第247話 高まる懸念


 クリスタは席に腰かけると、早速今回起きたことについてリルが問いかけていく。


「パラシミアが殺されてた……って言ってたけど、見張りとかつけてなかったの?」


「もちろんつけていました。しかし、その肝心の見張り役だったエルフも何者かの襲撃で重症を負っています。」


「あちゃ~……まぁ命があっただけ儲けものかな。それにしても、あの森で警備してたエルフ達はその襲撃者には気付かなかったの?」


「はい……。」


「森の微細な空気の変化も感じとるエルフの警備をすり抜けて、しかも集落の中に足を踏み入れてパラシミアを殺していった……。多少でも魔力を使えばクリスタの感知に引っかかるもんね?」


「もちろんです。ですから……魔力を一切使用せず、しかも警備隊のエルフ達をも欺き集落へと侵入したことになります。」


「うへぇ……だとしたらとんでもないやつじゃん。」


「それに問題はパラシミアのことだけではありません。世界樹の果実が持ち出されていることもわかっています。」


 クリスタの言葉に思わずリルは頭を抱えた。


「考えられる一番の可能性として、今回そのパラシミアを殺していった輩はぺルの配下の可能性が高いよね?」


「恐らくは……。」


「そうなると、世界樹の果実がぺルの手に渡っちゃったって考えた方が良さそうだね。」


「世界樹の果実には無限の可能性が秘められています。わたくし達エルフですらも知らない可能性も……。そんなものがぺルの手に渡ってしまった……考えられる限りでも最悪のパターンです。」


 自分の失態だと思い込んでいるのか、クリスタはガックリと肩を落とした。

 そんな彼女にリルは慰めの言葉をかけた。


「そんなに落ち込むことないって、今回に関してはもうどうしようもなかったじゃん?それだけぺルの配下にとんでもないヤツがいるってわかっただけ大きな収穫だよ。」


「そうでしょうか……。」


「まぁまぁ、そんなにガックリ肩を落としてないで飲みなよ?少しぐらい気が楽になるからさ。」


 そう言ってクリスタを慰めながらリルは彼女に少しずつお酒を飲ませていく。


 こういう風に誰かを慰める能力に関してはリルは秀でていると思う。それも魔物ハンターのギルドの長だからこそできることなのだろうか?


 ただ、自分が落ち込んだときにはなかなか立ち直れないようだが……。まぁそのときは近くにいる俺達が声をかけてあげればいい。


 そうして途中からやけ酒を浴びるように飲んでいたクリスタはすっかり酔っぱらい、呂律が回らなくなってしまっていた。


「うぅ~、わらくしが長になってからダメなんれす。」


「そんなことないって、誰にだって失敗はあるんだからさ~。それに長だからって一人で抱え込みすぎなんだよクリスタは。」


「そうれしょうかぁ……。」


「そうそう。」


 ポロポロと涙を流しながらベッタリとテーブルにうつ伏せになったクリスタ。すると、彼女からは安らかな寝息が聞こえてきた。


 それを確認したリルはホッと一息つくと、俺の方を向いた。


「いや~、大変なことになったね。」


「情報源のパラシミアが殺された上に世界樹の果実まで盗まれたこと……ですよね?」


「そっ、正直パラシミアから必要な最低限の情報は引き出してたから問題はないんだけど、問題なのは世界樹の果実の方。」


「東の魔女ペルの手に渡ったらいったい何が起こるか……って話ですよね?」


「そそっ、問題はそこなんだよね。人間を魔物に変えるあの薬を作れるような魔女が、世界樹の果実を手にいれた……。となればぺルの手で何かまたとんでもない禁忌を犯すような薬が造られてもおかしくない。」


「となると、できるだけ早くぺルの居場所を突き止めて新たな薬が造られる前に……。」


「倒すしかないね。とは簡単に言えるけど問題は肝心の場所だよね。そこに関する情報が一切無いから、今は手の打ちようがない。カーラ達が何かしら情報を仕入れてきてくれればいいんだけど……。」


 そう言ってリルはくいっと手元にあったお酒を飲み干した。すると、クリスタのことを抱える。


「よいしょっと、それじゃあ私はクリスタのこと送ってくるよ。」


「一人で大丈夫ですか?」


「大丈夫大丈夫~、転移用の魔法陣はまだ残ってるからね~。ペルについてはギルドの方でも出来る限り情報を集めとくよ。」


「お願いします。」


 そしてクリスタを抱えたリルは魔法陣の上に乗るとエルフの集落へと転移していった。


(……今は情報を集めるしかないか。待つしかできないってやるせないな。)


 俺も手元の酒を飲み干すと、ギルドを後にするのだった。

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