第256話 現ヒュマノ国王との対面
ナインの切り裂いた空間を通り抜けると、目の前には醜く歪んでいる見知った顔の人物がいた。
「なっ……き、貴様はっ!!」
イリアスは俺の顔を直視した瞬間、こちらを指差してくる。
そういえば、仮面をつけるのを忘れていたな。まぁ今となっては着けようが着けまいが変わらないか。
「おぉ、随分顔がパンパンに腫れてるなイリアス。俺の拳は効いただろ?」
俺は醜く腫れているイリアスへと向かって煽るように言った。すると、表情に怒りを浮かべながらもヤツは冷静に分析を始めた。
「魔王の従者……あの時ステラとともにいたのも貴様だったのかっ!!」
「あぁ。その通りだ。」
「こんな大騒ぎを起こして、どうなるかわかっているのか!?平和条約はっ…………。」
「平和条約を先に破ったのはお前らだろ?ヒュマノで造られたキメラがこっちの人達を殺してるんだぞ?まさか……知らないとは言わないよな?」
「…………っ。」
強烈な圧をかけてやるとヤツは黙りこくる。昔から沈黙は肯定の意ってな。こいつはキメラのことを知ってると見て間違いない。
「さて、今はお前なんかに用はない。俺達が用があるのは後ろにいる今のヒュマノの王だ。」
「くっ、お、王に何をするつもりだ!!」
「安心しろ、殺したりはしない。ただ、今後のヒュマノと魔族の関係について話し合いたくてな。同行願いたい。」
「こ、断るっ!!」
イリアスはそう即答すると、剣を抜いた。
だが、イリアスが剣を抜いたと同時に彼の持っていた剣の刀身にピッ……と一筋の線が入り、ポロリと刀身が地面に落ちる。
「はっ!?」
ヤツの前にたっている俺は何もしていないが、ナインが機械仕掛けの剣を手にしているところを見るに彼女がやってくれたのだろう。
しかし、怯むまいとヤツは今度は懐から細い杖を取り出すと魔法を唱え始める。
「フレイム…………。」
タンッ!!
イリアスが魔法を唱えている最中に一発の銃声が響くと、ヤツが手にしていた杖がポッキリと折れてしまっていた。
「そ、そんな馬鹿な……。」
ついに攻撃手段を失ったイリアスへとゆっくりと歩み寄っていくと、ヤツは先程の威勢とは真逆に怯え始めた。
「く、来るな……来るなァァァッ!!」
そして遂には、守っていた現ヒュマノの王のことを見捨て、走り去ってしまった。
「マスター、追いかけますか?」
ナインが問いかけてくるが、俺は首を横に振った。
「いや、いい。それよりも……。」
俺はイリアスが残していったヒュマノの王らしき人物へと近づくと、目線を合わせるためにしゃがみ、問いかけた。
「君が今のヒュマノの王……なのか?」
「う、うぇぇっ……イリアスぅ……一人にしないでよぉ。怖いよぉ。」
目の前でボロボロと泣き始めてしまったのは、まだ年端もいかない
「おいおい、まさかヒュマノは今……こんな幼い子供に国王の責務を負わせていたのか?」
「恐らくは以前殺されたという前国王の子孫かと。ヒュマノは代々王の血を受け継ぐ者が国王になるという仕組みらしいですので。」
そうナインが俺へと説明してくれた。
「ふぇぇぇっ……。」
「こ、困ったな。と、とにかく……そんなに怖がらなくていいぞ?俺達は君に酷いことをしたりはしないから。」
「ぐすっ……ホント?」
「あぁ本当だ。」
泣いている少女の頭を撫でながら優しく語りかけていると、少しずつ泣き止んできた。
「俺の名前はカオル。君の名前は?」
「アリス……。アリス・ヴィルシア。」
「アリスか。良い名前だ。」
ヴィルシアというのはこの王都についている名前だ。つまり、間違いなく彼女は先代国王の娘……という事だろう。
軽い自己紹介をしながら心を通わせていると、ふと彼女のお腹からきゅるるる……とお腹の虫が鳴いた。
「お腹空いてるのか?」
「うん……。少し前からイリアスが意地悪して食べさせてくれないの。」
「はぁ、野郎ッ……。」
「で、でもでもアリスが悪いの。お勉強もできないし……皆の前でお話もできないし……。怒られてばっかりなの。」
そうイリアスを庇うように自分を責め始めた彼女の様子を見て、俺は心のなかで何かが煮え立つのを感じた。
「君は何も悪くない……間違ってるのはこの国の人達だ。だから大丈夫。……少し一緒に来てくれるかい?お兄さんが美味しい食事をたくさん作ってあげよう。」
「ホント!?」
「あぁ。」
目を輝かせたアリスの手を引くと、服の袖から痩せ細った白い腕と、幾つか痣のようなものが見えた。
「……っ。」
虐待の痕……この子もカナンと同じような扱いを受けていたのか。
イリアス……お前はどこまで非道なんだ?
ぼこぼこと内側から沸き上がる怒りを必死に押さえていると……。
ドーン!!と大きな爆発音のようなものが揺れとともに聞こえてきた。
「マスター、セブンからの通信です。キメラ研究施設の破壊は成功。証人、及び証拠書類も押収したとのことです。」
「わかった。じゃあ合流しよう。さぁ、行こうアリス。」
「うん!!」
そして俺はアリスの手を引いて再びナインが切り裂いた空間へと足を踏み入れるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます