第253話 王城侵略


 ナインとスリーと共に城の敷地内へと足を踏み入れると、城の中から大量の兵士達がわらわらと出てきて俺達の前で隊列を組んだ。


「貴様ら何者だっ!!」


 そして兵士達の隊長らしき人物が槍の矛先をこちらへと向けながら問いかけてくる。


「何者……かぁ。まぁ名前を名乗るつもりは無いが、あえて答えるなら……お前らヒュマノの身勝手な行為に終止符を打ちに来た魔族だよ。」


「魔族だと?なら無断でここに足を踏み入れたならどうなるか……わかっているな!!」


「あぁ、もちろんわかってるさ。名目上の平和条約は終わりだ。もう二度と……お前達の身勝手な行動で苦しむ人も、死人も出させない。」


 それだけ告げると、俺はトン……と軽く地面を蹴り、正面で隊列を組んでいた兵士達へと向かっていく。


「なっ……速っ…………ぐぉっ!!」


 先頭に立っていた隊長格の男を蹴り飛ばすと、後ろで余裕そうにしていた兵士達の顔色が変わる。


「悪いが、あんたらじゃ相手にならないぞ。」


「くっ、怯むな……がっ!?」


 兵士達を鼓舞しようとした一人の兵士をスリーが撃ち抜き、気絶させた。


「生憎ここで時間を食ってる暇はないからな。全員眠っててくれ。」


 そして俺は剣を抜くとナイン達と共に一瞬で兵士達を壊滅させた。


「さてと……。」


 兵士達を壊滅させた俺は、先程蹴り飛ばして城の壁にめり込んでいる隊長格の男の首を掴み問いかける。


「おい、今ヒュマノの王はだれだ?」


「ぐぅ……答えるわけな……ぶっ!!」


 口を割ろうとしない男に俺は容赦なく拳を振るう。


「もう一度聞く。今のヒュマノの王はだれだ?」


「言う……ものかっ!!」


「そうか、ならもういい。」


「ぐぶっ……。」


 男の首を掴んだまま、俺は再び彼を城の壁へと叩きつけた。その衝撃で意識は飛んだらしい。


「マスター、尋問の仕方がなっていませんよ?」


「仕方ないだろ。やったことないんだから。」


 情報を得られなかった俺に、チクリと刺さるナインの言葉。


「後で効率のよい尋問の方法もお教えしましょうか?」


「いや、いい。多分もうそんな事する機会なんて無いだろうし。」


 そう割りきって俺は堂々と正面から城の中へと足を踏み入れる。すると、見覚えのある通路の真ん中に普通の兵士とは明らかに雰囲気の違う三人の人影があった。


「随分派手にやってくれたなぁ魔族の野郎共。」


「魔・即・斬……この聖域に足を踏み入れた時点で死は確定。」


「悪いけど、ここから先には進ませないわよ。」


 俺達の前に立ちふさがったのは、巨大な体に大きな鎧と大剣を背負う男と、すらりとした身なりだが大太刀を手にしている侍風の男……そして最後に魔法使いらしき女性だった。


「マスター、どうやら先程の兵士とは比べ物にならないほど強いようです。」


「ん、わかってる。」


 そう分析した結果を伝えてきたナインの言葉に一つ頷くと、俺は一歩前へと歩みだした。それと同時に侍風の男が一瞬で大太刀を抜き放ってくる。


「我が魔斬刀に斬れぬもの無し。」


「ふーん?」


 正確に首めがけて飛んでくる刃……。だが、危険予知のスキルが発動しないということは……。


 キンッ!!


「なにっ!?」


「斬れぬものがなんだって?」


 侍風の男の大太刀の刃は、部分龍化で鱗で覆われた俺の首を斬ることはできなかった。

 そして俺は大太刀を龍化させた腕で掴むと、少しずつポキポキとへし折りながら、侍風の男へと近付いていく。


「これでもうこの武器は使い物にならないな。」


 侍風の男の目の前で大太刀の根本までポッキリと折ってやると、その左右にいた大男と魔法使いの女性が即座に動く。


「アイスロック!!」


「ん?」


 魔法使いの女性がそう言葉を放つと同時に俺の体が一瞬で氷に覆われる。


「オラァッ!!粉々になりやがれっ!!」


 氷漬けの俺へと振り下ろされる大男の大剣。それは俺のことを覆っていた氷を打ち砕くが、その刃が俺へと届くことはなかった。


「氷を砕いてくれてありがとな。」


「マジかよッ!!」


「こいつはお礼だ。」


「ぐおぉっ!!かはっ……。」


 龍化させた腕で鎧を破壊しながら大男の腹部へと拳を叩き込んでやると、大男はぐるりと白目を向き、口から泡を吹きながら倒れこむ。


「ハルキンッ!!くっ……アイススピア!!」


 今度は氷柱のようなものが弾丸のように俺へと向かって放たれる。


「いよっ。」


 俺はそれを掴みとると、距離をとっていた侍風の男へと一気に詰め寄った。


「ふんっ!!」


「がっ……。」


 氷柱の先端を持って、太い部分で侍風の男の頭へと振り下ろすと、あっさりと意識を刈り取れた。


「さて、最後はあんただな。」


「ベルまで……こんな……こんなことって。」


 味方二人があっさりとやられてしまったことで、絶望の色が顔に浮かぶ魔法使いの女性。しかし彼女はこちらへと杖を向けてくるとまた魔法を放ってこようとした。


「アイシクルッ……あぅ?……あ。」


 詠唱の間に一瞬で彼女の背後へと回った俺は、トン……と彼女の頚椎へと手刀を振り下ろして意識を刈り取った。


「お見事でしたマスター。」


「あぁ……。」


 恐らくナインやスリーと会えていなかったらこの人達をこんなにアッサリ倒すことはできなかっただろうな。この城を守っているほどの人材だからヒュマノのなかでは余程強かったのだろう。


「さて、多分これで兵士はあらかた制圧したし、王様を探すとしようか。」


 そして歩みだそうとした俺にナインが声をかけてくる。


「マスター、この城の地下通路らしき場所を通っている生体反応が確認できました。恐らくは隠し通路のような非常用の脱出路で逃げているものと思われます。」


「そいつが今のヒュマノの王っぽいな。ナイン、そこまで繋げるか?」


「可能ですマスター。」


 ナインは俺に言われた通りに空間を切り裂いた。恐らくはこの先に今のヒュマノの王がいるはずだ。

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