第5話 冒険者ギルド×初めての武器
「ホントに何にもわからないんだねー」
街を歩く道中で目につくものを色々聞いていると、セットに呆れるように言われた。
しかし、街は知らないもので溢れているので仕方ない。
例えば、道の脇に立っている街灯。これは魔導具と呼ばれる物で魔力をエネルギーにして辺りを照らす仕組みらしい。
他にも馬車を轢く生き物は見た目は馬だが、鹿のような角を持ち、体が鱗に覆われている。
フールと呼ばれる魔物らしいのだが、飼い慣らされた従魔で人を襲うことはないそうだ。
また、時折鳴り響く鐘の音は街唯一の時計らしく1日に8回、時間を知らせる鐘が鳴るらしい。
「着きましたよ。ここが冒険者ギルドです」
サンクに言われた先を見ると、盾の前に剣と槍が交差した大きな看板を掲げた建物があった。
看板の下には『冒険者ギルド』と書かれている。
サンクが扉に手をかけてゆっくりと開いた。
中に入ると、数人の視線がこちらに集まったが、すぐに散っていった。
ギルドの中は思っていたよりも広く、左には受付と書かれた看板に窓口が5つ並んでいる。
右には大きなカウンターがあり、素材買取と書かれた看板が立てかけられていた。
中央には2階に続く階段とボードがあり、紙がちらほらと張り出されている。
「ユウヤはこれからどうするの?」
入口で突っ立っている俺に、セットが話しかけてきた。
「そうだな……なにか思い出すまではこの街にいようと思ってる」
「それでは職探しからですね。料理スキルを持ってるようですし、飲食店で働いてみてはどうですか?」
「それもいいんだが、冒険者登録の試験を受けてみようかと思ってるんだ」
「ふんッ! まぐれでボアモスを倒したからっていい気になるなよ? 俺は報告を済ませて宿に戻る。素材の換金はお前たちで済ませといてくれ」
カトルはそう言うと、荷物を手渡して受付の方に歩いて行ってしまった。
「まったく……ごめんね。あいつのことで気を悪くしないでね」
「カトルは負けず嫌いですからね。自分と同い年ぐらいのユウヤさんに嫉妬してるんだと思います」
「そうそう。あいつは放っておいて、素材を買取ってもらいにいきましょ」
3人は昔からの知りないなのか、お互いのことはよく分かっているようだ。
俺はセット達の後ろを歩いて、買取カウンターへ向かった。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
「ん? セットにサンクじゃないか。今日は昇格試験に行ったんじゃなかったか?」
カウンターに着くなり、セットたちがガタイのいい男に話しかけられた。
「それが、道中でボアモスに襲われちゃって……」
「ボアモスだと!? ……無傷のようだな。無事に逃げきれるなんて運が良かったな」
「ううん。ボアモスはこのユウヤが倒してくれたから助かっただけよ」
「ユウヤさんがいなかったら今頃どうなっていたかわかりませんね」
セットとサンクはあの時を思い出しているのか、少し青い顔をしていた。
「ユウヤってのはお前か? 1人でボアモスを倒すなんてすごいじゃないか。ここらじゃ見ない顔だがどこから来たんだ?」
「あーえっと──」
「そんなことより、このボアモスの素材を買取って貰える?」
俺が経緯を説明しようとすると、セットが割り込んで、ボアモスの素材を袋ごとカウンターに置いた。
「あぁ、悪い悪い。確かにボアモスの素材で間違いないな。金額つけてくるからちょっとまっててくれ」
男は中身を確認すると、袋を4つ抱えて奥の部屋へと入っていった。
「聞かれる度に説明してたんじゃキリがないわ」
「それもそうだな。助かったよ」
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
俺たちが雑談していると、奥の部屋からガタイのいい男が戻ってきた。
「お待ちどうさん。ボアモスの皮は外傷が少なかった分上乗せしといたぜ。これが買取金だ」
男はカウンターに小さな革袋を置いた。
受け取ったセットはその場で数え始めた。
「ありがと。えっと……銀貨50枚ね」
「それでは、ユウヤさんの取り分は25枚ですね」
サンクは革袋に銀貨を25枚戻して、俺に手渡した。
「ありがとう」
「思ってたよりも多かったわね」
「そうですね。これもユウヤさんが一撃で仕留めてくれたおかげですね」
「ユウヤはこのあと冒険者登録に行くのよね?」
「あぁ、そのつもりだ」
「それでは、先に武器屋に行ったほうがいいですね」
「武器屋?」
「試験は、ギルド職員か現役の冒険者との対人戦ですから丸腰では辛いと思いますよ」
どうやら冒険者登録の試験は対人戦だったらしい。
──人と戦うことなんて出来るだろうか……少し不安になってきた。
「ギルドの武器屋なら安くて状態のいい物が揃ってるわ。こっちよ、着いてきて」
俺はセットに連れられて、ギルドの中央にある階段で2階に上がった。
2階には武器屋と防具屋があったが、防具屋は閉まっているのか、店内には人影が見えなかった。
武器屋に入ると、様々な武器が目に入った。
左右の壁に剣や槍などの長物の武器が置かれたガラスケースがあり、中央のテーブルにも様々な武器が陳列されていた。
奥にはカウンターがあり、無精髭を生やした男がいた。
「いらっしゃい! お、セットにサンクじゃないか。今日はどうした? 武器の整備か?」
「今日はユウヤさんの武器を選びに来ました」
「新人冒険者だから安くしてあげてね?」
「ほぅ、新人かい。どんな武器が好みだ?」
武器の好みを聞かれても、今まで持ったことがないので分からない。
見た感じ、店内には片手剣、大剣、短剣、槍、斧、弓、籠手などあるが……
「俺はどんな武器が合ってると思います?」
「ん? 変なことを聞く兄ちゃんだな。今までどんな武器を使ってきたんだ?」
「ユウヤさんはまだ武器スキルを持ってないんです」
「なるほどな。それじゃ兄ちゃん、こっちきて手を見せてみろ」
俺は言われた通り、手のひらを広げて見せる。
髭面の男は俺の手を一通り触り始めた。
「……女みたいな細い手だが、ナイフか何か小さい物を握ってきた手をしてるな」
「手だけでわかるんですか?」
「この道30年だ。いろんな冒険者を見て来たからな。兄ちゃんに合ってる武器は片手剣か短剣、篭手ってとこだな」
「それじゃ、その3つで初心者でも扱いやすい物を見せて貰えますか?」
「おう。待ってな」
そう言うと、男は店内を動き回り、それぞれの武器をカウンターに置いた。
「片手剣は銀貨15枚、短剣は銀貨10枚、篭手は銀貨12枚だ。この中でオススメは短剣だな。兄ちゃん一回持ってみろ」
店主に言われ、短剣を手に持つと自然と手に馴染んだ。
短剣は刃渡り20cm程で包丁とほとんど変わらない長さだが、持ち手が包丁よりも持ちやすく作られているようだ。
──少し軽く感じるが、こんなものなのか?
「いい感じじゃねぇか。それにするか?」
「それじゃ、これで」
「このままじゃ持ちにくいから、サービスでベルトとか付けてあげてくれる?」
「しゃあねぇな。兄ちゃん、これからもウチをひいきにしてくれよ?」
そう言ってカウンターの下からホルダー付きのベルトを取り出した。
俺は銀貨10枚を支払い、武器屋をあとにした。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
「ありがとな。色々助かった」
「ユウヤさんは僕達の命の恩人ですからね。これぐらいは当たり前です」
「私たちは『狐の尻尾亭』って言う宿に泊まってるわ。街に入ってきた門の近くだから、来た道を戻ればわかると思うわ」
「街の外で話した格安の宿なので、試験が終わったら是非泊まりにきてください」
「それじゃ、私たちは宿に戻るわね」
「遅くなりすぎると、またカイルがうるさいので」
「試験、頑張ってねー」
2人はそう言ってギルドから出ていった。
見送ったあと、受付の方に目をやると、金髪の女性ギルド職員と目が合った。
受付に座っている彼女は俺を見てニコリと笑った。
「よし、登録を済ませるか……」
俺はポケットから通行証を取り出して受付に向かった。
「すみません、冒険者登録したいんですけど」
「はい、登録ですね。身分証はお持ちですか?」
「通行証でも大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。ではまず、こちらの登録用紙に記入をお願いします」
ニコニコと対応をしてくれる受付嬢に通行証を手渡し、登録用紙に『名前、年齢、性別』などを記入していく。
『主要武器』の記入欄があったので、とりあえず短剣と書いた。
日本語を書くようにスラスラと知らない文字を書くことに違和感を覚えながらも、用紙の記入欄を埋めて受付嬢に手渡した。
「ありがとうございます。それでは、こちらの板に手をかざして下さい」
門で見た解析板よりも分厚い黒い板が出てきた。
俺がゆっくりと手をかざすと、黒い板に文字が浮かび上がる。
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<未登録者>
【所属ギルド】不明
【年齢】不明
【性別】不明
【レベル】Lv.8
【スキル】短剣:Lv.1 / 料理:Lv.5 / 身体強化:Lv.1 / 威圧:Lv.1 / 生活魔法 :Lv.-
-----------
「はい。ありがとうございます」
「ん?」
「どうかされましたか?」
「いえ、大丈夫です」
「そうですか」
解析板に表示されたスキルに『短剣』が入っていたのを見て思わず声を出してしまった。
1度手に持っただけだが、スキルが手に入った様だ。
これも、転移者の能力だろうか。
「登録が終わりましたら実技試験を受けていただきますが、本日受けられますか?」
「はい。お願いします」
「それでは、先に実技試験の説明をさせていただきますね。試験は、これから冒険者としての実力を見るために、現役冒険者かギルド職員と模擬戦を行っていただきます。
試験費用として銀貨2枚が必要となります。
模擬戦とはいえ怪我を負うことも有り得ますが、その際の責任は自己責任となります。
武器の持ち込みを推奨しておりますが、こちらも破損等の責任は自己責任とさせていただきます。
また、相手を殺してしまうと処罰の対象となりますので、毒などを使われる場合はお気をつけください」
緊張しているのか、背中に嫌な汗をかきはじめた。
──ついに対人戦か……
「気分が優れないようでしたら別日でも構いませんが?」
「いえ、大丈夫です。お願いします」
「かしこまりました。それではこちらの契約書にサインをお願いします」
手渡された契約書には、職員が話した内容が書かれていた。念の為内容を確認し、サインをして職員に返す。
「それでは、試験の準備が出来ましたら声をおかけしますので、ギルド内でしばらくお待ちください」
「わかりました」
俺は、時間を潰すために依頼書が貼られる掲示板に向かった。
「あまり貼られてないんだな」
掲示板には依頼書が数枚貼られているだけで、少しイメージと違った。
依頼書には依頼内容と達成条件、報酬が書かれている。
「ん? この依頼書は……」
他の依頼書とは違い、かなり古びた依頼書が目に止まった。
その依頼書には
『四つの迷宮を攻略し宝玉を集めし者の願い叶えん』
と書かれているだけで、依頼者や報酬については何も書かれていなかった。
「ユウヤさん、お待たせ致しました」
呼ばれて振り返ると、先程の受付嬢が立っていた。
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