第285話 ハプニング


「うっ……か、体が熱い。ナ、ナシ……な、何なんだこれは。」


 ドクンドクンと心臓が脈打つ度に体の底から燃えるように熱くなっていく。  


『言っただろう主よ。進化の時が来たのだ。』


「進……化?」


『あぁ、進化だ。魔王の進化を何度も見てきただろう?それと同じことが主の体に起ころうとしている。……まぁ、成長の速度は比にならないがな。』  


「うぐぐッ……。」


 ナナシが説明している間にも、体は俺の意思とは別に制御を外れて勝手に所々が龍化していく。


「し、進化したら俺はどうなる?」


『どうにもならん主は主だ。今主が不安に思っているように、意識が何か別のものに乗っ取られるようなことはない。安心して身を委ねていると良いぞ。』


「そんなこと……言ったってなぁ。」


 反論しようと声を上げている最中にも全身がビキビキと音を立てて黒い鱗で覆われていき、肌の露出している部分の方が少ない程だ。


「ぐぐっ……な、なんだこれ。」


 完全に全身が鱗に包まれると、全身の筋肉に電流が走るような痛みが走った。


『今まさに主の体が変わろうとしているのだ。龍の王に相応しき体へな。』


「うっ……ああぁぁぁっ!!!!」


 ナナシの言葉が響いた瞬間に何かが弾けるような感覚が襲い掛かってくる。そして全身を覆っていた黒い鱗が一気に弾け飛び、辺りへと散らばっていく。


 鱗が全て弾け飛ぶと、全身を襲っていた痛みは治まった。

 

『良く堪えたな主。進化は完了…………だ。』

 

「いてて、ナナシ……こんなに痛いなんて聞いてないぞ?……ってなんだ?声がちょっと変だな。」 


 発した声に違和感を感じ、喉仏の辺りを触ってみると、いつもあったはずの喉仏の出っ張りが今は凹んでいる。


「ナナシ?声が変なんだが……これも進化ってやつのせいか?」


『………………。』


「おーい?聞こえてるだろ?ナナシー?」


 何度か呼びかけてみるが、一向に彼女から返事が返ってくる気配がない。


「ん~……ま、いっか。とりあえず散らばった鱗を片付けないと…………ってんん?」


 立ち上がった瞬間に目の前にファサリと長い赤色の髪が垂れ落ちて来る。


「は?これは?」


 俺は元々髪なんか染めていない。それにこんなに長く伸ばしていないはずだ。


 明らかな体の異変に困惑していると、更に異変を発見する。


「俺の手……こんなに白かったか?」


 目に映る自分の見慣れたはずの手……。料理中に火傷した痕等があったはずだが、そんなものは綺麗さっぱり無くなっており、自分のものとは思えないほど白くなっている。


「な、なんかおかしいぞ。嫌な予感がする。か、鏡っ!!」


『ま、待つのだ主っ!!そのではまずい!!』


 俺が駆け出すと同時にナナシの焦った声が響くが、時既に遅かった……。厨房を飛び出した俺は、こちらへと向かって来ていたアルマ様達と出くわすことになる。


「あ、アルマ様!?」


「ふえっ!?だ、誰!?」


 俺のことを見たアルマ様は驚愕しながら、こちらにそう問い掛けてきた。


「だ、誰ってカオルですよ?」


「か、カオルは男の人だよ!!それにカオルは、は……裸で歩いたりしない!!このっ……変態っ!!」


 顔を赤くしたアルマ様から飛んできたのは容赦のない平手打ち……。


「ぶっ!?!?」


 ただの平手打ちといえど、魔王であるアルマ様が放つそれは殺人的な威力だ。それをもろに喰らった俺は一瞬で意識を刈り取られてしまった。

 

(なにが……起こってるんだ。誰か状況を………………。)











 次に俺が目を覚ますと、俺は魔王城の中にある一室のベッドに寝かされていた。俺が目を覚まし体を起こすと、ベッドの横にはジャックとナイン達が立っていた。


「目が覚めましたか。」


「ジャックさん?それにナイン達も……。」


 キョロキョロと辺りを見渡していると、ジャックが口を開いた。


「いくつか確認したいことがございます。答えてもらえますか?」


「は、はい。」


「では最初に……ご自分の名前は言えますかな?」


「瑞野カオルです。」


「ふむ、では次の質問です。」


 そして生年月日やらなんやかんやと、まるで本人確認をするかのように質問が投げ掛けられる。その投げ掛けられた質問に全て即答すると、ナインがジャックに向かってコクリと頷きながら言った。


「マスターで間違いありません。」 


「ふむ、やはりですか。」


「あの、いったいどうしたんです?」


「カオル様、今のご自分の体に違和感は感じませんか?」


「え、それは……感じてます。髪が長くなってたり……声が変だったり……。もしかしてさっきの質問ってこれと関係あったりします?」


「えぇ、こちらから説明するよりもまずはご自分の体を確認していただいた方がよいかと。」


 そしてジャックは俺の前に大鏡を持ってきた。その鏡に映っていた自分の姿に俺は絶句する。


「っ!?な、なな……なんだこれっ!!!!」


 鏡に映っていたのは俺の知る自分の姿ではなく、ナナシの容姿とうり二つの女性の姿だった。


 

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