第246話 不穏な雲行き


 新たなアンドロイド、セブンを従えてから数日後……俺は新たな情報を求めて夜のギルドへと向かう。


「ふぃ~……今日も疲れたなぁ。」


 セブンが新しく城のメイドとして働くことになったのは良いものの、普段の戦闘訓練が今までの非ではないほどキツいものになっていた。


 アリス流剣術を巧みに操るナイン……跳弾の弾道予測までも完璧に計算できるスリー、そして宙を自由に動き回り予測不可能な動きをしてくるセブン。

 一人一人を相手取っているとはいえ、個々の能力が高すぎる。危険予知のスキル無しでは正面に立つことすらも許されない。


 そういえば、セブンと戦闘訓練をしていて新たに気づかされたことなのだが……彼女はアリス流剣術を使うわけではなく、ただ単純に背中に生えている翼によって超加速しているらしい。その結果、俺の目には残像が残る……。

 要は彼女はアリス流剣術のような型にはまった戦い方ではない。彼女曰く、単純にとんでもないスピードで動いているだけ……とのことだ。

 

 ナインとスリー曰く、セブンは完全な戦闘モデルとして造られているため単体での戦闘能力は彼女達アンドロイドの中でも三本の指に入るのだとか……。

 因みにその三本の指の中にはナインとスリーは含まれていないらしい。その理由はあくまでも彼女達は戦闘補助を目的として造られているから……とのことだ。


 俺から見ればナインもスリーも二人とも十二分に戦闘タイプだと思うけどな。事実まだ彼女達が本気を出したら危険予知のスキルがあったとしても勝てないし。


 と、そんなことを思いながら夜の城下町を歩いていると、あっという間にギルドの前についてしまう。

 相変わらず夜でもここは明るいな。


 そしてギルドの扉を押し掛けて中へと入ると、今日は意外にも酒場にいたのはリル一人だけだった。


「リルさんこんばんは。」


 軽い挨拶を交わして、俺はリルと同じテーブルの椅子に腰かけた。


「あ、キミ来てくれたんだ~。最近だ~れもお酒の相手してくれないから寂しかったんだよ~。」


「カーラさんも来てなかったんですか?」


「うん、ってか何日か前にステラと一緒にどっか行っちゃってる。な~んか、東の魔女のぺル?について調べることがあるんだってさ~。」


「そうだったんですか。」


 そいつは初耳だ。


「でもしょうがないよね~。自分たち魔女の中で禁忌を犯してるやつがいる……ってなったらカーラ達的はできる限り、そいつを自分達の手で粛清したいはずさ。詳しい行き先は知らないけど、まぁ多分……西の魔女辺りに声でもかけに行ったんじゃないかな?」


「西の魔女……。」


 たしかダンジョン攻略の組織のトップでアーティファクトを集めてるんだったっけ?


「そっ、真っ先にダンジョン攻略してアーティファクトを根こそぎ手に入れて売っぱらってる集団の長。別名強欲の魔女っても呼ばれてるね~。裏で結構ヤバそうなこともやってるっぽいよ?」


 カーラから以前聞いた通り、なかなか悪名高い魔女らしいな。


「カーラさん達……大丈夫ですかね?」


「ステラもいるし、流石に大丈夫だと思うよ?」


「そう……ですね。」


 流石に心配しすぎか、ここのところヒュマノの動きが怪しかったり、ぺルの動きを気にしてたりで神経が過敏になってる。


 そしてリルと酒を飲み交わしながら話をしている最中、ふと俺はエルフのことを彼女に問いかけた。


「そういえば、あれからクリスタさんは何か情報を抜き取れたんですかね?」


 するとリルはふるふると首を横に振った。


「うぅん、肝心の情報源が目を覚まさないみたいだから何も進展はないね。今頃薬漬けになってるんじゃない?多分自白剤は毎日のように飲ませてるだろうし、魔力を封印する薬も定期的に飲ませてるだろうしね~。」


 あのパラシミアに使った自白剤……あれの効果はなかなかエグかった。自分の意思とはまるで別に問われたことに正直に答えてしまう。


 そんなことを話していると背後でギルドの扉が開く音が聞こえた。そちらに目を向けると、そこには少し神妙な面持ちのクリスタが立っていた。


「あれクリスタ?どしたの?」


「やられました。」


「やられた?」


「唯一の情報源だったあのパラシミアという男が今朝、見るも無惨な姿で殺されていました。」


「えぇっ!?」


 おっと、これはなかなか雲行きが怪しくなってきたぞ?


 兎に角詳しい話を聞くべく、リルはクリスタを同じテーブルの椅子に座らせた。

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