第240話 vsセブン


 俺は背中に意識を集中させると、部分龍化が発動し背中から龍の翼を生やした。

 そしてセブンというアンドロイドへ続く道を塞ぐ変異した魔物達を切り裂きながら彼女の前に立つと、彼女は俺の事を見つめながらポツリと呟いた。


「最優先殲滅対象を設定……行動に移ります。」


 そう彼女が呟くと、彼女の機械の翼に光の線が走り、その翼を一つ羽ばたかせると一瞬で彼女は槍の間合いへと侵入してくる。


「さすがに速いな。」


 それと同時にキラリと光る槍の矛先がこちらへと向かって突き出されるが、俺はそれを剣の峰で受け流す。そして受け流しながら今度は俺の剣の間合いへと踏み込んだ。


「飛閃!!」


 間合いへと入った俺はすぐさまアリス流剣術壱の太刀飛閃を放つ。


「…………。」


 しかし彼女は再び翼を羽ばたかせると、一瞬で俺との距離を取り、その槍の攻撃で飛閃を打ち消した。


「目標の戦闘能力の数値に計算ミスあり。出力上昇します。」


 すると、また彼女は翼を羽ばたかせ、一気に距離を詰めてくる。それを迎撃しようと剣を横凪ぎに振ったその瞬間、彼女の姿が目の前から消える。


「っ!?」


 それと同時に危険予知のスキルが発動し、時間の流れがピタリと止まる。

 自分の影に違和感を覚えた俺は上を見上げると、そこには今にも槍を突き刺そうとしているセブンの姿があった。


「直進してきてる途中で直角に曲がって上をとったのか。」


 魔力の細分化を使ってもあの速度を維持したまま進行方向を変えるのは至難の技だな。


 俺が彼女の真下から一歩後ろに下がると、時間の流れがもとに戻り、先ほど俺がいた場所に深々とセブンの槍が突き刺さっていた。


「……?ERROR……ERROR。計算上避けることは100%不可能だったはず。」


 不可解そうにそう呟くセブンに俺は切りかかる。


「……っ。」


 俺が振るった剣を間一髪槍の柄で受け止めた彼女。明らかに動揺している彼女に俺は告げた。


「100%の可能性が覆ることだってあるんだぞ?」


「理解……不能。これ以上の戦闘はシステムに甚大な不可をかけると判断。出力最大。」


「やっと全力か。」


 ブン……という音とともに彼女の翼に走っていた光が赤く染まっていく。そして翼全体に赤い光が走ると彼女は一気に上空へと飛び上がった。


 上空で彼女が槍を地面へと向かって構えると、矛先に赤い光が集束していく。


赤い雨レッドレイン。」


 その言葉とともに放たれたのは槍の攻撃を具現化した飛閃のような攻撃。だが、放たれている数が尋常ではない。エルフ達の方は恐らくナインとスリーがどうにかしてくれるだろうが……。


(考えてる暇はないか。)


 チラリと視界に群れになっている元は人間だった魔物達の姿が目に入るが、彼らはもう人間じゃない……。あの時割りきったはずだ。

 邪念を振り払うと、俺は翼を羽ばたかせ、堕ちてくる赤い槍の攻撃を弾きながらセブンへと向かっていく。


 すると、彼女はポツリと呟いた。


「計算通り。詰みです。」


「っ!?」


 彼女の言葉と同時に、地上へと降り注いでいた槍の雨は一斉に向きを変えて俺へと向かってきた。


(なるほど、最初から狙いはこれだったってわけか。)


 理解すると同時に彼女の槍が眼前へと迫る。背後には槍の雨……。逃げ場はない。


 なら……前に行くしかない!!


 そう割りきった俺はセブンの槍へと向かって行く。

 彼女の槍に身体が貫かれる刹那……陽炎を使い残像を残し俺は彼女の背後へと回り込んだ。

 空中で使用するのは初めてだったが、上手くいった。


 それによって生まれた決定的な隙を逃さず、俺はセブンのうなじに生えていた異物を根本から切り落とした。すると、切り落とされた異物はサラサラと塵になって消えていった。それと同時にセブンは意識を失い、自分が放った槍の雨の方へと落ちていく。


「っ!!不味い!!」


 すぐさまセブンの事を抱えると、俺は地上で既に魔物の殲滅をほぼ終えていたナインへと向かって投げた。


「頼むぞナイン!!」


「マスター!?」


 そして目の前へと迫ってくる槍の雨……。剣で捌ききるのは無理だ。そう判断した俺は身体の大部分を龍化させ、龍鱗で覆う。

 この鱗の防御力を試す良い機会だ……。真っ正面から受け止めてやる!!


 そして防御の構えを取ると、身体のあちこちに次々に衝撃が走る。


「ぐっ……。」


 危険予知が発動しなかったということは……耐えられるはずだ。


 そして何度も何度も身体を打つ衝撃に耐えているとようやく収まった。


「ふぅ……なんとか耐えきったか。」


 服はまぁボロボロだが、肝心の身体にはほぼ傷はついていない。しいて挙げるとすれば、先ほどセブンの攻撃を陽炎で避けたときに、避けきれず頬に少し切り傷が残っているぐらいか。


 さて、地上の残党を倒しにいくか……と思いゆっくりと降下していた時だった。


「キミィ~、なかなか良い肉体を持ってるねェ~。」


「っ!?」


 突然背後から声がしたかと思えば、うなじに衝撃が走った。その途端身体の自由がきかなくなる。


「アハハハッ!!味方同士で殺し合うといいよ。さァ……行け!!」


 身体の自由がきかなくなるとともに意識がどんどん薄れて行く最中……心臓が大きくドクンと脈打つと、頭に声が響く。


『支配はされるものに非ず、我らは支配する側なのだ。自覚しろ……。貴様はもう人ではない。龍の王になる器だ。自覚し受け入れることで真の力が芽吹く。くだらない支配なんぞ力で捩じ伏せろ。まぁ、今回は我が少し力を貸してやる。』


 その言葉が聞こえた瞬間……自由がきかなくなっていた身体が勝手に動き、うなじに植え付けられた異物をブチブチと引きちぎった。


「エッ?グェッ!?」


 そしてそのまま俺に異物を植え付けた張本人の首を締め上げると翼を羽ばたかせ、地面へと急速に落下していく。


「ちょちょっ!?な、何で!?縛れな……。」


「一つだけ教えてやる。貴様ごとき矮小で姑息な人間が……を支配するなど不可能なのだ。」


 そう告げると同時に地面にヤツを叩きつける。


「カヒュッ……。」


「フン、本来なら塵も残さず殺してやるところだが……どうやらあるじはそれを望んでいないらしいからな。」


 ピクピクと痙攣し泡を吹いているヤツをその場に置き去りにすると、未だ残っている魔物達へと目を向けた。


「さて……まだあるじの自我は戻らんようだ。なら少々遊んでも構わんだろう。」


 ニヤリと口角をつり上げると、カオルの意識を支配した何かは魔物へと向かって歩いていくのだった。

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