第16話 固有スキル×反動
「ん?」
薄暗い一本道の洞窟をしばらく進むと、道を塞ぐように木でできた扉があった。
「誰かいるみたいだな……」
扉の隙間から光が漏れ、奥からは騒ぎ声が聞こえる。
「最近の稼ぎはどうだ?」
「俺は貴族の荷馬車1台と男爵だ。積荷に金目の物はあまり無かったが、男爵を人質にすればいくらでも金を要求できるだろ」
「こっちは女を何人か攫ってきたぜ、奴隷商との取引は明日の早朝だが、どいつも綺麗どころだからな、いい値がつくだろうぜ」
「ど、奴隷に出すなら、お、犯していいか!?」
「クハハハ、てめぇはそればっかだな。やりすぎんなよ? 売値が安くなっちまうからな」
扉の隙間から中を覗くと、明るい部屋で4人の盗賊が談笑していた。
「最悪だな……」
胸の奥から憎悪のような胸糞悪さを感じながら、
「誰だ!?」
扉がきしみ、音に気づいた盗賊達が一斉にこちらを向いた。
盗賊達と目が合い、嫌な汗が背中を伝う。
──本当に俺の姿は見えてないのか……?
「おい、最後に入ってきたのは誰だ?」
「おかしいな。たしかに閉めたはずなんだが……」
1人の男が椅子から立ち上がり扉を閉めた。
盗賊たちはこちらに気づく様子も無く、談笑を再開した。
──見えていないみたいだな……
俺は血刃を強く握り、椅子に座る男の首目掛けて横一線に振る。
「いてッ!」
「どうした?」
「分からねぇ……何か首筋に当たった気がしたんだが……」
盗賊の首に赤い筋が出来た。
俺は寸でのところで思いとどまり、部屋の隅で縮こまっていた。
──お、俺は今……人を殺そうとしてたのか……? こんな奴らでも人は人だ……
人を殺そうとしていた自分に吐き気を覚えながらも、心臓の鼓動を押さえつけ呼吸を整える。
──あれなら丁度いいかもしれない。
俺はインベントリからベノムリザードの牙を取りだした。
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【ベノムリザードの毒牙】<毒素>
少量の毒が付いた牙。
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──ベノムリザードの持つ毒素を使えばこいつらを動けなくすることも出来るはずだ。
取りだした牙を短剣に
「くっ……」
「がっ!」
「うぅ……」
「……ッ!」
4人とも泡を吹いて倒れると、少し痙攣して動かなくなった。
──死んでない、よな?
俺は恐る恐る鑑定してみる。
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【名前/性別】シルフ / 男 <盗賊>
【レベル/Exp】Lv.24 / 9034<Next:230>
【スキル】短剣:Lv.3 / 威圧:Lv.1 / 挑発:Lv.1
【状態異常】毒素による失神。毒素レベル1
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鑑定結果には名前の横に赤く<盗賊>と書かれていた。
状態異常の内容を見る限り、気を失っているだけのようだ。
「これで縛って動けなくしておくか」
俺は部屋にあったロープで盗賊たちを縛って先に進んだ。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
「この洞窟、一体何人の盗賊がいるんだ……?」
俺は、洞窟の中を
数十分ほど歩いてきたが、ここに来るまでに拘束した盗賊はギルドで聞いた32人を軽く超えていた。
想像以上に規模の大きい盗賊団だったらしい。
「まだいるのか……」
洞窟を進んでいくと、大きな鉄製の扉をみつけた。
扉の前には2人の盗賊が暇そうに突っ立っている。
俺は音を立てないように、扉に近づいた。
「あーぁ、ここの警備は暇だよなぁ。ここを警備する意味ってあるのか?」
「おいっ! ゴント様に聞こえたらどうする」
「どうせこの時間は寝てるって」
「万が一があるだろ!」
「お前こそ大声出してゴント様を起こしたらコトだぞ? うっ……」
「どうした!? がっ……」
2人を毒素を
──確か、ここの盗賊の名前はゴント盗賊団だったよな……ってことは盗賊団の親玉がこの奥にいるのか? この調子ならゴントってやつも何とかなりそうだな。
俺はゆっくりと扉を開く。
扉の先には真っ暗な空間が広がっており、盛大にイビキが響いていた。
「なんだ、あれ」
奥の方で上下に動く巨大な塊が見えた。
イビキもそちらから聞こえてくる。
俺はゆっくりとその塊に近づく。
視力が暗さに慣れ、塊の全容が見え始めた。
──嘘だろ……笑えねぇって……
そこには、身長3mはありそうな大男が寝ていた。
近くにはハルバードの様な巨大な斧が立てかけられている。
──寝ている隙にやってしまおう。こんなのに暴れられたらたまったもんじゃない……
俺は短剣を握りしめ、大男に近づいく。周りから音が消えた。
──イビキが止まった?
俺は頭を上げると、大男が斧に手を伸ばしているのが目に入った。
──バレたのか!?
俺は後方に飛びながら、縮地で更に距離をとる。
目の前を斧が通り過ぎた。
「ッ!?」
避けきれたと思った矢先、斧の柄が俺のこめかみに直撃し吹き飛ばされた。
「殺気を感じたと思ったらこんなガキか……ギルドの差し金かァ? オレも舐められたもんだなァ」
吹き飛ばされた拍子にハイドが解けてしまった様だ。
「いってぇ……そのガキに仲間全員やられといてよく言うよ」
俺は立ち上がり、こめかみを袖で拭きながら言い返した。
こめかみから血が出ていたが、
「ガハハハッ! 仲間だァ!? 笑わせんな。アイツらは俺の言う通りに動く、ただのコマだ! 代わりなんざいくらでもいるからなァ!」
ゴントは嘲笑うように言った。
「お前、マジで最悪だな……早いとこ終らせてやる」
俺は再度ハイドを発動させる。
「がッ!? なんだ……これ」
心臓を握られるような痛みに、俺はその場に膝を着いた。
「さっきまでの威勢はどうしたァ!」
「ぐっ……」
痛みに耐えながら視線を上げると、斧を上段に構えているゴントの姿が見えた。
俺は転がるように横に避ける。
ゴントが振り下ろした斧が地面を抉り、破片が辺りに飛び散った。
「避けてんじゃねぇよ! オラァ!」
ゴントが膝を着いて動かない俺の腹を蹴り上げる。
「かはッ!」
蹴り飛ばされた衝撃で肺の空気を全て吐き出した。
俺は崩れそうになりながらもゆっくりと立ち上がり、霞む視界でゴントを捉える。
「しぶてぇなァ……」
ゴントが俺の近くまで来ると、斧を振りかざした。
「死ねぇ!」
「──
突如、耳をつんざく轟音と共に音の無い白い世界に包まれた。
しばらくすると視界と音がゆっくりと戻り始めた。
「ご主人様……大丈夫?」
目の前には、ブロンドの髪に青い瞳の人形のような美少女が俺の顔を覗き込んでいた。
俺はそのまま気を失ってしまった。
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