第6話 まものの森
一年後。
「一年ぶりだな、勇者よ」
「いや、L1NEでしょっちゅうやり取りしてたじゃねーか」
「そマ?」
「とぼけんじゃねえ。さっきも『後、1時間で着く』『り』ってやったばかりだろ」
「ぴえん」
「完全に若者言葉使いこなしてるよなっ! おまえ、魔王だよな? それでいいのかっ?」
「それな」
「なんかムカつくな(実はギャップ萌えしてることは魔王には内緒だ)」
「安心せよ。L1NEはお主としかしておらん」
「…………なんの安心だ。まあいい、戦うぞ」
――戦いの果てに。
「オイ、魔王! 強くなってねーぞ。つーか、むしろ、一年前より弱くなってんじゃねーか」
「ギクッ」
「この一年、なにしてた?」
「ぴゅーぴゅー」
「下手な口笛でごまかしてんじゃねえ!」
「…………」
「はあ、怒らないから、正直に言ってみろ」
「…………『まものの森』やってた」
「なんだそりゃ?」
「まものが住む村の住人になって『すろーらいふ』するゲームだ。えっへん」
「なんで、おまえが得意げなんだよ」
「勇者がL1NEを教えてくれてから、妾は『でぢたる』に詳しくなったのじゃ」
「それでゲームを知って、ハマったと」
「そうである。勇者もやらぬか? 楽しいぞ、『まも森』は」
「いや、俺はそういうの苦手だ」
「構わぬ構わぬ。始めは誰でも初心者。妾でも出来たのだ」
「でもなあ、勇者がピコピコやってるのも外聞が悪いしなあ。L1NEしてるだけでも、お偉いさんから『勇者らしくない』ってチクチク言われるし」
「勇者よ、良いことを教えてやろう。『まも森』は通信プレイが可能じゃ」
「なぬっ!?」
「離れておっても、一緒にゲームで遊べるのじゃ」
「……まあ、そこまで言うのなら、やらんでもない」
「約束じゃぞ(勇者と一緒にゲーム、うふふふ)」
「ああ、わかった(誰かと一緒にゲームか。もともと修行漬けの灰色の人生だ、悪くないかもな)」
「なあ、勇者よ」
「なんだ?」
「さっきはなぜ殺さなかった?」
「…………」
「弱体化した妾なぞ、お主の剣で一刀両断であろうに」
「……弱くなった魔王を倒しても意味ない」
「ほほう。では、妾は弱ければ、殺されないのか。ふ〜ん、それは良い事を聞いたのう」
「そういうわけじゃ……」
「それでは、妾は自分の身を守るために、これからはよりいっそうグータラしようではないか。はっはっは」
「(今さら殺せるかよ……)」
「しかし、お主の役目は魔王討伐、それを蔑ろにしていて良いのか? そなたの立場がマズいのでは?」
「まあ、本当なら、おまえを殺すべきなんだろう。だけど、今はおまえが魔族の侵攻を止めてくれているから、人間に被害はない状態だ。であれば、急いで殺す必要もない」
「確かにそれも道理よのう」
「どのみち、殺さねばならぬなら、せめておまえが望むかたちで終わらせたい(俺が望むかたちは……)」
「ふふっ、そうかそうか(よーし、これでゲーム三昧じゃ)」
「あまりゲームやり過ぎて体調壊すなよ」
「妾を誰だと思っておる」
「ちゃんと睡眠取るんだぞ」
「わかっとるわ!」
「ちゃんと肉食えよ、ジャンクフードばかりじゃダメだぞ」
「大きなお世話じゃ!」
「寝るときは布団かけろよ、風邪ひくからな」
「勇者よ、そなたは妾のオカンか?」
「…………(俺はなにを心配してるんだ。相手は魔王だぞ)」
「まあよい、また来年会おうぞ(ふふっ、心配してくれてる)」
「ああ、また来年」
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