第273話 宝石の意味


 俺の後ろに立っていたメアは、ゆっくりとカーバンクルプリンセスのシトリーへと歩み寄ると言った。


「これはカーバンクルプリンセスの求愛の儀式……。違う?」


「……っ。」


「求愛の儀式?」


 メアの放ったその言葉に首をかしげていると、メアはこちらを向いて教えてくれた。


「パパ、本来はカーバンクルプリンセスはこうやって自分が今まで育ててきた宝石をカーバンクルプリンスに渡すの。それが求愛の儀式。」


「違います~!!」


 メアがそう教えてくれると、カーバンクルプリンセスのシトリーは首を勢いよく横に振って否定した。


「確かにあなたの言っていることは合ってます~。でも、私にも相手を選ぶ権利はあるんです~!!」


「じゃあなんでカーバンクルプリンスじゃなくパパなの?」


「それは、私はプリンスじゃなくてこの方に恋をしてしまったから……。」


「ふぅん?あなたの気持ちはわかった。でも、パパは渡せない。」


 そう言ってメアは俺の腕を抱き込み、まるで俺が彼女の所有物であるかのようにアピールする。

 すると、シトリーは不服そうな声をあげた。


「ど、どうしてですか~っ!?」


「パパはまだ誰かのモノになるのは早いの。あなたがパパを狙ってるように、パパを狙ってる人はいるの。それもたくさん……ね?」


「た、たくさん!?」


「うん。だから抜け駆けは許さない……許せない。」


「じゃあどうすればいいんですか~……。」


「ん~。」


 半泣きになってしまっているシトリーの問いかけに、メアは少しの間考える仕草をみせると、思い付いたように言った。


「パパから告白されたら……オッケー?」


「こ、告白ですか?」


「うん、それなら多分皆納得する。」


 俺の意見を聞かずにメアとシトリーはどんどん話を加速させていく。流石に止めないとと思い、俺が声をあげたその時だった。


「ふ、二人とも……ちょっと…………。」


「シトリー、こんなところにいたのか。」


 ゆらりと暗闇からシャドウジュエラーを引き連れた男が現れたのだ。


「っ!!リオン……。」


「今、そこの男に宝石を渡そうとしていたな?この僕じゃなく。」


「あなたに宝石は渡せません~。仲間を売って闇に手を染めたあなたには……絶対に。」


「君は何もわかっちゃいない。僕はカーバンクルの未来を考えているんだ。そのためにはある程度の犠牲はつきものだよ。」


 知り合いらしい二人は険悪な雰囲気を漂わせながら話している。


 すっかり話題から置いてけぼりを食らっていた俺に、メアがシトリーの前に立っているあの男について話し始めた。


「パパ、多分あれはカーバンクルプリンス。」


「カーバンクルプリンス?」


「うん。シトリーと同じぐらい強い力を感じるの。」


「ほぉ?」


 本来ならカーバンクルプリンセスのシトリーを彼が迎えに来たと考えるべき場面なのだが……シャドウジュエラーを後ろに引き連れているあたり、恐らくはそうではないだろう。


 そう考察していると、シトリーの横を通って彼は俺の方へと歩み寄ってきた。


「そこの人間……君がシトリーを誑かしたんだね?」


「いや、誑かしたりはしてないと……。」


「そういう無駄な言い訳は要らないよ。彼女が君に宝石を渡そうとしている時点でおかしいんだ。」


 どうやらこちらの主張を受け入れてくれるようではなさそうだ。


「君の姿は見ていたよ?この間の夜……シャドウジュエラーを討伐していたね。」

 

「あの時の視線はまさか?」


「あぁ、僕さ。シトリーを探してここを訪れたときにちょうど彼女の香りを染み付けた君を見つけてね。シャドウジュエラーに襲わせたんだ。」


「……シャドウジュエラーを操っていたのはお前だったのか?」


「8割正解かな。本当は違うんだけど……まぁそういうことにしといてよ。」


 クスクスと愉快そうに笑うと、彼は後ろのシャドウジュエラー達に命令を出した。


「さぁ、お前たちあの人間を殺してしまえ。」


 そう命令されると、シャドウジュエラー達は俺とメアを取り囲む。


「あっ!?や、やめてください~あの人達は関係ないです~!!」


「二度と僕以外の誰かに気をとられないようにしてあげる。君が巻き込んだ者がどんな運命を辿るのか……特等席でみてるといいよ。」


 シャドウジュエラーの囲いの外からシトリーの悲痛な声が聞こえてくる。


 その声を聞いたメアがジロリとシャドウジュエラーを睨み付けながら俺に言葉を投げ掛けてくる。


「パパ、少しムカッとした。この魔物全部倒すね。手伝ってくれる?」


「そう頼まれちゃ断れないな。」


 メアが魔法陣を多数展開すると同時に俺は剣を抜いた。


「ありがとパパ。」


 そしてメアの魔法を皮切りに、俺は迫り来るシャドウジュエラー達の撃退を始めるのだった。

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