第286話 進化の結末は……


「うそ……だろ?」


 体を動かして本当に鏡に映っている自分の姿が本当に自分の姿なのか確かめてみると、鏡に映っているあのナナシとうり二つの女性は、まったく同じ動きをしている。そのせいで鏡に映っているその女性の姿が自分の姿だと……強く認識させられる。


「っ!?」


 体を触っている時に、ふと自分の胸に手を当ててみるとそこには男には普通無いはずの柔らかなふくらみがあった。


「ま、まさか……。」


 いやな予感が背筋を伝った俺は恐る恐る自分の股に手を伸ばしてみた。すると、今度はあるはずのふくらみが……ない。


「…………終わった。」


 がっくりと肩を落としていると、ジャックが少し戸惑いながらも声をかけてくれた。


「か、カオル様何があったのかお話していただけますか?」


「い、いや俺自身何が何だかさっぱりわかってないんですけど……一つ言えるのはユピスパークを味見したらこんな風に……。」


「ユピスパークには性別を逆転させるような効果は無いはずですが。」


 ジャックが頭を悩ませていると、今度はナインたちが声をかけてきた。


「マスター、念のため本人確認をしたいのですが……DNAを提供していただけませんか?」


「DNAって唾液でいいのか?」


「はい。こちらの容器に少し出していただければ問題ありません。」


「ん……。」


 口から舌を出して唾液を垂らそうとすると、異様に舌が長いことに気が付いた。もう驚く気力もないが、こんなところまで変化しているのか俺の体は。


 そしてナインに唾液を提供すると、それをスリーが持って部屋を出て行った。


「結果はすぐに出ます。スリーの報告をお待ちください。」


「わかった。」


 俺にそう告げると、ナインはジャックの方を向く。


「少々マスターの体を確かめたいので少しの間退室していただけますか?」


「もちろんです。では……。」


 ジャックは何かを察するとそっと部屋を出て行った。そしてナインとセブンと部屋に取り残されると彼女たちは俺の方へと歩み寄ってくる。


「マスター、身体構造の更新が必要ですので……メディカルチェックをしてもよろしいですか?」


「全然いいけど。」


「それでは服を脱いでいただけますか?」


「そ、それはちょっと抵抗あるなぁ……。」


「そうですか、では少々失礼します。」


「へっ?」


 いつの間にか俺の背後に回っていたセブンが俺の腕を拘束する。そしてナインは何やら黒い布をピンと伸ばして近づいてきた。


「な、何するんだ?」


「羞恥心があるようですので、それを取り払うために目隠しさせていただきます。これで自分の裸体を見なくて済みますよマスター。」


「い、いやっ……そ、それはそれでちょっと……。」


「申し訳ありませんが拒否は認められません。失礼します。」


「ちょっっ……!!」


 強引にナインは俺の眼を覆い隠すように黒い布を巻いてきた。そのせいで視界の一切が遮断されてしまう。それと同時にセブンに後ろで拘束されていた手が解放される。


「少々手荒な方法になってしまって申し訳ありません。ですがこれで少しは和らいだのでは?」


「ま、まぁ……そうかな?」


 そしてDNAを鑑定するために部屋を出ていたスリーが戻ってきた。


「ナイン、セブン、DNAはマスターの物と完全に一致した。」


「では間違いないですね。」


「俺の確認がとれたのか?」


「はい、先ほど採取したDNAをマスターの物と比較した結果……100%一致しました。」


「……そっか。」


 その報告は嬉しくもあり、同時に自分が本当にこの体の持ち主になってしまったのだと改めて強く認識させられた。しかしそんな感情に入り浸る暇もないまま、ナインたちは着々とメディカルチェックの準備を始めていく。

 周囲で機材を用意する音が聞こえ始めたかと思えば、耳元でセブンの声が聞こえてくる。


「マスター。衣服を失礼します。」


「あ、あぁ。」


 スルスルとセブンによって服が脱がされていく。目隠しされているから自分がどんな姿になっているのかはわからないが、肌に直接空気を感じるからおそらくは……。

 と、そんなことを思っていると肌に少し冷たいものが貼り付けられる。


「~~~っ!?」


「失礼しました冷たかったですか?」


「ちょ、ちょっとびっくりしただけだ。大丈夫。」


「では続けます。」


「ん。」


 ペタペタと肌に機材が貼られていくのがわかる。それを敏感に感じるだけではなく、ナインたちの指先が軽く肌に触れる感触までもかなり敏感に感じ取ってしまう。


「マスター、そんなにくねくね体を動かしては適切な場所に貼れません。少し我慢してください。」


「そ、そんなこと言ったってなぁ……。」


 少々困り果てていると、突然視界が切り替わりナナシと出会ったあの空間に飛ばされる。


「お?ここは……あっ!!ナナシっ!!」


 俺の視界の先には顔を真っ赤に染めて恥ずかしさからかうずくまっているナナシの姿があった。

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