗賊討伐には何も貢献してねぇ。これを受け取る資格はないと思うが?」
「ちょっとカトル……」
「ふむ……しかし、決まってしもうたことだしのう。それに貢献していないと言うが、お主の判断のおかげでアジトの位置を特定でき、結果ユウヤを助けることに繋がっておる。十分貢献に値すると思うが?」
「だが……自分の力で昇格できた気がしねぇな」
「若いのぅ。お主たちのことは前々から認めておった。まぁ、カトルはいささか実力を過信しすぎるところがあるようじゃがの」
「「ぶッ!」」
吹き出して笑いを堪える2人にカトルがすごい形相で睨みつけている。
「うむ。シルバークラス以降は階級を上げたければ試験を受けることになる。これからも精進しなさい。話は以上じゃ」
それぞれが自分のギルドプレートを手にして、ドアへと向かう。
「ユウヤ、お主はもう少しよいか? ゴント盗賊団についていくつか聞きたいんじゃが」
「ああ、わかった」
「じゃ、ユウヤまたねっ」
「ユウヤさん、また部屋取っておきますから来てくださいね」
「じゃあな」
俺は3人を見送ったあと、1度立ったソファに再び腰かける。
マスターが目配せをすると、エルさんたち職員も部屋から出ていった。
「引き止めてすまんな」
「それで聞きたいことって?」
「うむ……」
ランディは短く返事をすると、真剣な目で俺を真っ直ぐ見据えた。
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