第281話 招かれざる客人
「らからぁ……わらしはわるくな~い。わらしの魅力に気付かない男どもが恋したわらしを……うぅ。手放していくんらぁ~!!」
すっかりアルコールが体全身に回り、ベロンベロンに酔っ払っているユノメルは手にしていた酒の入った瓶を地面に叩きつけながら自分の失恋話を泣きながら語っていた。
彼女が地面に瓶を叩きつけると、その威力を物語るようにバキバキと地面に亀裂が入っていた。
「わかったわかった、確かにそうかも知れんな。」
一方、未だにアルコールが体に回る気配のないナナシは、酔って面倒な絡みをして来るユノメルの話を面白半分で聞き流していた。
(それにしても、まさか我が龍昇華に意識を移し……主の体へと乗り移る間にメルの奴は3回も失恋していたとは。それだけ失恋を繰り返せば、力と感情のコントロールができなくなってもまぁ仕方がないな。)
ユノメルの失恋談を肴にナナシはまた酒を煽る。すると、ユノメルがじっ……と瞳の奥を覗き込むようにナナシの方を見つめて来ていることに、彼女は気がつく。
「我の顔に何かついているか?」
「ん~……別にそういうのじゃないけど、あなた今回は珍しく男の体に乗り移ってるから。」
「龍昇華が選ぶのは女でも男でも関係ないからな。素質のある者のみが選ばれる。」
「ふーん。ねぇその体の本来の人格には番いの女の子いる?」
「くくく、主にか?そんなことを聞いてくる辺りお前まさか……主に惚れたか?」
「そ、そんなんじゃない!!ただ、可愛い顔してるな~って思った……そ、それだけ。」
ナナシから視線を切ると、ユノメルはちょんちょんと両手の人差し指の先端を触れ合わせている。
もちろんナナシは彼女の視線に熱いものが含まれていたことを敏感に感じ取っていて、くつくつと笑いながらユノメルへと忠告する。
「我はやめておいた方がよいとも思うぞ?主を狙う輩は数多い。争奪戦は避けられん。それに主はとんでもない鈍感だ。お前がいくら恋心を抱こうが気付いてくれるかはわからん。」
「でもそういうのって略奪愛?っていうのでいいじゃない?他人から恋人を奪うなんて……フフフ興奮する。」
するとユノメルは狂気的な笑みを浮かべた。
「馬鹿者、そんな歪んだ恋路なんぞ実るものか。」
「そんなのやってみなきゃわかんな……。」
ユノメルがそう言いかけていたその時……死の島で大きな爆炎が上がった。
「何やら招かれざる客人が来たようだぞメル。」
「せっかく久しぶりに楽しくお酒を飲めていたんですけど……。」
そんな会話をしていた二人へと、森林を突っ切って柱となった炎が襲いかかる。
「ん。」
しかしその炎はナナシが軽く指を弾いただけであっさりと消え去ってしまった。
その炎の中からナナシの見覚えのある人物が現れた。
「貴様……確か。」
ナナシとユノメルの前へと現れたのは黒いローブの男……ドリスだった。ドリスはユノメルと酒を飲み交わしていたナナシ……もといカオルを目にすると見下して笑った。
「よもやユノメルと戦わずに和解することを選んだか。臆病者め。」
そう言ったドリスへとナナシはギロリと鋭い視線を向けた。
「貴様……死にたいらしいな。」
ぐっと握りこんだ両手に冷気と炎を纏わせたナナシだったが、隣にいたユノメルの様子を見てクスリと笑う。
「くくく、どうやら貴様の相手は我ではないようだ。」
「……?さっきからなんだ、様子が……ぐっ!?」
胸を押さえて突然苦しみはじめたドリス。そんな彼をユノメルが狂気に染まった目で見下ろしていた。
「な、に……がっ。」
「痛い?内臓が内側からゆっくり腐ってるよ。フフフ……。」
ドリスの体に何が起こっているのかを笑いながらユノメルは伝えると、彼女はドリスの周りにいくつも魔法陣を展開する。
「せっかく楽しい時間だったのに……あなたのせいで雰囲気台なし。早く死のう?でもできるだけ苦しませてあげる。」
「チッ……。」
魔法陣からいくつもの銀色の槍が放たれる、徐々に体を蝕まれているドリスにそれを全て躱すことはできず、炎の剣で焼き切ろうとするが、その姿にユノメルはまた笑った。
「っ!!これは……まずい。」
「それは良くないよね~。せっかく固形で出してあげてたのに、自分でわざわざ気体に変えちゃったね?」
更に体を蝕む速度が早くなり、口から咳とともに血を吐き出したドリス。そんな彼へと容赦なく猛毒の水銀でできた槍が突き刺さる。
「ぐあぁぁっ!!!!」
「あ~あ、喰らっちゃった。それも良くないよ~。ほら……。」
ユノメルがハリネズミのようになっているドリスへと手をかざすと、突き刺さっていた水銀の槍が液体へと形を変えてドリスを包み込んだ。
「おっと、こいつは良くないな。」
ユノメルの技を見て、ナナシは即座に自分の体を魔力の膜で覆う。
それと同時にユノメルが手をギュッと握るとドリスを包み込んでいた水銀が大爆発を起こす。
「ドカーン……フフフ、アハハハハハハッ!!」
辺り一帯に水銀の雨、霧が充満しているその場所にユノメルの狂気的な笑い声が響くのだった。
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