第257話 王都からの帰還


「わわっ!?あ、危なかったぁ~。」


 背後で大きな爆発を起こし倒壊していく建物からなんとか脱出したリルとセブン。


 すると、彼女達の目の前にピッ……と空間の切れ目が現れる。


「リルさん、無事ですか?」


 ナインが切り裂いた空間から俺は姿を現すと、目の前に立っていたリルに問いかける。


「なんとかね~。この人達を連れてなかったらもっと早く脱出できたんだけど。」


 そう言って彼女が縄を引っ張った先には、研究服を身に纏ったヒュマノの人達がいた。


「それで、さっきから気になってたんだけど……その子は?」


 リルはアリスを見つめながら問いかけた。


「この子が今のヒュマノの国王らしいですよ。」


「えぇぇぇぇっ!?」


 まぁ驚くのも無理はないな。こんな幼い少女が国王なんて誰も予想していないだろうし。


「リルさん、驚くのは後にしましょう。今はここから戻ることが先決です。」


「あ、う、うんそうだね。」


 リルは研究員の中で一人だけ別に拘束していた人間を掴むと、再びナインが切り裂いた空間へと入っていった。


「マスター、行きましょう。」


「あぁ。」


 俺もリルに続いてナインが切り裂いた空間を通ると、すぐ目の前には魔王城がそびえ立っていた。


「帰ってこれた……か。」


「作戦大成功だね。」


「ここ……どこ?」


 アリスはきょとんとした表情で目の前にそびえ立つ魔王城を眺めている。


「ここは魔王城。」


「魔王……城?」


「知らないか?」


「うーん、魔王が悪い人っていうのはイリアスから何回も聞いたの。」


「そうか。」


 まぁ、そういう教育を受けていても不思議じゃない。ヒュマノの上の人達は皆魔族が嫌いらしいからな。

 だが、実際に会って話してみれば……きっとアリスの魔王という人物への印象も、魔族全体への印象も変わるだろう。


 そう思っていると、俺達が帰ってきたことを察したらしいアルマ様と、カナンとメアが城の中から飛び出してきた。


「みんなお帰り~っ!!……ってあれ?その子は誰?」


 首をかしげるアルマ様とメアだったが、カナンだけはアリスに見覚えがあったらしい。


「わっ!!あ、アリスちゃん!?」


「へ?か、カナンちゃん?カナンちゃんなの!?」


 俺の手を離れてアリスはカナンの方へと歩み寄っていくと、彼女にぎゅっと抱きつき、また泣き始めてしまった。


「ふぇぇぇっ……カナンちゃ~ん!!怖かったよぉ!!」


「だ、大丈夫だよアリスちゃん。」


 おろおろしながらもカナンはアリスのことをなだめている。


「カナン、この子を知ってるのか?」


「あ、はい。この世界に呼び出されてから少しの間自由にさせてもらってたんですけど……そのときに仲良くなったのがアリスちゃんなんです。」


「なるほどな。」


 アリスが信頼できる人物がここにいたというのは大きい。これなら今後のことも円滑に進みそうだ。


 そして、カナンがアリスをなだめていると、彼女達の背後からジャックが姿を現し、こちらへと歩み寄ってきた。


「お疲れ様でございました。どうやら無事成功したようですな。」


「はい、現ヒュマノの国王……のアリスも保護しましたし……。」


「キメラを開発してたこいつもひっ捕まえてきたよ。」


 リルが首根っこを掴んで持ち上げた研究員は、どうやらキメラを開発していた張本人らしい。


 その報告を聞いたジャックは髭を触りながら言った。


「なるほど、その方にはたくさんのことを聞かねばならないようですな。」


「もちろん!!知ってることを全部包み隠さず……洗いざらい話してもらわないとね。生かして連れてきた意味がないよ。」


「ではその方への尋問は私も共に付き添いましょうか。」


「ありゃ、いいの?」


「はい、今のところ……こちらの方はカオル様とカナン様がいれば問題はないでしょうから。」


 チラリと彼は俺に視線を向けてくる。俺は彼のその視線に一つ頷いた。


「それでは、この際ですからクリスタにも尋問を手伝ってもらいましょうか。」


「あ、それ賛成!!クリスタがいれば、まぁ……隠し事なんかできないからね。」


「それではカオル様、そちらはお任せしましたぞ?」


「はい、わかりました。」


 そしてリルとジャックは連れてきた研究員の男を連れて行ってしまう。


「さて、それじゃあちょうどお昼時ですから……ご飯にしましょうか。」


「お昼ごはんっー!!もうアルマお腹ぺっこぺこだよ~。」


「アリスちゃんもお腹空いてるよね?一緒に食べよ?」


「うん!!」


 そして俺はお腹を空かせていた彼女達にたくさんの料理を振る舞うのだった。


 その時、美味しいごはんを食べて涙を流していたアリスの姿が強く……強く焼き付いた。

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