第267話 聖夜祭の始まり
そしていよいよ聖夜祭当日……街には各地からとんでもない量の人々が押し寄せていた。彼らの目的はもちろん、カーバンクルの宝石だ。
皆の分のお弁当を作り終えた俺はラピスと共に聖夜祭の本部が設けられている場所へと向かった。
「むぅ、なかなかの人だかりだの。」
「前のバルンフィッシュの釣り大会の時よりも多いな。」
人混みをかきわけながら前へ前へと進んでいくと、先に辿り着いていたアルマ様達の姿が見えてきた。
「あ!!カオル、ラピス!!」
「お待たせしました。お弁当です。」
「ありがと~!!今日は何が入ってるかな~。」
「カオルさんありがとうございます。」
「パパ、ありがと!!」
三人にお弁当を渡し終えると、ラピスが自分の分は?と心配そうに問いかけてくる。
「わ、我の分もあるのだろ?」
「もちろん。」
そしてラピス用に俺は何段にも重ねたお重に詰め込んだ弁当を手渡した。
「おぉ!!今回もデカいな。」
「アルマ様達と同じ量じゃ足りないだろ?」
ちなみにこのお重は前回バルンフィッシュの釣り大会の時に使ったものと同じものだ。今回も大量の料理が詰まっている。
彼女はそれを大事そうに受けとると、自前の収納袋にしまいこんだ。
「エンラの分はどうしたのだ?」
「エンラの分はソニアが作ったよ。昨日の夜からせっせと仕込んでたからな。」
「ほぅ……。近頃ソニアの料理の腕の成長が著しいとエンラが話しておったが、あやつの弁当も気になるな。カオルは中身を知っておるのか?」
「ん~、まぁだいたいは……。」
ソニアが事前に準備していた食材……そして仕込みで何を作ったのかはだいたい想像がついている。
そのどれもがエンラの好きなものだったと思ったな。なんともエンラ想いのソニアらしい料理だったはずだ。
「祭の最中にやつらを見かけたらおかずの交換を申し出ても良いかもしれんな。」
「なんだ、気になるのか?」
「無論だ!!」
そう威張って言い張った彼女に俺はわざとらしく言った。
「そっか、ならこれからラピスのご飯はソニアに作ってもらうか?」
「なっ!?どうしてそうなるのだ!?」
「だって俺作った弁当よりもソニアの作った弁当の方が気になるんだろ?」
「そうは言っておらんだろ!?」
「冗談だ。」
「その冗談は心臓に悪いぞ?」
そんな風にラピスをからかっていると、設営された会場の舞台の上にマイクを持った司会の女性が立った。
「お集まりの皆様!!大変お待たせいたしましたーーーっ!!本日、年に一度の聖夜祭……これより開催いたしまーすっ!!」
その女性の掛け声と共に大きな歓声が上がった。
「ルールは単純、宝石を抱えたカーバンクルを捕まえて、一番大きな宝石を獲得した人が優勝です!制限時間は日付変更時刻まで!!それでは……開催でーすっ!!」
彼女の掛け声とともにパンパンた花火が上空にうち上がる。それと同時に会場に集まっていた人々は一斉に駆け出していく。
そして気がつけば、残っていたのは俺たちを含めてごくわずかの人達のみだった。
そこに残っていた人物は、俺がよく知る人物で、彼女はにこやかに微笑みながらこちらへと歩み寄ってきた。
「こんにちは、皆さん?」
「む、おぬしは……。」
「クリスタさん。」
会場に残っていたのはヨモヤヨモヤノクリスタだった。
「おぬしはバタバタと駆けて行かんのだな?」
「わたくしはカーバンクル達を捕まえに行く必要はありませんから。」
「む?」
そう言ってクリスタは近くのベンチに座ると、おもむろにポンポン……と手を叩いた。すると、どこからか彼女の足元に可愛らしい少し大きめのリスのような生き物が何匹も集まってきた。
「なっ……なっ……。」
その光景を見たラピスが絶句する。
「か、カーバンクル!?」
「フフフ、わたくしはエルフですから。こうしてカーバンクル達と触れあうこともできるんですよ。」
どうやらクリスタのもとに集まっているあのリスのような生き物がカーバンクルらしい。
クリスタのもとに集まってきたカーバンクル達は、我先にと自分のお腹のポケットにしまっていた宝石を掲げている。
そんなカーバンクル達の姿を見たクリスタはにこりと笑った。
「今年も大事に育てたんですね。大粒で美しいですよ。」
彼女がそう褒めるとカーバンクル達は嬉しそうに体を動かす。
そんなカーバンクル達にラピスはそろりそろりと歩みより、捕まえようとするが……。
敏感にラピスの気配を感じ取ったカーバンクル達はクリスタの体の後ろにシュッと隠れていってしまう。
「むぅ……ダメか。」
「フフフ、カーバンクルを捕まえるのなら……まずはこの子達の心を掴むところから始めた方が良いですよ?」
「ぐぬぬ、カオルっ!!我らはこうしてはおれん、行くぞ!!」
「はいはい……。それじゃあクリスタさん、失礼します。」
「頑張ってくださいね?」
そしてクリスタに別れを告げた俺は、街の外へと駆け出したラピスのあとを追うのだった。
二人の後ろ姿を見送っていたクリスタはあることに気が付き、ポツリと言葉をこぼした。
「おや……既に心は掴んでいましたか。フフフ、後は気がつくかどうか……ですね。」
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