第7.5章 聖夜祭

第263話 異世界の冬模様


 ヒュマノと新たな平和条約を結んでから数か月の月日が流れた。


 早いもので季節はすっかり秋を過ぎ、ちらちらと空から白い雪が降る季節へと移り変わっていた。


 普段通り朝に目を覚まし、ベッドから体を起こすと冷たく冷えた空気に肌が触れ、思わずもう一度毛布をかぶりたくなる。チラリと外を見てみると窓の外では雪が降っていた。


「どおりで冷えるわけだ。」


 こういう寒い日には温かいものが食べたくなるな。朝食はできるだけ体の中心から温まるようなものにしようか。


 頭の中でメニューを考えていると、真横から唸り声が聞こえてきた。


「うぅぅぅ~……カオル、寒いぞ~早う毛布をかけるのだ。」


 俺の隣ですっかり縮こまりながら横になっていたのはラピスだった。


「ラピス、お前また俺のベッドに潜り込んでたのか?」


「仕方なかろう。この寒い季節は温もりが欲しくなるのだ。」


「前ノーザンマウントに行ったときはあんな雪山でもピンピンしてたくせになぁ……。」


「山の寒さと冬の寒さは違うのだッ!!」


「はいはい。わかりましたよっと。」


「わぷっ!?」


 ラピスの体全身を覆うように先ほどまで俺が被っていた毛布をかけてやる。


「毛布にくるまってるのもいいが、二度寝して朝食に遅れないようにな。」


「わかっておる。」


 着替えをしながらラピスにそう告げると彼女は毛布にくるまってもぞもぞしながら答えた。まぁ近頃はこの光景もここ最近見慣れたものだ。

 ここのところ毎日のように俺のベッドにラピスは潜り込んできているからな。俺が眠りにつく前はいないのに、朝起きればいつの間にか隣で寝ている。


 ラピスだけならまだいいほうだ。多いときは鼻息を荒くしたソニアが潜り込んできている時もあるからな。


 まぁこんな感じで冬の寒さには弱いらしいラピスたちだが、朝食にはきっちりと起きてくる。彼女たちの優先事項は睡眠よりも食事らしいな。


 そうして今日も今日とて一同が介した朝食の場面で、ふとアルマ様が朝食を食べながらあることを口にした。


「あ、そういえばそろそろ近いんじゃない?」


 アルマ様の口から飛び出した言葉は耳にしたことのない言葉だった。それはカナンも同じだったようで……。


「聖夜祭?アルマちゃん何それ?」


「聖夜祭はね~、冬のお祭りだよ~。」


「ほぇ~、そんなのあるんだ。」


 興味深そうにカナンがその話をアルマ様から聞いていると、ジャックがその話に捕捉するように説明を始めた。


「聖夜祭とは、この季節にしか出現しない魔物が持ち歩いている宝石の大きさを競うお祭りでございます。」


「カーバンクル?」


 またまた聞いたことのない魔物の名前だ。


「カーバンクルとは一応魔物に分類されていますが、精霊種に近い存在とされている少々変わった魔物でございます。」


「カーバンクルはね~お腹のポケットに綺麗な宝石を入れてるんだよ~。」


 アルマ様のその言葉にラピスがぴくんと反応した。


「ほぅカーバンクルの宝石とな。なかなかお目にかかれない代物ではないか。」


「えぇ、カーバンクルは本来滅多に人前には姿を現さないのですが、この時期の決まった時間にこの城下町の近くに出没するのです。」


「すっごくすばしっこくて捕まえるの大変なんだよね~。でも今回は絶対大きい宝石持ってるカーバンクル捕まえる!!」


 話を聞いている限りではなかなか面白そうなお祭りだな。だが、アルマ様が捕まえるのが大変と言っている辺り捕獲の難易度は相当高そうだ。


 時間があったら参加してみたいところだな。


「カナンとメアも一緒に参加しない?みんなでやると面白いんだよ~?」


「うん、楽しそうだから参加してみよっかなぁ。」


「面白いならやる。」


 参加の意思を固めているアルマ様たち。彼女たちとはまた別にラピスとエンラ、そしてソニアも何やらこの祭りに参戦しようと話し合っている。


「むっふっふ、カーバンクルの宝石か……我のお宝に加えるには上等だの。」


「あら、ラピスも参加するの?」


「無論だ!!」


「ならワタシも参加しようかしら。」


「な、なぜ光り物に興味がないおぬしまで参加するのだ!?」


「だって面白そうじゃない?それに勝ち負けがあるなら……ラピスには勝っておきたいし~?」


「ぐぐぐ、上等だ。絶対におぬしには負けんぞエンラ!!」


「あらあら、勘違いしちゃいけないわよ?ワタシはソニアと一緒に出るんだから……ねっソニア?」


「は、はいっエンラ様!!」


「なぁっ!?二対一とは卑怯ではないか!?」


「そんなことないわよ~?あんたにはカオルがいるじゃない。」


 思わぬところで白羽の矢がこちらに飛んで来た。エンラのその言葉に感化されてしまったラピスはすがるように俺にしがみついてきた。


「か、カオル!!わ、我を手伝ってはくれまいか!?」


「ん~、ま、まぁ時間があったら……な?」


「作るのだっ!!同じ龍として我はエンラに負けるわけにはいかんのだっ!!」


「わかったわかったって、なんとか時間は作ってみるから。」


 せがんできたラピスにそう答えていると、隣でエンラは笑っていた。どうやら彼女の思い通りに動かされてしまったらしい。


 まぁみんな参加するみたいだし、せっかくなら俺も混ざってみようかな。そうなると、いろいろと準備を整えないとな。

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