第275話 ニューメイドシトリー
「主よ……。」
「ん?」
以前ナナシと出会った空間に、突然ナナシが現れた。
「終わったぞ。」
「そうか。」
くぁぁ……と退屈そうに欠伸をし、グ~っと背筋を伸ばしながらナナシは言った。そしてずんずんと、こちらへと歩み寄ってくると、ポスッと俺のお腹に手を当ててくる。
「主よ、我を試したな?」
「何のことだ?」
「しらばっくれても無駄だぞ?言っただろう、我と主の体は繋がっている……故に主の考えていることなどお見通しだ。」
「隠し事もできたもんじゃないな。」
「まぁ、良い暇潰しにはなったが……あのような雑魚では我の力は測れんぞ?せいぜい……そうだな、主と共に過ごしている五老龍が相手ならある程度力を出してもよいやもしれん。」
そう告げると彼女はクルリとこちらに背を向ける。
「さて、またしばらく我は眠っておこう。また必要なときは呼ぶがよい。今度は強い相手が良いぞ?くくく……。」
彼女のその言葉を最後に、俺の意識が戻っていく。
そして再び目を開けると、目の前には冷や汗を流しているカーバンクルプリンスのリオンの姿が。
「か、カーバンクルの宝石で強化したシャドウジュエラーが……。こんなにあっさりと……。」
「さて、どうする?まだやるか?」
「くっ……。」
俺がそう問いかけると、リオンは黒ずんだ宝石を地面に投げつける。それが砕けることによって発生した黒い霧のなかにリオンは消えていった。
「はぅぁ~……。」
緊張が解かれてへなへなと地べたに座り込んだシトリーに俺は声をかけた。
「大丈夫か?」
「ご、ごめんなさいです~。こんな危険な目に遇わせるつもりはなかったんです~。」
謝りながらポロポロと涙を流すシトリー。
「私が一緒にいたらまた危険なことに巻き込ませてしまうかもしれません。これ以上迷惑をかけるわけにはいかないので……大人しく国に帰ります~。」
そう言って立ち上がりとぼとぼと歩きだそうとしていた彼女をメアが呼び止める。
「待って。」
「何ですか~?」
「わかってる?今カーバンクルの国に帰ったら、カーバンクル皆を巻き込むことになる。多分あいつはまた狙ってくるよ?」
「それは……わかってますけど~。」
「今はパパがいたからなんとかなった。でも、あいつはカーバンクル達だけじゃ絶対どうにもできない。」
「じゃあどうすればいいんですか~……。」
ほとほと困り果てている彼女に、メアはあることを提案する。
「匿ってあげる。家にはパパもいるし、私たちもいる。あいつぐらいなら襲ってきても簡単に撃退できる。」
「いいんですか~?」
「大丈夫。パパは断れない。ね?」
そう言ってチラリとこちらをみてくるメア。彼女は俺が頼みごとを断れない性格なのを知って、言っている。
「……わかった。でも、その代わり仕事はやってもらう。それでもいいなら……。」
「やります~!!何でもやります~!!」
俺が話している途中で彼女は即決してしまう。
まぁ、仕事をしてもらうと言っても……多分メイドの仕事になるんだろうけど。とてもじゃないが、魔物と戦えるような感じの人物ではないし……。
それに、メイドなら先輩メイド達がたくさんいるし……多少の失敗なら先輩メイド達がカバーしてくれるはず。
「なら早くお城に帰ろ?ジャックとか……みんなに紹介しなきゃ。」
「はい~!!」
そしてメアはシトリーのことを連れて、先に城の方へと歩いていってしまった。
「……勢いでオッケー出しちゃったけど、あとでジャックになんて説明しようか。」
まぁ、何とかなるだろ。多分……。
そして俺が城へと帰ると、既にジャックによってメイドの姿へと変身させられていたシトリーの姿があった。
結局、シトリーも魔王城のメイドとして働くことになったのだが……。
パリーン!!
「きゃーっ!?ご、ごめんなさい~!!」
「だ、大丈夫?」
バシャッ……。
「はぅぁ~っ!?お、お水が~!!」
「シトリー様大丈夫ですから。」
「ご、ごめんなさい~。」
おっちょこちょいらしいシトリーはメイドの仕事に四苦八苦しているようで、毎日のようにお皿を割る音や、水を溢してしまう音が聞こえてくる。
それに関しては俺の予想通り……先輩メイドのナイン達や、ソニア達がカバーしてあげていた。
彼女が働くことを認めてくれたジャックも気にするなと彼女に優しく声をかけてくれているし、慣れるまでじっくりと待つとしよう。
こうしてまた魔王城に愉快な仲間が加わることになったのだった。
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