第242話 怒ると怖~い人


 スリーとともにエルフの集落の方へと歩いていくと、集落の近くで今回の戦いで怪我をした人達の治療などが行われていた。

 すると、俺の存在に真っ先に気がついたナインが駆け寄ってくる。


「ま、マスター!?お体は…………。」


「ナイン、マスターは問題ありません。」


 心配して駆け寄ってきたナインにスリーがそう告げると、ナインは目を閉じて一つ頷いた。


「なるほど…………。マスター、リルさん達が集落のなかでお待ちです。」


「わかった。そういえば……セブンはどうしたんだ?俺、ナインに預けたよな?」


「セブンは今緊急停止状態スリープモードに入っています。しばらく目を覚ますことはないかと。」


「そっか、それじゃあ先にリルさん達に会いに行こう。」


 そしてナインとスリーとともにリル達が集まっているというクリスタの家へと向かう。彼女の家の扉をノックすると、クリスタの家で家事を手伝っている精霊のルビィがひょっこりと顔を出した。


「あ!!」


「こんにちはルビィ、クリスタさん達はいる?」


「ご案内します~。どうぞこちらへ~。」


 ルビィに案内されながらクリスタの家の中を進んでいると、いつもの応接室へと通された。


「失礼しますクリスタ様~。カオルさんがいらっしゃいました。」


「失礼します。」


 俺が中へと入ると、そこにはクリスタとリル、そしてカーラとステラの姿があった。


「ご無事だったのですね?」


 俺が部屋に入るなり、クリスタが駆け寄ってきた。


「え?」


「ちょっとクリスタ~、くっつきすぎじゃない?あざといよ~。」


「心配していたものですから、ついつい。どうぞ、こちらへお座り下さい?」


「あ、ありがとうございます。」


 促されるがまま、俺はクリスタの隣に座らせられる。そして俺が席につくと真っ先にリルが口を開いた。


「いやぁ~、それにしてもビックリしたよ。キミがあんな変身?みたいなことできるなんてさ。」


「変身?」


「ほら、なんか翼生やしたりしてたでしょ?」


「あぁ、これのことですね。」


 俺は右手を部分龍化させて見せた。すると、これを知っているクリスタ以外の三人はまじまじと眺めてくる。


「ほぇ~、珍しいスキルだね。」


「変身……と言うよりも変質に近いか。それを使えばあの大規模な魔法も使える……という仕組みか?」


「ん?大規模な魔法?」


「覚えてないのかい?魔物を一網打尽にしたあの土魔法、それとその後それよりも強力な魔法を使ったよねぇ?」


「………魔法?」


 俺は魔法の心得なんてそんなにないはず……それに魔物を一網打尽にしたって……いったい?


 頭の中に大量の?が浮かんでいると、そんな俺をカバーするように後ろに控えていたスリーが口を開く。


「マスターは魔力の使いすぎで少し記憶が混濁しているのです。」


「まぁ、あれだけ強大な魔法を使えば……仕方がないことか。」


 納得したようにステラは頷くと、改めて話題を切り出した。


「それで、今回あの魔物達を率いてきたのはそいつだな?」


 ステラは床に転がって気絶している今回の首謀者を指差した。


「ステラはこいつに見覚えは?」


「私も永いことヒュマノにいたが、残念ながらそんなやつ見覚えはないな。本当にヒュマノが差し向けた者かもわからないぞ?」


「ヒュマノが差し向けた者じゃないってどういうことだい?」


「簡単な話だ。ヒュマノ国内で軍隊が魔物化したという噂が流れているのに、わざわざ自分が魔物化するかもしれないという戦いに志願するか?」


「……まぁ、普通ならしないだろうねぇ。」


「だろう?もしかすると、ヒュマノを装った第三勢力かもしれないぞ?」


 そうステラが話す最中、クリスタが口を開く。


「それもこれもこの方から全て聞けば済む話です。」


「でも気絶しちゃってるよ?」


「気絶している今だからこそできることもあるのですよ。ふふふふ……。」


 そう不気味にクリスタは笑うと、ポケットから幾つか薬の入った瓶を取り出した。すると、その薬がいったいなんなのかを知っているらしいカーラは少し顔をしかめながら言った。


「超強力な自白剤と魔力封印薬……それと筋肉弛緩薬だね?」


「流石はカーラ、良くわかっていますね。今のうちにこれを飲ませておきましょう。」


 クリスタは気絶している小柄な男に、次々にその薬を飲ませていく。気絶しているのにも関わらず薬を流し込まれると、ビクビクと身体が震えている。


 その様子をカーラとリルは少し引き気味に眺めていた。


「クリスタって怒ると結構エグいことするよね。」


「あぁ、だから怒らせちゃいけないのさ。」


「ふふふふ……ふふふふふふ……。」


 この後この男に待っている末路は悲惨なものだろう。


 妖しく、そして嗜虐敵に笑いながら薬を流し込むクリスタは今まで見たことがないほど狂気的だった。


 マジで怒らせちゃいけない人だということを、俺は再認識するのだった……。

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