第6話 実技試験×ゴールドクラス

 

「ユウヤさん、お待たせ致しました」


 掲示板で依頼書を眺める俺に、受付嬢が近づき声をかけた。


「試験の準備が整いました。ご案内致しますのでこちらへどうぞ」


 職員についていくと、受付窓口の横にある扉からギルドの地下に降りられるようになっていた。

 長い階段を降りると地下闘技場があり、周囲には観客席が設けられている。

 地下でも明るいのは、街灯と同じ原理なのだろう。天井に灯りが取り付けられていた。

 闘技場は円形で直径50mほどと広い。中央には男が1人、鋭い目でこちらを見つめ仁王立ちしていた。


「お前が受験者か!俺はゴールドⅢのレクスだ!」

「俺はユウヤと申します。レクスさん、今日はよろしくお願い致します」


 俺は勢いよく頭を下げた。


「ぶっ……くっくく──」


 頭をあげると、レクスさんが笑いをこらえて震えていた。


「えっと……」

「悪い悪い、お前の喋り方がおかしくてついな……

 冒険者は学が無いやつが多くてな、お前みたく丁寧なやつは珍しいんだ。

 ちなみに俺のことはレクスでいいぞ。言葉も無理しなくていい」

「そう言ってくれると助かる」

「よし!気を取り直して試験を始めるぞ。主要武器は短剣か。俺の得物はこいつだが問題ないか?」


 そう言ってレクスは背中の大剣を抜いて見せた。


「実戦で相手の武器まで選べないだろ?」

「そりゃそうだ」


 レクスは大剣をゆっくりと中段に構えた。

 俺はベルトから短剣を抜いて腰を落として構える。


「ほう。基本に忠実な良い構えだ」


 レクスが大剣を構えながら笑った。

 レクスと視線が交差する。

 ──どう攻めてくる……どんなスキルを持ってる……


 -----------


【名前/性別】レクス / 男


【レベル/Exp】Lv.72 / 834058(Next:65604)


【スキル】片手剣:Lv.8 / 大剣:Lv.6 / 身体強化:Lv.7 / 威圧:Lv.5 / 縮地:Lv.6 / 毒耐性:Lv.4 / 生活魔法:Lv.-


 -----------


 視界の端にレクスの鑑定結果が表示された。


 ──ッ!? 人を鑑定することも出来たのか。

 大剣を構えているが、片手剣の方がレベルが高い。たかが試験に本気は出さないということか。

 それよりも縮地というスキルが気になる……


 -----------


 〖 縮地 〗

 距離を瞬時に移動する。

 レベルにより移動できる距離が変わる。


 -----------


 ──大剣を持っているのに機動力まであるのか……

 俺とはかなり実力差があるが、これは殺し合いじゃない、負けるのが前提の戦いだ。

 できるだけのことはやってみよう。


「どうした、来ないならこっちから行くぞ?」

「ッ!?」


 レクスが一蹴りすると一瞬で距離を詰め大剣を振りかぶった。

 俺は後ろに飛んで回避すると、俺がいた場所にレクスが横一線に大剣を振り切った。

 身体強化で上がったスピードでレクスを中心に周りながら隙を探る。


「大したスピードだな。だが、走ってるだけでその距離からじゃ何も出来ないだろ。時間と体力の無駄だ」

「それはどうか、な!」


 俺はインベントリから石ナイフを取り出してレクスに投げつけた。

 ボアモスを一撃で仕留めた硬質強化Ⅱの石だ。当たれば少なからずダメージは入るはずだ。


「うおっ!どっからそんなもん取り出しやがった」


 不意を着いて投げた石ナイフはギリギリの所で躱かわされてしまった。

 俺はそのまま走り続け地面に転がった石ナイフを回収すると、次は力いっぱいに投げつける。


「飛んでくるのが分かっていれば、たたき落としちまえば終いだ!」


 レクスは大剣を振り下ろすと、石ナイフは火花を散らしながら、鈍い音を立てて地面にめり込んだ。、


「んだこの石……重すぎだろ」

「本命はこっちだ!」


 石に気を取られたレクスの背後を取った俺は、手に持っている短剣で思いっきり斬りつけた。


「甘いッ!」


 鉄と鉄がぶつかり合う鋭い音が闘技場に響く。

 レクスは大剣を振り下ろした状態から、背中に大剣を回して俺の短剣を受け止めてみせた。

 俺はすぐに距離を取って体勢を立て直す。


「ッ!?」


 レクスが一瞬にして目の前に現れた。

 ──これが『縮地』か!


 俺は慌てながらも力いっぱい後ろに飛んだ。

 レクスが横一線に振った大剣が、俺の服を切り裂きながら腹部を通り抜ける。


「へぇ、今のを避けるのか」

「ギリギリだったけどな……」


 ──笑えねぇ……模擬戦でここまでするか、普通。

 縮地を鑑定で知ってて警戒していたからこそ反応できたが、知らなかったら体が動かなかったぞ。


「おもしれぇ! 次はどんなのを見せてくれるんだ?」


 レクスは楽しそうに笑みを浮かべて聞いてきた。

 ──くそッ……楽しんでやがる……


「そこまでじゃ!!」

「 「!?」 」


 闘技場に老人の声が響いた。

 俺とレクスが声の方を見ると、白髪の老人が立っていた。

 老人と言っても、筋肉は盛り上がり体つきからは歳を感じない。白髪じゃなければ老人だなんて思われないだろう。


「マスター! なんで止めるんだ! これからじゃねえか!」


 レクスが老人に向かって叫んだ。

 どうやら、この人がここのギルドマスターらしい。


「この阿呆が! これは模擬戦じゃ! 将来有望な若者を潰す気か!」

「あ、悪い……忘れてた、ハハハ……」


 ──マジかよ、あれ避けれてなかったらマジでやばかったんじゃ……


「レクスをそこまでさせるような奴なら、合格で問題ないじゃろ。レクス、話があるから後でわしの部屋まで来なさい」

「わーたよ……ユウヤ、また機会があれば続きをやろうぜ!」


 そう言うと、レクスは闘技場から出ていった。


「エル。あとの手続きは頼んだぞ?」

「は、はい!承知しました。では、ユウヤさん。私達も上に戻りましょうか」


 俺はエルと呼ばれたギルド職員に言われ、闘技場を後にした。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


「はいッ! こちらがユウヤさんのギルドプレートです。先程の戦い凄かったですね!

 ゴールドクラスとあそこまで戦えるならユウヤさんはすぐに昇格しちゃうかも知れませんね!」


 実技試験での戦闘を見てから、受付嬢がちょっと興奮ぎみだ。

 受付に戻ってきた俺は、受付嬢からギルドプレートと呼ばれるアイアンのタグを受け取った。

 ギルドプレートは、セットが見せてくれたプレートと同じもので、俺の物には『V』と書かれていた。

 プレートの裏には、俺の名前と『カタク支店所属』と書かれている。


「ありがとう。えっと·····」

「あ、失礼しました。私はエルと申します。改めてよろしくお願い致します」

「こちらこそよろしく」

「それでは、ギルドについての説明をさせていただきます。少し長いですが、規則ですので──」


 そう言って、サンクから聞いたギルドについての説明を詳細に話し始めた。

 新たに得た情報としては、ギルドプレートは依頼の受注、完了報告には必ず必要となるらしく、各ギルドにある魔導具にかざせば、過去の依頼履歴などを確認することが出来ることぐらいだ。


「……と言うことです。もしわからないことがあれば、いつでもギルドに聞きに来てください。今日から依頼を受けることも出来ますが、どうなさいますか?」

「今日は1度休んで、明日から依頼を受けるよ」

「それは賢明な判断ですね。今日はゆっくりお休み下さい」


 エルさんと話を終えた俺は、ギルドを後にした。

 外に出ると太陽は少し傾き始めていた。


「腹減ったな。そう言えば朝からなんも食べてないな……まずは宿に向かうか」


 俺はセットに言われた『狐の尻尾亭』を目指して歩き始めた。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


「マスター、話ってなんだ?」

「彼奴をどう思う?」

「ユウヤのことか?んー俺の縮地を避ける反応速度は大したもんだが、戦略がまだまだだったな」

「でも、レクスさんといい勝負をしているように見えましたけど?」


 レクスの評価にエルが口を挟んだ。


「俺も本気じゃ無かったからな。ただ、ユウヤはまだまだ成長すると思うぞ。かなりの逸材だ。

 いずれこいつでも戦ってみたいな」


 レクスは腰に携えた片手剣に手をかけながら笑みを浮かべた。


「そうじゃな、彼奴は見た限りシルバークラスの実力はありそうじゃ。して、エル。情報は掴めたか?」

「はい。一緒にいた冒険者からの情報なんですが、どうやら記憶喪失らしく数日前から西の森で遭難していたそうで……」

「ふむ、素性は分からずか……しばらく彼奴の担当につけるか?」

「わかりました。もう少し情報を集めてみます」

「あぁ、頼んだぞ。西の森か……まさか、ウリタカントから森を抜けて来たのか?」


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


「ここか……やっと見つけた」


 ギルドから歩いて10分ほどの場所に宿はあったが、見つけるまでかなり歩き回り、太陽は完全に落ちてしまった。

 大通りから少し外れた裏路地にあったのもそうだが、見慣れない似たような建物ばかりなのも見つけにくかった原因だろう。

 店名にもなっている狐の尻尾をモチーフにした看板がなければ見つけられなかったかもしれない。

 俺は宿の扉を開いて中に入った。


「いらっしゃいっ!」


 扉を開くと、ホールの奥にあるカウンターから、少し丸みのあるおばさんが出迎えてくれた。

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