第265話 異形の魔物


 その日の夜、俺はリルから受けた依頼をこなすために城下町の外へと足を運んでいた。


 夜になると、この近くでは魔物の動きが活発になるため日中はまず街道には魔物は近づいてこないのだが……今の時間帯はやはりちらほらと視界内に魔物の姿が見える。


「レッドキャップと、ウルフ……それにスライムもいるな。」


 このぐらいの魔物なら片手間で倒せる。


 俺は剣を抜き、真横に大きく一閃した。すると剣から放たれた斬擊が視界内の魔物を一刀両断していく。


 そして討伐の証となる魔物の一部を集めながら歩き回る。


「飛閃もだいぶ大きな斬擊になってきたな。」


 それこそ会得した当初は飛距離も短く、そこまで大きな斬擊は出せなかったが、今は技量が上がったおかげでかなり広範囲を攻撃できるようになっていた。

 それでもナインの全力の飛閃にはまだまだ敵わない。


「さて、依頼書には特に魔物の数の指定は無かったし……これだけ倒してたら充分かな。」


 そして回収を終えてギルドへと戻ろうとした時だった。


「……!!」


 暗闇から無数の殺気を向けられていることに気付く。


(何かいる……どこだ?)


 歩みを止め、納めた剣に手をかけながら周囲を見渡すが……パッシブスキルの夜目を使っても殺気を向けてきている何者かの姿を捉えることができない。


 どこからの攻撃でも対応できるように身構えていると、背後からの殺気が一気に強くなる。


「後ろか。」


 即座に抜刀し、体を反転させ背後へと剣を振るうと、ガキンと硬い何かに当たった。


 俺の剣を受け止めていたのは、見たことのない魔物だった。闇夜に溶け込む黒い体に異形とも言えるほどに発達した両手足の鋭い爪……そして最も特徴的だったのは、その魔物は目の部分に黒い宝石のような物が埋め込まれていた。


「キシャシャシャ。」

 

「なんだこいつは……。」


 俺の剣を受け止めた異形の魔物は、あろうことか剣の刃の部分を蹴って跳躍すると、再び闇夜のなかに紛れて消えた。


 しかし、殺気は未だ消えていない。どうやらヤツ等はまだまだやる気らしい。


「厄介なのに絡まれたな。」


 本当なら簡単に終わる依頼の幡豆だったんだが……。


 そしてため息をつく間も無く、再び攻撃が飛んでくる。


「ふっ!!」


 四方八方から襲いかかってくる異形の魔物の攻撃をさばきながら、ヤツ等の行動パターンと弱点を探っていく。


(真っ正直から飛びかかってくるヤツはいない。どいつもこいつも背後とか死角から攻め込んでくるな。)


 行動パターンは単調だったからすぐにわかったものの、肝心の弱点が未だわからない。ヤツ等の手足は異常な程硬く、まず刃は通らない。となると手足以外の場所を攻撃したいが……。普通に反撃したのではヤツ等は硬い手足で受け止めてしまう。


(なら……。)


 俺はヤツ等の一斉攻撃をさばききったタイミングで剣を下ろした。


 もう行動パターンは読めている。なら間違いなく隙だらけの背後からまた来るはずだ。


「キシャシャシャ~ッ!!」


「それを待ってたよ。」


 読み通り俺の背後からまたしても攻撃を仕掛けてきたヤツは、その異形の爪で俺の残像を切り裂いた。アリス流剣術弐の太刀陽炎だ。


 そしてヤツの背後へと回った俺は、ちょうどうなじの部分に赤く光る小さな物があったのを見逃さなかった。


「ここかっ!!」


「ギッ!?」


 そこへと向かって剣を突き刺すと、あっさりと貫通し、その魔物はだらんと力なく崩れ落ちた。


「なるほどな。ここが弱点か。」


 さて、弱点さえわかってしまえばこっちのものだ。


 俺は剣を鞘へと納めると、今度は収納袋からナイフのアーティファクトを取り出した。そして魔力を籠めると、みるみるうちに太刀の形へと変わっていく。


「喰らえッ!!」


 俺は頭のなかにこの魔物の姿を強く思い浮かべ、うなじの部分にある赤い弱点を切り裂くイメージでアーティファクトを振るった。


 すると、闇夜の中でバタバタと倒れていく音が聞こえてくる。


「今ので全部やれたかな?」


 倒れた音のした場所を確認にいくと、そこには異形の魔物が倒れていた。


「こいつはいったいなんなんだ?明らかにこの辺の魔物じゃないよな。」


 兎に角回収して、リルに見てもらおう。彼女ならきっと知っているだろう。


 そして回収作業を始めようとすると、今度はどこからかじっと見つめられているような視線を感じた。


「今度はなんだ?」


 さっきとは違って殺意は感じない。こちらを傍観しているだけのようだが……。


 まぁ、敵意がないなら相手どる必要はないだろう。

 

 そう割りきって俺は倒した魔物の回収作業にあたるのだった。


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