第5話 差し入れ

 一年後。


「一年間頑張ったようだな」


「ああ! あの本のおかげでな。ケーキも我慢したのじゃぞ。ほら、褒めてくれたもれ」


「頑張ったな。以前より研ぎ澄まされ、美しい身体になった」


「美しい……(ぽっ)」


「ほら、これ」


「んっ、箱? なんじゃこれ?」


「差し入れだ。一年間頑張ったご褒美だ」


「なんとっ、ケーキか! 久々のケーキじゃっ!」


「ケーキ好きだって言ってたろ? 王都で一番のケーキ店のものだ」


「ほほ〜う(キラキラ)」


「最後の晩餐だ。遠慮せず食っていいぞ」


「最後……。物騒なこと言うのう」


「食べ終わったら、殺し合いだ」


「そうじゃったの……」


「ああ、修行の成果、見せてもらおう」


「なっ、なあ、勇者よ。さすがにこれを全部食べたら、おデブちゃんじゃ。よしっ、お主も一緒に食べようぞ?」


「これから死ぬんだから、そんなこと気にする必要ないだろ?」


「乙女はいつでも綺麗でいたいのじゃ」


「去年、ブクブクになってた奴がそれ言うか?」


「細かい事はいいのじゃ。ほれ、一緒に食べてくれたもれ」


「……まあ、せっかく誘ってくれたなら」


「そうかそうか。では、ケーキのお礼に妾がお茶を淹れてしんぜよう」


「うむ。慣れない味だが美味い」


「ははっ。魔界にしか生えない薬草を煎じた魔王特製茶だ。さて、ケーキを頂くとするか」


「「…………(もぐもぐ)」」


「美味である! 美味である! 美味である!」


「興奮してないで、落ち着いて食べろ。子どもか?」


「妾は淑女であるぞ。子ども扱いするでない」


「ほらっ、ほっぺにクリームついてるぞ」


「うっ、にゃ」


「口開けろ」


「あ〜〜〜ん(勇者の指舐めちゃった(ぽっ))」


「(完全に子どもじゃねーか)」


「ごちそうさまでした」


「ごちそうさま」


「中々美味であった。妾への献上品として申し分ないぞ」


「魔王が淹れてくれたお茶も美味しかった」


「そうであろう。そうであろう。ところで、この後はどうするんじゃ?」


「なんか、戦うっていう気分でもないな」


「であるな(良かった。戦闘意欲を奪うお茶がちゃんと効いてるぞよ)」


「せっかく今回は修行を頑張っただろうに、悪いな」


「気にするでない。いつも待ってもらってるのは妾の方じゃ。(妾が修行を頑張れたのは、勇者に褒めてもらいたかったからでの。すでに目的達成じゃ)」


「来年こそは、決着をつけよう」


「来年か。なんか、妾たちは七夕みたいじゃの」


「七夕?」


「魔界の神話じゃ。年に一度しか会えない男女の話じゃ」


「ほう。確かに俺たちみたいだな」


「少し寂しいのう……」


「寂しいか……」


「年に一度会える日は楽しみでいいんじゃが、それまでの間が長すぎてのう……」


「そうだな」


「もっと頻繁に会えないものか?」


「こっちにも都合があるんだ(俺ももっと頻繁に魔王に会いたいけど、ゲートの都合で年一度がせいぜいなんだよな)」


「お主から励ましてもらえれば、修行も一層頑張れる。だめかの?」


「そうだな。ほら、これ、やる」


「なんじゃ、これは?」


「L1NEという魔道具だ。離れていても手紙を送れたり、会話したり出来る魔道具だ」


「ほう〜、人間はスゴいのう」


「これでいつでも俺とやり取りできる。寂しかったら連絡してこい」


「ほっ、ホントか? 毎日するぞ。『おはよう』の挨拶から『おやすみ』の挨拶まで、欠かさず伝えるぞよ」


「まあ、ほどほどにな。じゃあ、俺は帰る。またな」


「うん。すぐにL1NEするぞよ」




   ◇◆◇◆◇◆◇

【後書き】

 『えるいちえぬいー』です。

 ※この世界のL1NEでは、ビデオ通話できない設定です。

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