第272話 優勝者とピンク色のカーバンクルの正体
3位と4位の発表が終わり、いよいよ今年の聖夜祭の優勝者が発表されようとしていた。
「さぁさぁ!!皆様お待ちかね……今年の聖夜祭の優勝者を発表します!!」
司会の女性のその言葉に反応して、会場へと詰めかけた人々がより一層大きな歓声を上げる。
「今一度残っている方々の紹介を致しましょう!!まずはエルフのクリスタさん、揺るがない聖夜祭のチャンピオン……相対するは我らが魔王様軍団。いったいどちらが優勝を手にするのか、ご刮目ください!!」
司会の女性がそう口にすると、クロスのかけられた台が二つ壇上へと運ばれてきた。
そしてそれはクリスタとアルマ様達の前で止まる。
「先ほどもお話ししましたが、今年の聖夜祭は今までに例がないほど……カーバンクルの宝石が大きく、美しいものとなっております!!それにともない、ここで火花を散らしております二組が獲得した宝石も過去に記録がないほど大きなものとなっています!!」
クロスの下に見えるその宝石の形は、先ほど紹介されたラピスが手に入れたものや、エンラ達が手に入れたものよりも大きく見える。
それを眺めていると、いよいよ司会の女性は二つのクロスに手をかけた。
「それでは……優勝を手にした方のクロスを引かせていただきます!!今年の聖夜祭……過去最高の成績を残し、カーバンクルの宝石を手にいれたのは…………。」
その一瞬だけは、会場が一瞬の間シン……と静まり返る。そして司会の女性は一つのクロスを思いきって引いた。
「こちらですっ!!」
バッ……と音を立ててクロスが引かれたのは…………。
「優勝は魔王様軍団っ!!おめでとうございます!!」
クロスが引かれたのは、なんとアルマ様達の方だった。
その瞬間、大きな歓声が会場でわき上がる。
「わっ、わっ!!優勝?優勝だってみんなっ!!」
「やった!!やったぁ!!」
「…………。」
喜びを分かち合うアルマ様とカナンの横で、一人……メアがクリスタの方をじっと見つめていた。
「クリスタ、わかってる?」
「フフフ、えぇもちろんです。今回の優勝はわたくしでもなく、貴女方でもないこと……ですよね?」
「そう。ただ参加してないだけで、私たちよりも大きな宝石を手に入れてる人はいる。」
「それはわたくしも存じておりますよ。」
なにやら会話を交わしている二人の横で、クリスタのクロスも引かれる、双方の宝石の大きさは大差のないように感じられるが、どうやらアルマ様達の持ってきた宝石の方が大きかったらしい。
「優勝を勝ち取った魔王様方には後程豪華な賞品をお送りさせていただきます。」
「やった~♪ちゃんと三人分ある?」
「もちろんです!!」
「わたくしの分の賞品も後程集落の方へ送ってください。」
「あ、え?く、クリスタさん?」
「それではわたくしは用事がありますので、これにて……っと、最後におめでとうございます皆さん。来年もまた競いあえると良いですね。」
そしてクリスタは壇上の上でパチンと指を鳴らすと魔法陣とともに姿を消した。
てっきり帰ってしまったかと思われたクリスタだったが、彼女は俺達の背後へと突然現れた。
「こんばんは、皆さん?」
「ありゃ?帰ったんじゃなかったの?クリスタ。」
「フフフフ、残念ながら優勝は惜しくも逃してしまいましたからね。あそこの上からは退場させてもらいました。」
「なんだい、てっきりもう少し悔しがると思ったんだけどねぇ。」
「負けるときは潔く……醜く負けるのは御免ですから。」
そう言ってクリスタは笑う。すると、おもむろにリルとカーラの手をとった。
「はぇ?」
「さぁ、聖夜はまだまだこれからですよ?飲まない……なんて言わせませんからね?」
「あはは、そういうことならとことん付き合うよ~?」
そしてクリスタはリルとカーラを半ば強引に引っ張っていくと、去り際に一瞬こちらを向き、にこりと笑った。
しかし、その微笑みはどうも俺のことを向いて微笑みかけたよう……ではなかったような気がする。
そんな俺の疑問も瞬く間に過ぎ去っていき、会場の上では、アルマ様達の表彰式が行われていた。
「……まぁ、みんな表彰されたみたいでよかったな。」
身内のなかで楽しめなかった……という人はいないだろう。
「さてさて、俺は帰って来てみんなが食べるものでも作っておこうか。」
そして未だ熱が冷めない会場を抜けて、一人……魔王城への帰路へとついていると、人通りのなくなった時を見計らい、俺の肩からピンク色のカーバンクルがピョンと飛び降りた。
「ん?」
「きゅ~っ!!」
肩からとびおりたカーバンクルは突然体から光を発し始める。
「っ!?なんだ!?」
光を発したカーバンクルの輪郭が徐々に大きくなると、あろうことかカーバンクルは女性の姿へと形を変えたのだ。
そして目の前に立った女性は俺の目の奥を覗くように視線を送ってくると、口を開いた。
「あ、あの~……私、以前助けていただいたカーバンクルです~。覚えてますか?」
おずおずとしながらそう言った彼女の容姿に俺は見覚えがあった。
「あ……あの時道で転んでた……。」
そう、少し前に俺の目の前でド派手に転んでいたあの女性だったのだ。
「おかげさまで、怪我も治してもらって~、シャドウジュエラーからも逃げられました~。」
「怪我が治っていたんならよかったです。」
「あ、あの……これお礼には足りないと思うんですけど、どうか受け取ってください~っ!!」
そう言って彼女は服のお腹辺りについていたポケットからとんでもなく大きな宝石を取り出してこちらに手渡してきた。
「え、えぇ!?」
「私……カーバンクルプリンセスのシトリーって言います~。この宝石は、相応しい人を探し求めて、ずっと育て続けてました~。あなたなら、間違いないです~。」
「カーバンクルプリンセス……って。」
確か、リルが言っていた情報だと確認されたのは何百年も前……って話じゃなかったか?なんでこんなところにいるんだ!?
「私の気持ちを受け取ってください~っ!!」
「えっと……。」
ずいずいと大きな宝石を差し出してくる彼女の姿勢に少し圧されながらも、俺がその宝石を受け取ろうとしたそのときだった。
「パパ、待って。」
「っ!!」
「……メア?」
いつ抜け出してきたのか、俺の背後にメアが立っていた。
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