第10話 連戦×血刃


「いッ!……てぇ……どこだ……ここ」


 起き上がろうとすると、胸から腹にかけて激痛が走った。身体中が熱い。

 今まで感じたことがない激痛で薄れる意識の中、ファイアボールを作り出す。

 マナの限界が近いのか、ファイアボールは小さく辺りを照らした。


 ──草?

 俺が落ちた場所には草が敷き詰められていた。どうやらこれがクッションになり助かった様だ。

 辺りを見回すと、近くに食べかけの腐った肉や骨が散乱し悪臭を放っていた。


 ──何かの巣か? 早く移動しないと……

 俺が痛みを堪えながら移動しようとした時、暗闇の奥で何かが光った。


『グルルルル……』

「またかよ……」


 暗闇の奥からゆっくりと近づいてきたのは、1匹の狼だった。牙を剥き出しにしてこちらを威嚇している。

 戦闘を覚悟した俺はベルトの短剣に手をかけようとした。

 ──短剣がない……?


 周囲に目をやると、近くに短剣が転がっていた。

 落下した衝撃で短剣がベルトから外れてしまったようだ。


 ゆっくり近づいてくる狼を刺激しないように、体を引きずるようにして短剣の方に移動をする。

 ──もう少しだ……


『グルァア!!』


 手を伸ばせば届くところに来た時、狼が飛びついてきた。

 押し倒された拍子に灯りが消え、辺りが闇に染る。


「ぐぁッ!」


 肩と太ももに狼の爪が突き刺さり、俺の動きを封じる。

 狼の生暖かい息が悪臭と共に顔を覆う。

 短剣に伸ばした左手は、指で触れるのが精一杯で取ることは出来そうにない。


 ──このままじゃ……殺される……


 狼が俺の首元に噛み付こうと、大きく口を開いた。


「うわあぁアアアッ!」


 俺は右腕を無理やり動かして拘束から逃れると、大きく開いた口目掛けて拳を振るった。

 狼は避けようともせず、その拳に歯を立てて食らいつく。

 狼の口から大量の血が吹き出し、俺の体を濡らす。

 狼はそのままゆっくりと、横に倒れると動かなくなった。


「なんとかなったか……」


 俺は狼の口から右手と短剣・・を取りだしながら呟いた。


 狼に噛みつかれる間際、左手でインベントリに収納した短剣を右手に取り出しながら拳を振るい、短剣で狼の喉奥を貫いた。


「はやく……出口を探さないと……ッ!」


 ふらつく身体で何とか立ち上がろうとした時、濡れた地面に足を取られ盛大に転んでしまった。

「これって、俺の血……? はは……ウソだろ、笑えねぇ……」


 地面を濡らしていたのは俺の血だった。

 熊の魔物にやられた傷から、血が止まることなく流れ出ていた。


 ──血を止めないと……

 俺は傷口を手のひらで抑えつけるが、血は止まらず溢れてくる。大量の出血で意識が朦朧とする。


 ──血が……血がいる……

 俺の思いとは裏腹に、周囲の血が青白く光り始めると、インベントリに収納され始めた。


 ──そうじゃないだろ……笑えねぇって……

 俺は青白い光に包まれながら、ゆっくりと意識を失った。


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


「何だこれ、洞窟の入口がめちゃくちゃじゃないか!」


 西の洞窟に辿り着いたレクスは洞窟の入口を見て声を荒らげた。

 洞窟の地面や壁の至る所がえぐられている。


「レクスさん。あそこ……何があったんでしょうか」


 全員の視線がサンクが指をさした壁に集まる。

 その壁は明らかに他とは損傷の程度が違っていた。


「何か大きな爆発があったのかしら……」

「そうだな。エレメンタルのファイアボールじゃ、ここまではならない」


 レクスは壁を触りながら呟いた。


「戦闘跡が奥に続いているみてぇだが、もしかしてアイツ、洞窟の奥に向かったのか?」

「エレメンタルに追われて奥に逃げ込んだのかもしれない……編成を崩さず俺の後ろを着いてこいっ!」


 4人は松明で暗闇を照らしながら、洞窟の奥に進んだ。


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


「ん……生きてる、のか? いッ!」


 どれだけ眠っていたのだろうか。

 身体を起こそうとすると全身に激痛が走った。

 痛みを堪えながら、自分の体をファイアボールで照らす。


「なんだ……これ?」


 胸から脇腹にかけて熊の爪痕が生々しく残っているが、その上を覆うように血が結晶の様に固まって流血を止めていた。

 

 ──俺の体に一体何が起こってるんだ? まさかこの世界の病気に感染したんじゃ……

 そうだ、状態異常ならステータスに表示されるはず。


 俺は解決策を求めて、ステータスを開いた。


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【名前/性別】クガ ユウヤ / 男


【レベル/Exp】Lv.11 / 751(Next:99)


【スキル】短剣:Lv.2 / 身体強化:Lv.1<0.3> / 縮地:Lv.1 / 生活魔法:Lv.- / 火魔法:Lv.1<0.2> / 水魔法:Lv.1<0.2> / 土魔法:Lv.1<0.2> / 風魔法:Lv.1 / 料理:Lv.5


【ユニーク(隠蔽)】転移者 / 鑑定 / 能力付与エンチャント / 血液操作ブラッドコントロール


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 ──状態異常にはなってないな……ん? 血液操作ブラッドコントロール

 ユニークスキルに新しいスキルが追加されていた。

 横に鑑定内容が表示される。


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血液操作ブラッドコントロール

 自身の血を操作することができる。

 操作は自身が触れている状態でしかできない。

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 ──この血の結晶はこのスキルのおかげか……これが無かったら大量出血で死んでいただろうな……


「血って言えば勝手にインベントリに収納されてたな……」


 俺は苦笑い混じりに言うと、インベントリを開いて確認した。


「これか?」


 インベントリには、『転移者の血液』の表示があった。鑑定すると。


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【転移者の血液】

 マナの伝導性が高い。主に魔剣の材料として使われる。


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 ──魔剣……ってことは、この世界に魔剣があれば他に転移者が来ている可能性があるってことだよな。

 元の世界に帰る手がかりになるかもしれない!


「っと、その前に街に帰らないとだが、この高さは……無理そうだな……」


 俺は動かない体で寝転びながら、自分が落ちてきた崖を見上げて呟いた。


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 あれから何日経ったかわからないが、動かない体を休めるために、真っ暗な洞窟で狼の寝床に寝転びながらじっとしていた。


「もうすぐ食料も無くなりそうだな……」


 俺はインベントリを眺めながら呟いた。

 水は生活魔法のおかげでどうにかなっているが、食料は残りわずかだ。


 ここで休んでいる間、ステータスにも色々変化があった。


-----------


【名前/性別】クガ ユウヤ / 男


【レベル/Exp】Lv.11 / 751(Next:99)


【スキル】短剣:Lv.2 / 料理:Lv.5 / 身体強化:Lv.2<1.2> / 威圧:Lv.1 / 縮地:Lv.1 / 火魔法:Lv.2<0.4> / 水魔法:Lv.1<0.8> / 風魔法:Lv.2<0.2> / 土魔法:Lv.1<0.6> / 生活魔法:Lv.-


【ユニーク(隠蔽)】転移者 / 鑑定 / 能力付与エンチャント / 血液操作ブラッドコントロール


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 スキルのレベルが全体的に上がった。

 寝ているだけで暇だった俺は、ステータスを常に確認していて能力付与エンチャントの効果が何となく分かった。

 どうやら、能力付与エンチャントで付与された能力はバフではなく、取得される。つまり時間制限はないということだ。

 そして、レベルの横に表示される数字だが、これは経験値や熟練度みたいなもので、一定の数値になるとスキルのレベルが上がるようになっていた。

 熟練度が1.0になった時に、スキルがLv.2になり熟練度は0に戻った。

 身体強化の数値がLv.2<1.2>なのにLv.3に上がっていないのは、レベルにより必要な熟練度が違っているのだろう。


 さらに硬質強化だが、硬質強化Ⅲを作ることに成功した。この能力付与エンチャントは重ねがけをすることで能力が向上するようだが、重ねがけには条件があった。

 それは同じレベルでないと重ねがけできないことだ。

 今の短剣は硬質強化Ⅲになったことで重さも増したが、身体強化がLv.2になった俺にはちょうどいい重さになった。

 硬質強化がどこまで重ねがけできるのか、石ナイフで試して見たが、ⅤがMAXらしい。

 今の石ナイフは硬質強化Ⅴが能力付与エンチャントされ、重さは体感で10kg近くありそうだ。


 それと鑑定をして分かったが、この寝床の主である狼の魔物はブラッドウルフと言うらしい。

 名前からして血液操作ブラッドコントロールの持ち主はブラッドウルフだろう。

血液操作ブラッドコントロールが手に入った経緯は分からないが、結果的にブラッドウルフのおかげで助かったということだ。


 身体が動くようになってからは、この血液操作ブラッドコントロールについて色々試して見た。

 結論から言うと血液操作ブラッドコントロールは、転移者である俺とかなり相性が良かった。


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 ──魔剣に使われる素材なら、血液その物で剣を作れば魔剣並の物になるかもしれない!


 そう思った俺は、インベントリに収納した血液で剣を作ろうとしたが……

 血液は思った以上に少なく、剣の形を作ることが出来なかった。

 最終的に出た答えは、短剣の刀身を血液で覆った血刃けつじんだった。


 試しに、近くにあった岩に斬りこんでみると──


「なんだよ……これ」


 ほとんど抵抗なく、岩が切断・・された。

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