第251話 怒り心頭


 セブンとともに城下町へと帰ってきた俺たちは人間をずるずると引きずっていたことから、普段よりも注目を集め、周りからは少し遠巻きに見られているような感じがした。

 まぁそんな人の眼なんて気にせずに俺はギルドに戻ると、ギルドの中にはせっせと大量の書類を運ぶロベルタの姿があった。アルマ様たちの姿は見えないから、どうやら先に戻っているようだな。


 そしてロベルタは俺たちの姿に気が付くと、一度大量の書類を置いてこちらへと駆け寄ってきた。


「か、カオルさん!?ですよね?」


「はい、ちょっと諸事情で今はこんな姿になっていますが……間違いなくカオルですよ。」


 彼女が困惑するのも仕方がない。今の俺は体全体を龍化させているのだからな。おそらくほとんど変わっていない顔の部分を見て判断したのだろう。


「あ、あの~一つお伺いしますけどその後ろにいる方々は?」


「あぁ、この人たちは国境を踏み越えてきた不法侵入者たちです。なぁ?」


「「「ひっ、は、はいっ!!」」」


 俺がそう彼らに問いかけると彼らは必死に首を縦に振る。


「この人たちに関してリルさんと少し話があるんですけど、上ですかね?」


「あ、はいっ!!今呼んできますね。」


 そしてロベルタは急いでリルのことを呼びに行った。それから少しするとリルが慌てた様子で二階から降りてきた。彼女は俺たちが引き連れている人間を目にすると、あることを口にした。


「ラピスちゃんの言ってたことってこういうことかぁ~。」


「ラピスが何か言ってたんですか?」


「あ、いやまぁキミたちが何かしら厄介ごとを抱えて戻ってくるかもしれないって言ってたんだよねぇ。」


「あぁそういうことですか。」


「まぁロベルタから大方の話は聞いたけど、まだあるんでしょ?」


「はい、もっと重要なことが残ってます。」


「う~、一応地下行く?」


「そのほうが良いかもしれませんね。」


 そうして俺たちはリルとともに人間たちを引き連れて、地下の魔物選別室へと向かう。そこでリルが扉を閉め、彼らが完全に逃げ道を絶たれたことを確認すると俺は魔力で構成した縄を解いた。


「それで?この人間たちが国境を踏み越えてきたって?」


「はい、それと……今回討伐対象になったキメラはヒュマノで産み出されたものの可能性が高いです。セブン、リルさんにあの資料を渡してくれ。」


「はい、マスター。」


 セブンはリルにキメラについて記録をとっていた男が残したメモを手渡した。


「あぁ、当り前だけどヒュマノ語だね。どれどれ……。」


 そしてリルはその記録に目を通し始めた……読み進めていく最中リルの表情が少しずつ怒りに染まっていく。


「今回の実験体3体は改良の余地あり……ねぇ。」


 ビキッ……と額に青筋を浮かべたリルは、冷たい笑顔を浮かべながら俺たちに問いかけてくる。


「この記録を書いてたやつはどいつかなぁ?」


「あの隅っこで丸くなってるやつです。」


 俺は拘束が解かれた途端に部屋の隅っこへと飛び込んでいき、丸くなっている男を指差した。するとリルはゆっくりとその男に向かって近づいていく。

 彼女の足音がコツンコツン……と部屋の中に響きながらもゆっくりと自分の方へと近づいてくることを察した男は、リルが一歩踏み出すたびにブルブルと体を震わせた。


 そして彼女は男の背後でぴたりと歩みを止めると、上から震える男を見下ろしながらヒュマノの言葉で言った。


「キミ達があのキメラを産み出したのかい?」


 そう問いかけるがリルの問いに男は震えるばかりで答える気配がない。そんな男の態度でさらにイラついた様子のリルは、太ももに忍ばせていた彼女の武器である苦無をスッと取り出すと男の頬をかすめるように思い切り投げつけた。


「ひぃっい、いだっ!!」


「やっとこっちを向いたね。さぁ聞かせてもらおうじゃないか、キミ達が何をしようとしているのかを……ね?」


「ま、魔族なんかに話してたまるか!!これはヒュマノの機密事項な……ぶっ!!」


「うるさいよ。私の質問の答え以外に話さないで貰えるかなぁ?」


 口答えをしていた男の顔面をリルは平手で打った。そして男の胸ぐらをつかむと言った。


「キミ達が生み出したキメラで何人の魔族が死んだと思う?37人だ!!国境付近にあった小さな集落1つが壊滅したんだよ!!何の罪もない人たちをキメラに襲わせて、強いやつが討伐しに来るのを待ってたのかい!?くだらない情報を得るために……。」


 普段のリルからは想像もできないような怒号を発し、彼女は男の顔面を思い切り何度も殴る。それによってへし折られた男の歯が部屋に転がった。


「ぐ、ぐぶ……。」


 手が血まみれになるほど男のことを殴り続けたリルはくるりとこちらを振り返ると、いつものように笑顔を浮かべながら言った。


「キミ達、ごめんね……。ちょっと取り乱しちゃったよ。」


「いえ、大丈夫です。そいつ気絶したみたいですけど、どうするんですか?」


「もちろん情報を吐くまで尋問さ。さすがに今回ばかりは堪忍袋の緒が切れたよ。大丈夫……から。」


 そう言いながら笑顔を浮かべるリルはどこか狂気を秘めているようだった。普段怒らない人を怒らせるとこんなにも怖いんだな。


「あぁ、後そっちの人間たちはギルドで預かっておくよ。このことは後でジャックと相談しよう。もしかすると、今まで守り続けていた平和条約をこっちから破ることになるかも……ね。」


 そして俺とセブンはリルに人間たちを預けて魔王城へと戻るのだった。


 ちなみに龍化したまま戻ったせいで、ラピスとエンラに雄臭いと言われたのはもちろん、またしてもソニアが発情してしまった。今度からは気をつけよう。

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