第243話 本当の首謀者
クリスタが今回の首謀者の男に薬を飲ませてから約一時間後……。
「はぁっ!?」
俺達の前でヤツは飛び起きた。
「ようやく起きましたか。」
状況を理解すべく辺りをキョロキョロと見渡しているヤツを高圧的に見下すクリスタ。
「つっ……。アハハハ、僕を殺さなかったんだァ……。」
ヤツは笑うと痛む脇腹を押さえながら口を開く。
「勘違いしないで下さい。貴方は今、わたくし達に生かされているだけに過ぎません。」
「生かされている……かァ。甘いことするねェ読心のクリスタ?」
「わたくしの二つ名を知っているのなら今から何をされるのかはわかっているのでしょう?
「……ハハ、その二つ名は噂以上だね。試しに自分の名前を心で思い描いたら読まれちゃったよ。」
クリスタが心から抜き取った情報によると、どうやら男の名はパラシミアというらしい。
「でもまァ……あげれる情報はそれだけサ。」
「……なるほど、貴方は読心術に耐性があるようですね。わたくしの読心術を阻害するほど耐性をつけるのには、なかなか辛い訓練をしたのではないですか?」
「アハハハ、当たり前サ!!万が一にも情報を抜き取られるなんて失態は……犯せないからねェ。」
どうやらこのパラシミアという男はクリスタの読心術に耐性があるらしい。まぁ、その可能性も含めてこいつが目覚めるまでにさんざん準備していたんだがな。
「だってさ、どうするんだいクリスタ?」
カーラがわざとらしくクリスタに問いかける。すると、クリスタは嗜虐的に笑いながらパラシミアに問いかけた。
「ふふふふ……パラシミア、貴方を動かしたのは誰ですか?」
普通なら答えるはずのないその質問……だが、パラシミアは彼自身思っていたことと違う事を口にすることになった。
「僕を動かしたのは東の魔女ペル様の一番弟子のエミル様サ。…………は?」
あっさりと自白したパラシミア。そんな彼の言葉を聞いたステラが言った。
「ほら、言ったことか。やはりヒュマノからの刺客ではない。大方あの魔物に変えられた人間達はぺルの実験体だろう?」
「その通りサ……~~~っ!?な、何デ!?」
「貴方は……いえ、貴方も含めて後ろにいる方々もわたくし達エルフを侮っていたようですね。東の魔女ペル……製薬の魔女だとは聞き及んでおりました。ですが、わたくし達エルフも薬という分野に関しては永きに渡って研究してきた種族なのですよ。」
「僕には薬物耐性もあるはずダッ!!エルフなんかの薬が効くはずなんて……。」
「薬物耐性?そんなもの、あってないようなものですよ。恐らく貴方は東の魔女ペルに色々な薬を飲まされた末……それを手に入れたのでしょうけれど。残念ですが、貴方が手にいれたのはそのぺルの造る薬物に対する耐性です。世界樹を礎に造ったわたくし達の薬には意味をなさないようですね。」
にっこりと笑いながらクリスタがそう告げると、パラシミアの表情が一気に青ざめていく。
「こ、こうなったら……あ、あれ?手が動かな……。」
「あぁ、手足は動かせませんよ?手足の骨折は治していませんからね。それに魔法を封じる薬も投与したので使えません。」
何か行動に移ろうとしたパラシミアだったが手足は骨折しているせいでろくに動かず、魔法は薬によって封じられている。
それに加えてだめ押しとばかりにクリスタはパラシミアが気絶していた間に押収した結晶を彼の目の前でちらつかせた。
「これは帰還石ですね?さぁ……いったいどこへと帰るつもりだったのでしょうか。」
「そ、それはッ!!」
「まぁ、帰ったとしてもこれだけ情報を話してしまったのでは、貴方が生かされるとも考えにくいですし、破壊してしまっても問題ありませんね♪」
「アッ…………。」
にこやかに微笑みながらクリスタはパラシミアの目の前で帰還石という結晶を握りこむと、あっさりと粉々にしてしまった。
「さぁ、もっと……もっとわたくしとお話しましょうか♪ふふふふ……♪」
そしてパラシミアの最後の最後の希望を目の前で断ったクリスタは、彼への尋問を再開した。それを間近で見ていた俺達は思わず、そのえげつなさに身を引いてしまうほどだった。
「うはぁ~……流石は尋問のプロだよね。エッグいことするよ。」
「ま、アタシ達じゃあちょいと真似できないねぇ。」
「ぺルについた者の末路には相応しい。私はもっとやれと言ってやりたいぐらいだ。」
結局、最初はあんなに強気だったパラシミアも、話したくないことをペラペラと無理矢理自白させられているうちに泣きわめき始めた。
しかし、それでもクリスタは集められるだけの情報を集めるためにひたすらに尋問を続けていた。そして、遂に精神の限界を迎えてしまったパラシミアはまたしてもパタリと気絶してしまう。
「あ、少々やり過ぎてしまいました。ついつい興がのってしまいましたね。」
「ちっとは加減を考えなよ。」
「フフフ、善処しましょう。カーラ、拘束の魔道具を貸していただけますか?」
「そう言われると想って持ってきたよ。」
そしてカーラは両手足を拘束できる拘束具を、クリスタに手渡した。
「魔法の使用も制限する魔道具だ、そいつで拘束しときゃまず逃げられないよ。」
「ありがとうございます。」
カーラの魔道具でパラシミアの両手足を拘束したクリスタは移動魔法で彼のことをどこかへと飛ばした。
「ひとまず重要な情報は抜き出しました。今回の襲撃の本当の首謀者は東の魔女ペル……正確にはその弟子らしいですが。」
「ま、関係ないさ。人間を魔物に変える薬なんて作ってる時点で禁忌を犯してる。ぺルも同罪さ。」
「違いないな。」
「それじゃ、ちょいとアタシとステラは先に帰らせてもらうよ。やることがあるからねぇ。」
「えぇ、二人ともありがとうございました。」
そしてカーラはステラとともに移動魔法でどこかへと行ってしまう。
「じゃ、私はギルドのみんなの手当てに戻るよ。」
「わたくしも行きましょう。カオル、貴方はどうしますか?」
「俺は……。」
「マスターはまだやることが残っていますので、ナインが預かります。」
「そうですか。」
「ではマスター、参りましょう。」
ナインは空間を切り裂くと、俺の手を引いてそこの中へと連れていかれた。
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