第9話 魔法×乱戦


「笑えねぇ……初級魔法でこの威力かよ……」


 初めて放った魔法は、エレメンタル諸共、洞窟の壁を吹き飛ばした。


 昨晩の料理に火のエレメンタルの粉末を使ったことで能力付与エンチャントされたらしく、今朝ステータスを確認した時に『火魔法』が追加されていた。

 ファイアボールは火魔法の中でも初級程度の魔法で魔法書に記載されていた。


 俺がファイアボールの威力に唖然としていると、土煙の中から、赤、青、茶の3色のエレメンタルが飛び出してきた。

 咄嗟に岩陰に隠れると、エレメンタル達は辺りを散策するように浮遊し始めた。

 ──俺を探しているのか?

 目があるようには見えないが、なにか感知能力を持っているのかもしれない。


 俺は岩陰に隠れながらゆっくりと移動して行く。

 さっきまでエレメンタルたちがいた場所を確認すると、地面に転がって動かなくなった風のエレメンタルが見えた。

 ──倒せたか確認のために鑑定しておくか。


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【エレメンタルの外殻(風)】<風魔法Lv.0.2,硬質強化Ⅱ>

【料理補足】酸味


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 レベルやランクの表記がなくなり、料理補足が表示されていた。

 ──硬質強化Ⅱか、どうりで硬いわけだ。あれを回収して一旦洞窟から離れるか。


 俺は地面に転がるエレメンタルに向かって一直線に走った。

 走り抜けるようにエレメンタルをインベントリに回収し、洞窟の出口に視線を向けた。


「ちょっ……」


 視線の先では、出口を塞ぐように火のエレメンタルがファイアボールを放とうとしていた。

 俺は近くの岩陰に飛び込んだ直後、エレメンタルが放ったファイアボールが、俺がいた場所に直撃し小さな爆発を起こした。

 ──威力が小さい……


「なッ!?」


 岩陰に隠れ安心したのも束の間、気配を感じ咄嗟に上を見ると、水のエレメンタルがアクアボールを展開していた。


「……笑えねぇって!」


 俺は洞窟の出口に向かって力任せに走った。


 火、水、土のエレメンタルが俺に向かって魔法を放つ。

 初級魔法のファイアボール、アクアボール、サンドショットが次々に地面や壁に直撃する。


「はぁ……」


 何とか洞窟の外に出たところで魔法の雨が止んだ。

 俺は恐る恐る、洞窟を覗き込む。


 どうやら、乱発された魔法でお互いにダメージを受けたらしく、土のエレメンタルだけが浮遊し、火と水のエレメンタルは地面に転がっていた。

 相性の悪い魔法でもある程度のダメージは与えれるらしく、土のエレメンタルもボロボロだ。


 ──相手は残り1体……試してみるか……


 俺は短剣を抜いて構える。


「ふぅ……」


 地面を蹴り、土のエレメンタルに一直線に走る。

 俺に気づいたエレメンタルは、すぐさま魔法を展開させた。


 俺は全身の勢いを殺さず、縮地・・を発動。エレメンタルの背後に回り込んだ。

 エレメンタルが放ったサンドショットが、ついさっき俺がいた場所の地面を抉る。


 俺はエレメンタルの背後から短剣を力任せに振り下ろした。

 耳をつんざくほどの音が鳴り響き、エレメンタルは地面に落ち動かなくなった。

 縮地はレクスとの模擬戦で取得したのか、いつの間にかステータスに含まれていたので使ってみたが、かなり使い勝手が良さそうだ。


 地面に落ちたエレメンタルに目をやると、外殻には無数のヒビが入っていた。


「これじゃ、斬ったって言うより叩き割ったって感じだな。ダメージが入ってなかったら短剣の方が折れてたかもな……」


 呟いた俺は、手元の短剣をホルダーになおしてエレメンタルをインベントリに回収した。


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 俺は洞窟から少し離れた場所で、回収したエレメンタルを取り出す。

 明るい場所で見るとエレメンタルは、まるで宝石のような透き通った鮮やかな色をしていた。


「これを粉末にすればいいのか?」


 俺はインベントリから硬質強化付きの石ナイフを取り出して、風のエレメンタルに叩きつける。

 魔素を失ったエレメンタルの外殻は脆くなっているのか、表面が削れ破片が地面に落ちた。

 エレメンタルの破片を手に取り、舌の上で転がしてみた。


「酸っぱ!」


 舌がヒリヒリするほどの強烈な酸味が口全体を襲った。

 他のエレメンタルも同じように砕いて、味を確認すると、どれも味が濃く食べれたものじゃない。


「こんな大味じゃ調味料として使えないぞ……あっ、そうだ溶かせば調整できるか?」


 俺は、インベントリから街で買っておいた小さい鍋を取り出した。


「ついでにこのまま昼飯にするか」


 気がつくと、太陽がかなり上の方まで上がってきていた。

 腹も少し減ってきていたので、少し早いが昼飯にすることにした。


 近くに落ちている木の枝を集めて、指先を枝に近づける。


「おっ! できた!」


 指先に魔法陣が現れ、ライター程の火が点いた。

 火が燃え移ると、木の枝はパチパチと音を立てて火を大きくしていく。


 俺は焚き火の周りに大きめの石を並べて、鍋を置く。


「次は水だな……」


 鍋に手をかざしイメージすると、手のひらに魔法陣が現れ、鍋に水が注がれた。

 魔法書に書かれていた生活魔法の1つだ。

 飲水としても使えるそうだが、飲みすぎると魔素中毒になるらしい。

 魔素中毒が何かは分からないが、要は飲みすぎなければ問題ないのだろう。


 火と水と風のエレメンタルの欠片を適量溶かし、水分を蒸発させながら煮詰めていき、土のエレメンタルを少量加えて味を整える。

 別のフライパンで、小さくカットしたホーンラビットの肉を焼いていき、先程煮つめたタレをかければ『ホーンラビットの照り焼き風』の完成だ。


「いただきます」


 煮詰めている間に作った、木枝の箸で肉を口に運ぶ。


「んー美味いんだけど、酒とかみりんがあればな……」


 少し物足りなさはあるが、甘辛いソースが肉に染み込み旨味を閉じ込めており、噛む度に白飯が欲しくなるほど美味かった。

 食事を終えた俺は、ステータスを確認する。


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【名前/性別】クガ ユウヤ / 男


【レベル/Exp】Lv.9 / 401(Next:103)


【スキル】短剣:Lv.1 / 料理:Lv.5 / 身体強化:Lv.1<0.3> / 威圧:Lv.1 / 縮地:Lv.1 / 火魔法:Lv.1<0.2> / 水魔法:Lv.1<0.2> / 土魔法:Lv.1<0.2> / 風魔法:Lv.1 / 生活魔法:Lv.-


【ユニーク(隠蔽)】転移者 / 鑑定 / 能力付与エンチャント


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「スキルも増えてきたな。それにしても、このレベルの横に出てくる数字はなんなんだ?」


 身体強化の横の数字は0.3に上がり、火魔法には今朝は無かった0.2の表記がされていた。

 ──能力付与エンチャントした能力の効果が切れる気配がないのも気になる……


「とりあえず、魔法も一通り手に入ったしもう少し倒してみるか」


 俺は、ステータスに疑問を残しながらも再度洞窟に足を踏み入れた。


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


「お前たち準備はいいか?」

「あぁ、もちろんだ」

「私も問題ないわ」

「僕も大丈夫です」


 カタクの西門でレクス達4人の冒険者が集まっていた。


「マスターから話があったと思うが、今朝方ユウヤが西の洞窟に向かったそうだ」

「西の洞窟っていやぁ、エレメンタルがいるとこだよな?」

「どうしてあんな場所に向かったんでしょう」

「きっと他に受ける依頼がなかったんじゃない?」


 レクスが説明すると、カトル達は口々に喋り始めた。


「どうしてあいつが西の洞窟に向かったかはわからないが、ユウヤの安否確認と捜索が今回の目的だ。

そのためにユウヤの顔を知るお前たちを呼ばせてもらった」

「でも、私達が行ったところでエレメンタルを倒すのは無理よ?」

「心配するなエレメンタルの相手は俺がする。こいつがあれば魔法が使えなくても問題ないからな」


 レクスは腰に携えた片手剣に手を置きながら笑みを浮かべた。


「それに、西の洞窟はエレメンタルだけが危険な理由じゃないのは知ってるだろ?」

「そうですね。近づく冒険者が少ないので被害は少ないですが、洞窟の奥にはシャドウベアーがいますからね」

「ユウヤが洞窟の奥まで行ってたら面倒だってことか……」

「そういう事だ。戦闘は全て俺が請け負う。お前たちは捜索に集中しろ」

「「「はいッ!」」」


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


「こんなもんか?」


 洞窟内で魔法を放ち続けて、約1時間が経った頃。インベントリ内のエレメンタルは200は軽く超えていた。


「外殻1つで銀貨5枚だから……こいつらが、金貨10枚以上になるわけか」


 俺はインベントリを見ながら呟いた。

 ──今朝は無一文でこれからの生活が不安だったが、この調子なら問題なさそうだな。


「それにしても何だか、体がだるいな……」


 体力的にはどうと言うことはないが、少し前から気だるさを感じていた。

 ──これが魔法書に書かれていたマナの使い過ぎってやつかもしれないな。早めに戻るか。


「初級魔法でも数十発程度打てばマナ不足になるって書かれてたけど結構いけたな。

って、あれ……出口ってどっちだ?」


 辺りを見渡したが、出口の明かりがどこにも見えなかった。

 エレメンタルの明かりを頼りに進んでいるうちに、いつの間にか洞窟の奥まで来てしまっていたようだ。


 「残りのマナが気になるが、スマホを使う訳にもいかないし仕方ないな……」


 俺はファイアボールを唱えて手のひらに維持する。

 手のひらに現れた火の玉が、辺りを薄暗く照らした。


「無いよりかはマシだな」


 俺は辺りを照らしながら、戦闘の跡を辿るように来た道を戻る事にしたが──


「あー、さっきの別れ道は逆だったか……」


 手前の分かれ道で間違えてしまったらしく、目の前には地面が崩落したのか大きな穴が空いていた。

「これは、落ちたらタダじゃ済まないな」


 穴を照らしてみたが、暗い闇が続いているだけで底は見えなかった。


「──!?」


 気配を感じて、後ろを振り向いた俺は言葉を失った。2m以上はあるであろう黒い熊が、目の前にいた。

 俺は1歩後ずさるが、それより先は崖だ……


『──グオォアァァァ!!!』


 熊の咆哮で大気が震える。

 恐怖で動けない俺に、熊の爪が振り下ろされる。


「ぐはぁっ!」


 俺は吹き飛ばされた。胸に感じる激痛と霞む視界の中、右手のファイアボールを熊に向かって投げつけた。


『グオァァッ!!』


 熊の目を焼いたファイアボールが消えると、辺りは暗闇に覆われた。


「ざまぁみろ……」


 俺は奈落へと落ちていく中、小さく呟きながら意識を手放した。

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