第252話 歴史の改変へ


 キメラを倒し、人間達を捕らえてから数日後リルが突然魔王城を訪ねてきた。彼女は俺とジャックとともに応接室へと入ると、口を開いた。


「急に来てごめんね~、ようやくあの人間が口を割ってくれたから、それの相談に来たんだ。」


「カオル様から事の事情は聞いています。それで、何を聞けましたか?」


「まず、ヒュマノはキメラを造り出してること……それでヒュマノはそれを兵器として使おうとしてるみたいだね。今回のキメラは試作品だったみたい。」


「ふむ……。」


 リルがあの人間から得た情報を聞いたジャックは訝しげな表情であごに手を当てた。そんな彼にリルは少し言動を強くして言う。


「ジャック、ヒュマノが造ったキメラに何人も人が殺されてる。あっちはもう平和条約なんて考えてないんだよ!!」


「言っていることは尤もです。ですが、平和条約をこちらから破棄すれば……それこそ何の罪もない人々が巻き込まれる戦争が始まるのですぞ?」


「わかってる、でも……ヒュマノに代償を支払わせないと、死んでいった人達も報われないよ。」


「えぇ、もちろんヒュマノには代償を払って頂きます。」


 そう告げたジャックにリルは問いかける。


「どうやってさ?」


「平和条約を破棄するのではなく、平和条約を従属条約へと変更させれば良いのです。」


「それ、どうやるの?」


「小数勢力でヒュマノの王都を落とします。」


 そのジャックの提案にリルはニヤリと笑った。


「なるほどねぇ~、全面戦争を起こすんじゃなくヒュマノの中枢である王都を直接落としに行くってわけね。」


「最も被害が低く、且つ確実性のあるものだと思いますが……その分小数精鋭が必要ですな。」


「私は行くよ。」


「わかっておりますよ。」


 ヤル気満々のリルに思わず苦笑いを浮かべるジャック。そんな彼に俺も声をあげた。


「ジャックさん、俺も行きますよ。」


「カオル様ならば間違いないでしょうな。」


「それと、ナインとスリー、セブンも連れていきます。ヒュマノの王都を落とすだけなら十分な戦力だと思いますよ。」


 ぶっちゃけた話、ナイン達の誰か一人でも王都へと乗り込めば……簡単に王都を落としてくれるだろう。だが、パラシミアのような厄介な能力を持ってるヤツがいるって可能性もないわけではない。だから全員で向かう方が確実性が高い。


「確かにそうですな。ですが、良いのですか?王都を落としたとなれば、ヒュマノに住む人間達から憎しみを抱かれることは避けられませんぞ?」


「そんなの気にしませんよ。俺の故郷はこの国ですから。」


 そう言って立ち上がると、俺の後ろにどこからかナインとスリーとセブンが現れた。


「ジャックさんはアルマ様達を守っていてください。すぐに終わらせてきますよ。」


「今から行くのですか!?」


「はい、これ以上被害が出るのも嫌なので。リルさんは準備できてますか?」


「もっちろん!!」


 そういって彼女が上着を広げると、上着の内側には大量に彼女の武器である苦無が貼り付けられていた。


「じゃあ行きますか。魔族とヒュマノの歴史を変えに。」


 その言葉と同時にナインは空間を切り裂いた。その空間を通ると、俺達はヒュマノの王都にある大きな城の目の前に降り立っていた。


 もちろん、突然現れた俺達を城を守っている兵士達が放っておくはずもなく、瞬く間に取り囲まれた。


「何者だっ!!」


「その姿……魔族かっ!!」


 リルの姿を見た兵士が叫ぶ。それを聞いてリルはやれやれといった仕草を見せた。そして俺達へと向かって兵士達が問いかけてくる。


「いったい何をしに来た!!ここは王都ヴィルシアだぞ!!」


 その兵士の問いかけにリルが答える。


「魔族が無断でここに来た……ってならやることはひとつでしょ。だよ。」


「なっ……そんな少人数で国盗りだと?笑わせるな、低能な魔族め。」


「あ~、笑ってられるのも今のうちだと思うよ?今のうちに好きなだけ笑ってるといいさ。」


「っ!!いい気になるなよ魔族ごときがっ……。全員捕らえろ!!」


 その号令とともに兵士達が押し寄せるが、ナインが機械仕掛けの剣をシュッ……と振り抜いたと同時に全員意識を刈り取られた。


 そして意識を失っている兵士へと向かって無慈悲にも苦無を振り下ろそうとしているリルの手を俺は止める。


「リルさん、それをやったらヒュマノとやってることが同じですよ。」


「……そう……だね。ごめん、ちょっと血が上ってたよ。」


 リルは苦無を上着の内側へとしまう。


「私はキメラの研究が行われてるっていう施設を制圧しに行ってくるよ。」


「それならセブンを連れていってください。一人で動くのは危険すぎます。」


「わかった。」


 リルに承諾してもらったあと、俺はセブンへと耳打ちする。


「セブン、リルさんが怒りに身を任せて人を殺めそうになったら止めてやってくれ。」


「了解しました。」


 そしてリルとセブンはキメラを造り出してるという研究施設を制圧しに向かった。


「さて、それじゃあ俺達はこの城を制圧するか。」


 入り口に張られた強力な結界をナインが切り裂き、俺達は正面から城の中へと足を踏み入れるのだった。

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