第287話 元に戻る可能性
顔を真っ赤にしてうずくまっていたナナシへと歩み寄ると、俺は今自分の体に起きている変化のことについて問い掛ける。
「ナナシあれはどういうことなんだ!?俺は俺のままって言ってたよな!?」
「そんなこと言われても……我とてこのような現象は初めてなのだ。何が起こっているのか……我にもわからぬ。」
「じゃ、じゃあ俺が元の体に戻れるのかもわからないってことか?」
「うむ。」
「マジかよ……。」
ナナシのとなりでがっくりとうなだれていると、彼女は少しずつ今の状況について考察を始める。
「恐らく今回主の体が我の体とうり二つになった要因は、主と我の距離が近すぎたこと。」
「距離が近すぎた?」
「うむ、実をいえば進化の過程を経ていないのに我が精神に干渉できたのは今回が初めてなのだ。それは主の体が龍昇華に適しすぎた肉体だからだろうと勝手に結論づけていた。無論、それは良いことであるのだが……そのせいで主と我という肉体の境界線があやふやになってしまった可能性がある。」
「つまり……どういうことなんだ?」
「簡潔に言うのであれば、勘違いをした龍昇華が主の元の肉体から現時点で更に龍昇華の力を引き出せる我の体へと肉体を変化させてしまったということだな。」
「はた迷惑な……。俺はこれからどうすればいいんだよ。」
「まぁ、そんなに気を落とすな主。確かに我は先ほど主の体が元に戻れるのかはわからんと言ったが……可能性が無いわけではない。」
「なんだって?」
地獄に垂らされた蜘蛛の糸に縋るように俺はナナシに詰め寄った。すると、彼女は俺の体を指差してきた。
「主、今の自分の体はどうだ?」
「今って……ん?」
改めて今の自分の体を見直してみると、これは間違いなく俺本人の肉体だった。
「これはどういうことなんだ?」
「まだこの精神世界には主の元の体が残っているということだ。これがもし……龍昇華がまだ主の体を捨てていないという事の現れだとしたら?」
「……俺はまだ自分の体に戻れる可能性があるってことか!?」
「まぁそういうことになる。具体的な方法はわからんがな。」
具体的な方法がわからなくったっていい。とにかく今は元の体へと戻れる希望が見えただけで満足だ。
「そうと分かったら、いろいろ試さないとな。とにかく俺は自分の体を取り戻したい。」
「まぁそう急くな主。今意識を戻すのは危険だぞ?」
「なんでだ?」
「我が意味もなくこの空間に主を呼んだりはせぬ。まぁ、これを見るのだ。」
パチンとナナシが指を弾くと、なにやらナイン達が慌ただしく動いている様子が俺の視点で見えた。
「これは今の主の視点だ。」
「俺目隠ししてなかったっけ?」
「そんなもの何の干渉にもならん。」
「そっか、それで?今は何が起こってるんだ?」
「我の体へと更に近付いた事で一部の我のスキルが主の体へと流れ込んでいる状況だ。」
「なんだって?」
「一部とは言え、主の脳では処理しきれん量だ。故にこうして現実の意識を遮断し、この場所へと主を引っ張ってきた。」
「なるほどな。それなら大人しくそれが終わるまで、元に戻る方法でも考えながらここにいるか。」
「懸命な判断だ。」
そして俺はスキルが流れ込んできている間ナナシと元の体へと戻る方法を模索するのだった。
しばらくナナシといろいろな仮説を立てながら元に戻る方法を話し合った結果、数多くあげられた方法の中で最も可能性の高いものが絞られた。
「やっぱり一番可能性が高いのはもう一度進化することだな。他の方法はそれがだめだったときに試せば良い。」
「うむ、それが良いだろう。」
「そうなると……次の進化の条件は何なんだ?」
「次の進化の条件は至極単純だ。魔物を一体倒しその血肉を喰らうのだ。」
そう簡単に彼女は言ったが……絶対一筋縄ではいかないよな。
「んで、その魔物ってのは?」
「特にこれと決まった魔物がいるわけではないが……今までの傾向からして魔物の種族の中の最上位の魔物を倒せば良いだろうな。」
「やっぱり一筋縄じゃいかないのか。」
「ユノメルのような神獣を相手するよりはマシだろう?」
「まぁな。」
と、次の進化の条件について聞いているとズキンと重い痛みが頭に走る。
「……っ。」
「ふむ、意識を遮断しても耐えられなかったか。となると主の肉体の方はもっと深刻そうだな。」
「いてて……ナナシ、これ大丈夫なのか?」
「正直大丈夫ではない。脳に負荷がかかりすぎている。いいか主よ今から主の意識を戻す、肉体へと意識が戻ると同時にすべてのパッシブスキルをオンにしろ。でないと……このままでは死ぬぞ?」
「わかった。」
「では一度主の意識を戻そう。進化の条件に見合った魔物の話は後だ。」
ナナシがそう告げると意識が一瞬で切り替わる。目隠しの下で目を開けた俺は強く頭で意識した。
(パッシブスキル……オン!!)
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