第15話 盗賊団×アジト
北門を出た俺は、全速力で走り続けていた。
3時間ほど走っているが全く疲れる気配がない。
──身体強化の効果もあるんだろうけど、こっちに来てから疲れなくなったな。
確か地図で見たのはこの辺りだったよな……
俺はスピードを落として辺りを見回す。
道の両脇は身長より高い草が生い茂っている。
──これじゃ人が隠れてても分からないな……
「おっと! ここは通さねぇぜ!」
「通りたけりゃ身ぐるみ置いてきな!」
「ひひひ、ミグルミ! ミグルミ……?」
「なぁ、アニキあいつなーんも持ってねぇぞ?」
「バーカ! そんなわけねぇだろ。こんな道端で軽装なわけ……」
草陰から3人の男が現れた。3人とも黒い布で顔を隠しているため、表情はわからないが俺を見て驚いているようだ。
「俺は何も持ってないぞー! ポケットも空っぽだ」
ボロボロの服を着た俺は、ポケットの裏地を見せながら言った。
ここに来る道中で、前の服に着替えておいた。
装備類は全部インベントリに収納済みだ。
「アニキ、どうする? あーんなボロい服奪っても銅貨1枚にもならないぜ?」
「なら体で払わせりゃ良いだろうが! 男なら労働奴隷にして売り飛ばしちまえばいいんだ」
「ウリトバス! ウリトバス!」
男たちはそれぞれに武器を構えた。
「ふぅ……わかった! 降参だ。3対1で勝てるわけないからな……どこにでも連れて行ってくれ」
「ほう、物分りがいいじゃねぇか。おい、お前らアイツを縛り上げろ」
「へへへ、抵抗するんじゃねぇぞ?」
俺は手を後ろに回した状態でロープで縛られた。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
ロープで引っ張られながら、20分ほど歩いたところで、男達が止まった。
目の前には苔が生えた大きな岩がある。
「確かこの岩だったよな?」
「へぇ! ここですぜ、アニキ」
男が岩の裏を指さしながら声をかけた。
──ん? あれは……
「ほら、何してるこっちに来い」
俺が森の草藪を見ているとロープを強く引っ張られ、強引に岩の方へと連れていかれた。
岩の裏には茂みに隠れて大きな穴が空いていた。
見たところ地面までは5mほどの深さだ。
──ここから、こいつらのアジトに繋がってるのか?
「ほら、降りやがれ」
「降りろって飛び降りろってことか?」
「そうに決まってんだろ! 行け!」
俺は背中を押されて、穴に落とされた。
穴の底には薄暗い横穴が続いている。
天井の所々に小さな穴が空いるらしく、光が入ってきていた。
「こっちだ。来い」
男達に引っ張られながら連れていかれた先は洞窟に繋がった。
洞窟の中は松明に照らされ、長い一本道に横穴がいくつか掘られている。
──この横穴が全部、さっきみたいに外に繋がってるのか?
洞窟の奥に連れて行かれると広い空間に出た。
空間には牢屋があり、奥にはまだ洞窟が続いているらしく、扉が設置されていた。
牢屋には何人もの人が捕らえられ、隅の方に小さく
「ここで大人しくしてやがれ!」
俺は牢屋の中に突き飛ばされて顔から地面に転げ落ちた。
「明日の朝にでも奴隷商に売り飛ばしてやる」
「ひひひ、バーイバーイ」
男たちは捨て台詞を吐いて元来た道へ歩いていった。
「おい、兄ちゃん大丈夫か?」
「酷くボロボロね……」
「よっぽど酷い目に合わされたんだろ……」
男たちがいなくなると、牢屋で蹲っていた人達が俺を気遣ってくれた。
全員が薄着で両手を後ろで縛られている。
「いや、俺は大丈夫だから気にしないで。それよりここにシンの親はいないか?」
「シン!? シンは私の息子だ! まさか、シンに何かあったのか!?」
牢屋の奥で蹲っていた男が顔を上げると、こちらに駆け寄って来た。服は薄着だが他の人より小綺麗な服を着ている。
「安心してくれ。シンはカタクのギルドで保護してるよ」
「分をわきまえろ! この方は──」
俺がシンの無事を伝えると、ごつい男が割って入ってきた。
「待て。こんな所では身分もなにもない。
そうか……あいつは、シンは無事か……それだけわかれば十分だ……」
シンの父親はそう言って、また牢屋の奥で蹲った。付き人らしい男は俺に舌打ちをして、シンの父親の元へ戻っていった。
「あんたは何者なんだ?」
「俺はアイアンの冒険者で、訳あってこの盗賊団の情報収集に来たんだけど……捕まっちゃいました。ははっ」
「あんた……それは笑い事じゃないだろ……」
俺に少し希望を抱いていた人達はため息を漏らすと散り散りに壁側に座り込んだ。
──この人数を一度に助け出すのは無理だな……
さっきの奴らも外に出ていったみたいだし、見つかって仲間を呼ばれると厄介だ。
牢屋に囚われた人は15人ほどいるが、全員で移動するのは自殺行為だろう。
──
俺はインベントリから短剣を取り出してロープを斬ると、防具を取り出して身に纏った。
「あとは鉄格子だな……ふんッ!」
鍵は音もなく斬れ、鉄格子のドアがゆっくりと開いた。
「え……」
一部始終の光景を見ていた人達は小さく声を漏らした。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
「確かこの辺りよね? 盗賊が頻繁に出没するって所は……」
「なんだ、怖いのか?」
「べ、別に怖くなんかないわよ。ただ確認しただけ!」
カトル達は依頼の帰りに北の街道を歩いていた。
「ねぇ、あれってユウヤじゃない?」
「本当ですね。こんな所でどうしたんでしょうか」
「声掛けに行きましょ! ユ──」
「ちょっと待ってください! ユウヤさんと一緒にいるのって……」
「嘘……盗賊!?」
「ほっとけ、あんな奴らあいつ1人で何とかできんだろ」
3人が木陰から見守る中、ユウヤは両手を上げて縄で縛られた。
「降参しちゃったみたいだけど……」
「なッ……嘘だろ。あいつなにやってんだよ」
「これってヤバくない?」
「そうですね……早急にギルドに報告に向かいましょう」
「いや、待て」
サンクが立ち上がろうとすると、カトルが止めた。
「お前はバレない様に遠くから後をつけろ。アジトが分かれば俺たちに知らせてくれ」
「わかりました」
「セット、全速力で街に戻るぞ。遅れるなよ」
「誰に言ってるのよ。カトルこそ遅れないでよ」
3人は2手に別れて行動を始めた。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
「あんた、本当にアイアンなのか?」
「今見た事は秘密にしといて貰えると助かるんだが……まぁ話しても誰も信じないだろうけど」
「そうだな……夢でも見てる気分だ。俺たちは助かるのか?」
牢屋の人達の期待の眼差しが俺に集まる。
「出来るだけのことはやってみる。だから、みんなはここで待っててくれ、後で必ず迎えに来るから」
「あお、頼む!」
牢屋から出た俺は、奥の扉をゆっくりと開けた。
薄暗い洞窟は奥に続いており、左手に鉄の扉が見えた。
扉に近づくと牢屋よりも装飾が派手な錠前が取り付けられていた。
──宝物庫だったりして。
俺は血刃で錠前を両断する。
少しの抵抗はあったが、錠前は真っ二つに切れて地面に落ちた。
「お、ビンゴ!」
扉を開いて中を覗くと、そこには盗賊団が集めたであろう財宝が所狭しと敷き詰められていた。
──どうせ全部盗品だろうし、一旦回収しておくか。
宝物庫の財宝を全てインベントリに収納し、薄暗い洞窟の先へ向かった。
「この薄暗さ、西の洞窟を思い出すな……あ、そう言えば、アレが使えるんじゃないか?」
俺はインベントリからシャドウベアーの魔石を取り出した。
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【シャドウベアーの魔石】<ハイド : Lv->
シャドウベアーの核。魔素が結晶化した物。
シャドウベアーの固有スキルを内包している。
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俺は右手に持った魔石から自分自身にハイドを
青い光に体が包まれるとゆっくりと光が消えた。
「なんだ!?」
光が消えると、周りから黒いモヤが溢れ出て、体を纏うように包み始めた。
──くそ……なんなんだよ、これ。
モヤを振りほどこうとするが、全く離れない。
「なんだ……一体何が起きたんだ……ッ!?」
自分の体を確認した俺は驚愕した。
「体が透けている……」
体も服も全てが透けていた。
「これがハイドか……けど、さっきの黒いのは何だったんだ?」
──いや、今考えても埒が明かないな……先を急ぐか。
俺は静かに洞窟の奥へと向かった。
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「ご主人様……?」
「おい、嬢ちゃん。どこ行くんだ」
牢屋から少女が出ようとしたのを男が止めた。
「さっきの兄ちゃんが戻るまで、ここ待っていなさい」
「きっと助かるからね?」
「違うの……」
「この嬢ちゃんの親か保護者はいないのか?」
男は牢屋の中に声をかけるが誰からも返事がない。
「あっ! 嬢ちゃん!」
男が目を離した隙に、少女は牢屋から出ると奥の扉へと走っていった。
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