第238話 因縁の一発
ステラが椅子を蹴り上げ、作った一瞬の隙を見て俺達は戦闘準備を整えた。
「ハハハハ、カーラ……こうして肩を並べて戦うのは久しいな。」
「ぶつかり合ったのはつい最近だけどねぇ。ま、味方なら心強いよ。」
「さて、イリアス我々は準備が整ってしまったが……どうする?」
「怯むな!!囲んで叩け!!」
イリアスの号令とともに浮き足立っていた兵士達が俺達を取り囲むような動きを見せるが……ステラがスッと横に一閃、杖を振るうと兵士達はピタリと動きを止めた。
「フリーズ……。私の学舎で好き勝手な行為はさせないぞイリアス。」
「魔法を使ってくるのは想定内だ!!魔崩の輝石!!」
イリアスは胸元から光る宝石のような物を取り出すと床に向かって叩きつけた。するとそれは、まるでガラスのようにアッサリと砕け散り黒い霧のようなものが部屋の中に充満した。
それと同時に動きを止めていた兵士達が少しずつ動き始める。
「ほぅ……貴重な輝石を使ってまで私達を捕らえたいか。」
「万が一にも国家に対する反逆者を取り逃がしてしまっては我々の顔に一生とれない泥を塗るようなものだからな。さぁ、やれ!!」
動けるようになった兵士達が各々武器を振り上げた瞬間、俺は鞘から剣を抜き放った。
そして剣を鞘へと納めると兵士達が持っていた武器に切れ目が入り、ポロポロと床に落ちていき使い物にならなくなってしまう。
それを真横で眺めていたステラがポツリと言った。
「おぉ、なんとも恐ろしい剣技だ。抜刀から納刀までの動作が見えなかった。」
「これでも師にはまだまだ及ばないが……な。」
「使者殿にも師がいるのか?是非とも合ってみたものだな。」
そんな事をステラが話していると、隣でカーラが呆気にとられていた兵士達の頭上から巨大な杖を振り下ろし、一人一人気絶させていく。
「舐めてもらっちゃあ困るねぇ、アタシ達魔女は確かに魔法の腕を認められてそう呼ばれちゃいるが……魔法が使えないって時でもある程度は戦えるんだよ。」
「カーラの筋力には強化魔法をかけても勝てないからな。」
「うるさい。」
杖で物理的に気絶させていくカーラの横で、ステラも細い杖をを槍のように使い、兵士達喉元を突き気絶させていく。
すると、あっという間に部屋の中にはイリアスだけがポツンと取り残されていた。
「く、くそっ!!」
率いていた兵士達がやられたのを見ると、イリアスはすぐに逃げ腰になり、踵を返して逃げようとする。だが、ヤツが部屋を出る寸前で俺は動き、一瞬でヤツの目の前へと移動した。
「なっ……!?」
「逃がすわけないだろ?お前に苦しめられた人達の痛み……苦しみを味わって貰おう。」
ぐっ……と右手の拳を握りこむと、ビキビキと意図していないのにも関わらず腕が黒い鱗で覆われ、部分龍化が発動する。
しかし、そんなことお構いなしに俺は全力で握った拳をヤツの顔面めがけて振り抜いた。
「ぶっ……!?」
拳がイリアスの顔面を捉えたと同時に、バキバキといろんなものが砕ける感覚が直に伝わってくる。そしてヤツはとてつもない勢いで吹き飛んでいくと、廊下の行き止まりの壁にめり込み止まった。
「ふん。」
手に伝わってきた感覚からして顎の骨はもちろん、歯もボロボロになっていることだろう。次に会うとき……どんな顔になっているのか楽しみだ。願わくば整っていた顔が醜く歪んでいれば滑稽なのだがな。
殴りたかったヤツを思いっきりぶん殴ってスッキリしていると、校長室からステラとカーラが出てきた。
「ハハハハ、まるで人間の張り型だな。この学舎の名所になりそうだ。」
「呑気に笑ってる場合かい?これからどうするのさ。」
「ヒュマノにいられなくなった以上、そっちの国に世話になるしかないだろう?」
「だってさ?」
チラリとカーラは俺の方に視線を向けてきた。
「変な気を起こさなければ構わない。」
「使者殿の心が寛大で助かるよ。」
「アタシはちょいと甘い気がするけどねぇ。ま、いいさ騒ぎが広まる前にとっとと帰るよ。」
カーラがトン……と杖を床につけると再び魔法陣が俺達の足元に現れ、光を放つ。そして次の瞬間にはカーラの家の前に転移してきていた。
「
「そうですね。」
何気ないやり取りをしていると、ニヤリとステラが笑う。
「ほぅ?使者殿の名はカオル……というのか。随分親しいようじゃないかカーラ?」
「なっ、べ、別に……。」
「使者でもカオルでも好きなように呼べば良いさ。この国で暮らすことになる以上いずれ知られるものだった。」
「では私もカーラと同じくカオルと呼ばせて貰おうか。」
「好きにしてくれ。……それじゃあカーラさんステラのことは頼みました。」
「あぁ、アタシが目を光らせとくよ。」
こうして北の魔女と南の魔女がこの国に住まうことになったのだった。
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