第237話 ペルの思惑
ステラに案内され、彼女が校長を務めている学校の中を歩いていると、そこかしこの教室で魔法の授業のようなものをやっているのが目に入った。
歩きながらそれを眺めていると、ステラが口を開く。
「平和の使者殿はこういった子供達を見るのは初めてかな?」
「こうして魔法の勉強をしている子供を見るのは初めてだ。」
普通に俺も日本にいたときに学校に通い、学問を学んでいたが……この世界の学校を、しかも魔法に精通した学校で勉強をしている子供達をこの目で見るのは初めてだ。
「そうかそうか、存外可愛いものだろう?熱心に魔法の勉強にうちこむ子供達の姿というのは。」
「まぁ……な。」
そんな会話をしているうちに、この学校の校長室……つまりステラの部屋の前へとたどり着く。
彼女が校長室の扉へと向かって手をかざすと、そこへの立ち入りを禁ずるように張り巡らされていた魔法の鎖が姿を現した。
「ここには私の魔力を流さないと開かない魔法をかけている。まぁ、私自身が信用した者しか入れないようにするため……と思ってくれればいい。」
そう説明すると、扉を封じていた鎖がパン!!と音を立てて消え去った。そしていよいよ中へと入ると、そこは意外にも質素な部屋で……仕事用の机と来客用のテーブルとソファーが置かれているだけの部屋だった。
ステラは、俺とカーラを来客用のソファーに座らせると、紅茶を淹れて来てくれた。そして彼女もソファーへと腰かけると紅茶を飲みながら話を始めた。
「ここに来た目的は、少し前に話題になった人間を魔物へと変える薬のことを聞くため……だろう?」
彼女は俺達がここに来た目的を見抜いていたようだ。ならば話は早い。
「あぁ、そうだ。何か知ってることはないかと思ってな。」
「その事件に関しては色々こっちも調べていた。だが、近頃私も王宮への出入りは禁じられてしまった故、知っている情報は僅かだ。」
「王宮への出入りが禁じられた?なんでまた……。」
前にこちらの国に来たときは、彼女がイリアスを率いてきたような感じだった。だからてっきりステラは王宮の中でも地位が確立されているものだと思っていたのだが……。
「どこかの平和の使者サマにボロ負けして帰ってきてしまったからな。」
ジト目でこちらを見つめてくるステラ。
「う……それは…………。」
「ハハハハ、まぁそれは冗談さ。それとこれとはまた別な話。以前そっちを訪ねた時にイリアスが喚いていたから知っていると思うが、この国の国王が何者かに殺された。そのせいで散々ヒュマノに貢献してやった私でも王宮の中に入れなくなったのさ。」
「……なるほどな。」
「さて、話を戻そうか。人間を魔物へと変える薬についての情報だったな。」
そう言って彼女がテーブルの上に置いたのは何枚か束ねられた書類。
「それはエルフへと進軍した者達の名簿だ。一番上のやつが今回唯一の生き残りだった指揮官だ。」
その書類には名前の横に×印がズラリとつけられていた。そしてその印は指揮官だったという男の名前の横にもついている。
「この×印……死んだってことか?」
「あぁ、その認識で間違いない。」
「指揮官は生かして返したはずだが?」
「ハハハハ、今この国は闇がどんどん深くなっている。そいつは情報隠蔽のために消されたよ。」
「……結局辿る末路は同じだったか。」
ポツリとそう俺が呟くと今度は彼女の方から問いかけてきた。
「話を聞いている限り、今回エルフに派遣した部隊を壊滅させたのは使者殿だろう?」
「あぁ。」
「まぁ、エルフだけでは対処のしようがない、かなりの大隊だったからな。そんなことだろうとは思っていた。」
自分の考察が合っていたことを確認しながら、彼女は紅茶を口にする。そして今度はカーラへと言葉を投げ掛けた。
「カーラもおおかた予想はついているだろうが、おそらく魔物化の薬を作ったのはペルだ。私の知る限り、そんな魔薬を作れるのはあいつしかいない。」
「ま、そうだろうねぇ。」
「それに、ペルは今回の騒動と同時に姿をくらました。いくらなんでもタイミングが良すぎる。」
「魔力感知には?」
「引っ掛からない。少なくともこの国にはもういない。」
「となると、いよいよって感じだねぇ。」
「カーラ、わかってるな?禁忌を犯した者は同じ魔女だろうと……。」
「あぁ、アタシ達が裁かないといけない。だけどその前にペルの居場所を掴まないと始まらないねぇ。」
と、そんな話をステラとカーラがしていると、突然部屋のドアが蹴り破られイリアスと武装した兵士達が雪崩れ込んできた。
「反逆者ステラ!!貴様を拘束する!!」
「ハハハハ、ペルのやつ私に罪を被せて消えたか。」
「それと貴様ら二人も拘束させてもらうぞ、北の魔女カーラとそこの人間。」
「おやおや、アタシもかい。」
「俺もらしいな。」
「さてどうする?カーラ、平和の使者殿?」
余裕そうな笑みを浮かべながらステラは問いかけてくる。
「生憎捕まるのは御免だな。」
「アタシもさ。」
「ならここは一つ協力しようじゃないか。」
「あぁ、そうだな。」
彼女の誘いに頷くと同時に、ステラはテーブルを蹴り上げ、イリアス達の方へと飛ばす。それと同時に俺は剣を収納袋から取り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます