第241話 カオル(?)


「くっくっくっ……。」


 くつくつと笑いながらゆっくりと未だ操られている魔物達へと向かって歩みを進めるカオル(?)。

 すると、魔物の群れの中から一匹が襲いかかってくる。


「遅い。」


 笑みを崩さず、襲いかかってきた魔物の顎を蹴り抜くと、ガックリと崩れ落ちた魔物の頭を龍化させた腕で掴んだ。すると、カオル(?)は徐々に魔物の頭を掴む腕に力を籠めていく。


「脆い……まぁ所詮元は人間か。」


 バキッ……と音を立て掴んでいた魔物の頭蓋骨を砕くと、カオル(?)はもの足りなさそうにそう呟きながら、事切れた魔物を投げ捨てた。


 そして仲間の魔物が殺されたのを見て一斉に何匹もの魔物がカオル(?)へと襲いかかってくる。


 しかしカオル(?)はまるで降りかかる火の粉を払うように、淡々と龍化している身体を使い、次々に魔物を倒していった。

 

「くぁぁ……雑魚の相手は眠くなる。ここらで終わりにするか。」


 チラリとカオル(?)は味方であるリルやカーラ、エルフ達の方へと視線を向けると、人指し指をくいっと上に持ち上げた。すると、リル達が相手にしていた魔物達……そして後続の魔物達も突如として現れたドーム状の土の壁に閉じ込められる。


「な、なに!?」


 突如として目の前に現れた土の壁に戸惑うリル達の前にカオル(?)は降り立つと、一言だけ告げた。


「下がっていろ。」


「えっ?」


 状況を理解できず、動けずにいたリル達の目の前でカオル(?)が翼を大きく広げると、暴風が巻き起こり、リル達がなすすべなく後方へと強制的に吹き飛んでいく。


「さて、片付けるとするか。」


 リル達が後方へと下がった事を確認すると、カオル(?)は人指し指の先端に小さな火の玉を造り出す。彼はそのまま腕をドーム状の土の壁の中へと突っ込んだ。


「龍の王たる者の力の片鱗を最期に見せてやろう。。」


 すると、一瞬にしてドーム状の土の壁が内側から真っ赤に染まる。


「うむ、もうよかろう。。」


 再び呪文のようなものを唱えると、真っ赤に熱されていた土の壁が一瞬にして熱を持たなくなり、ボロボロと崩れ落ちていく。


 その中には閉じ込めていた筈の魔物達の姿はなく、炭となった何かが転がっているだけだった。


「まぁ、まだこんなものか。完全に龍昇華が馴染んでいるわけではないしな。」


 そして魔物達を一瞬で片付けてしまったカオル(?)の前にスリーが現れる。


「む?貴様は……。そうか、主の従者か。」


「言動がマスターと一致しません。何者ですか?」


「ふむ、何者か……と問われると答えるのが少し難しいな。我に名はないが、敢えて答えるとするのならこの肉体に存在するの二つの意識のの方だ。」


「二つの意識?龍昇華によって人格が変わるというデータはありませんが?」


「それは今の今まで龍昇華を口した者達が龍の王になる存在として認められなかったからだな。」


「マスターは認められた……だから二つの人格を持ってしまっているということですか?」


「そうなるな。」


「ではもう一つ問います。マスターの自我はいつ戻るのですか?」


「くっくっくっ、そう急くな。すぐに戻る。我がこちら側に姿を出せるのは主の意識が失われたときのみだからな。……っと、ほらもうすぐ入れ替わる。」


 そう言ってカオル(?)は目を閉じた。





 ふと、意識を取り戻して目を開けると目の前にはスリーの姿があった。


「あれ……俺は……。」


「マスター?マスターなのですね?」


「スリー?」


 何度も確認するようにスリーは問いかけてくる。


「マスター、記憶はどこまで覚えていますか?」


「記憶?えっと……確か…………あ、うなじに何か植え付けられたのは覚えてるな。」


 さすさすと自分のうなじを触ってみるが、そこにはもう何もなかった。


「そこから意識が切り替わった……ということですか。」


「ん?何か言ったか?」


「いいえ、こちらの話です。」


「ってかそれよりも魔物は?リルさん達は?」


「魔物は全て倒されました。リルさん達も無事です。」


「ホッ……ならよかった。」


 そうして一つ安堵のため息を吐き出すと、視界の端にクレーターになった地面に埋まっている人間の姿が目に入った。


「ん?あいつは……。」


 そのクレーターの方に近づいていくと、その中心には白目を向いて泡を吹きながら倒れている人間の姿があった。おぼろげながら覚えているが、確かこいつに変なのを植え付けられたんだよな。


「スリー、こいつは……まだ大丈夫か?」


「人体を構成する骨の大部分を骨折しているようですが、奇跡的に内臓への損傷はないようです。今からでも十分に助かる見込みはあります。」


「ん、了解。なら……こいつを連れてリルさん達のとこに行くか。」


「了解しました。念のため麻酔弾を撃たせてもらいます。変な行動をされては困りますからね。」


 そういうと、スリーはヤツの首もとにプスリと銃弾を撃ち込んだ。


「これでしばらくは起きないでしょう。」


「オッケー、それじゃあ連れていこう。」


 そして俺がヤツを背負おうとした時、ポツリとスリーが言った。


「マスター、リルさん達のもとへと向かうのは良いのですが、その格好では少々問題があるかと……。」


「ん?格好?んんん!?」


 チラリと自分の身体を見つめ直してみると、着ていたはずの服は跡形もなく、全裸になってしまっていた。


「……妙にスースーすると思ったらそういうことだったのか。」


 なんでまた意識を失ってる間にこんなことに……。予備の服を収納袋に入れててよかった。


 俺は収納袋から着替えを取り出して着替えると、改めてヤツの事を背負ってリル達のもとへと向かうのだった。

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