第8章 神の名を冠する魔物

第276話 アルマ様のヤバめなお願い


 聖夜祭が終わり、この世界の年末が近付いてきていた今この頃……。


「カオル~!!」


 俺を呼ぶ声と共に、ボスッ……と布団の上にアルマ様が飛び乗ってくる。


「アルマ……様?」


「うん、アルマだよ~。」


 無邪気にアルマ様は笑うと、赤い瞳を光らせながらこちらにあるをしてきた。


「カオル、アルマね……が飲みたいなぁ。」


 遂に来たか……5つ目の食材


 この食材については事前に調べてある。


 ユピスパークは今までの食材とは違い、飲み物だ。それもアルコールの入った……つまりお酒。

 ジャック曰く、このユピスパークを飲むことによってアルマ様の肉体は大人へと変化するのだとか。


 俺は返事を待っていたアルマ様にひとつ頷いた。


「わかりましたアルマ様。ユピスパーク、必ず手に入れて戻ります。」


「カオルありがとー。」


 一言お礼を告げると、アルマ様はピョンと俺の体の上から飛び降りて部屋を出ていった。


「さて……こいつは忙しくなるな。」


 ユピスパークが湧き出てくる場所はリサーチ済みだ。どうやらとある場所に泉のように溜まっているらしいのだが……その場所がなんとも危険な場所なのだ。

 以前倒したブラックスネークのような色つきの魔物や、トリッキーな魔法や毒等々を扱う魔物……。それだけでも何人をも寄せ付けないような危険をちらつかせているというのに、極めつけはそのユピスパークの泉を守護しているという神の名を冠する魔物

 

 リルに聞いたところ、このとの戦闘記録はギルドに残っていないという。その危険性ゆえにギルドも調査に踏み切れていないのが現状らしい。


「ギルドに記録が残っていない以上……ナインとかに聞くしか無さそうだな。」


 俺はアルマ様達の食事を作り終えたあとで、近頃はシトリーの指導係として業務にあたっているナイン達のもとを訪れた。


「あ、カオルさんおはようございます~。」


「マスター、おはようございます。」


「おはよう二人とも。ナイン、ちょっと時間良いか?」


「問題ありませんマスター。シトリーさん廊下の掃除を続けていてください、すぐに戻ります。」


「了解しました~。」


 そしてシトリーに掃除を任せると、ナインはこちらの用件を問いかけてきた。


「いかがなされましたかマスター。」


「あぁ、実はアルマ様が次の食材をお願いに来てな。次はユピスパークらしいんだ。」


「ユピスパーク、神獣ユノメルが守護しているお酒ですね。」


「あぁ、聞きたいのはその神獣ユノメルのことなんだが……何か情報みたいなのってあるかな?」


「かなり少ないですが、あります。ですが、参考になるかは……わかりません。」


「それでもいい。聞かせてくれ。」


「わかりました。では、まずはなぜユノメルと呼ばれているかについてお話ししましょう。」


 そしてナインはユノメルのことについて話し始めた。


「ユノメルという名はミラ博士の存命していた時代につけられました。その名の由来はユノメルがユピスパークを狙っていた一つの国を滅ぼしたことからつけられています。」


「一つの国を滅ぼした!?」


「はい、ユノは狂気の女神……そしてメルには死という意味合いがあります。」


 もうその説明だけで大分不吉だ。


「遥か昔、ユピスパークを狙っていた酒豪の国ドワーフ公国がありました。ドワーフ公国は軍隊を送り込むのですが……何日経っても帰ってくるどころか、連絡すらつきませんでした。その頃ドワーフ公国の国民達はユピスパークを独占しているだという風に思っていたらしいのですが、彼らの予想を裏切ったのが突如上空に出現したユノメルです。」


「おぉぅ……。」


「そして怒り狂ったユノメルはドワーフ公国に銀色の雨を降らせました。」


「銀色の雨?」


「はい、水銀の雨です。」


「ヤバすぎる……。」


 水銀は経口接種すると内臓を内側から腐らせる物質だ。日本でも昔に水銀が水に混じっていて、それによって病気が流行ったりもした。そんなものを雨として降らせるなんて……。

 この時点で大分ユノメルのヤバさを感じ始めていたが、ナインの話はまだ終わらない。


「ドワーフ公国に住んでいる住人のほとんどは職人でしたから、水銀の恐ろしさは知っていました。ですが、ユノメルは対処のしようがない空気中にも微細な粒子として水銀を含ませていました。」


「…………。」


「そして雨を直接摂州しなくても、呼吸をしてしまったが最後……死を迎えるというユノメルの狂気の二段構えでドワーフ公国は一夜で姿を消しました。」


 急に行きたくなくなる話するなぁ……。呼吸をしただけで死ぬなんて対処のしようがない。


「俺……これからそれに挑みに行くのか。」


「マスター、意気消沈しているところ申し訳ないのですが……ユノメルはドワーフ公国を滅ぼした時には、20%も力を使っていなかったと推定されています。」


「……詰みかな。ははは。」


 戦ったらかなり分の悪い相手だということはわかった。


 どうするか……。今回ばかりは戦うという手段は無しだな。隠密でこっそりお裾分けしてもらえることを祈ろう。

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