第236話 南の魔女再び


 アルマ様達と戯れ、約束通りケーキを作りご馳走した俺は、空き時間を使ってカーラの家を訪れていた。


 魔法で隠してある彼女の家の前にポツンと置かれているインターホンのボタンを押すと、そのインターホンから声が聞こえてきた。


「誰だい?」


「カーラさん、カオルです。」


「なんだ、カオルか。」


 最初の警戒していたような口調から、俺の声を聞いた途端、彼女は警戒を解いた。そして目の前に彼女の家が姿を現し、玄関からカーラが姿を現した。


「んん?今日はカオル一人かい?」


「はい。実はちょっとカーラさんにお願いしたいことがあって……。」


「は~ん?何か厄介事の匂いがするねぇ。ま、詳しい話は中で聞くよ、入りな。」


「お邪魔します。」


 彼女の家の中へと入り、テーブルで向かい合うように座ると魔法で独りでに紅茶が淹れられ、お菓子とともに並べられた。


 カーラは紅茶を一口口に含み、お菓子を一つつまむとこちらの用件について問いかけてきた。


「それで?アタシにお願いしたいこと……ってのはなんだい?」


「南の魔女……ステラに話を聞きたいんです。」


 直球に俺は彼女に目的を告げると、カーラは少し顔をしかめながらため息を溢した。


「はぁ、なるほどねぇ。それでアタシのとこに来たって訳か。」


「はい。カーラさんなら多分……ステラともコンタクトをとれるんじゃないかって思ったので。」


「まぁ、正直な話しアイツが校長やってるヒュマノの魔法学校に行けば……会えないことはないだろうねぇ。」


 そう言った彼女は更に続けて言う。


「だが、そいつはちょいと危険すぎやしないかい?アタシはこの国に肩を入れてる魔女だし、カオルだって……まぁ容姿は人間だけどヒュマノ側じゃない。」


「それはステラも同じだと思いますよ。」


 というのも、以前ステラと戦ったとき……彼女はヒュマノのために動いているわけではない、金のために動いていると言っていた。その言葉を聞く限り、彼女は自分自身の欲を満たすためにヒュマノにいる……と俺は思ったわけだ。まぁ嘘か本当かは定かではないが。


「……はぁ、わかったよ。だけどちょっとでもアイツが変な動きを見せたらすぐに帰るからね。」


 俺が引き下がらないことを確信したのか、カーラは諦めたようにそう承諾してくれた。


「ありがとうございます。」


「それじゃあ、行くよ。」


 そしてカーラが杖をトン……と床に軽く打ち付けると俺と彼女の足元に大きな魔法陣が現れた。俺はその魔法陣が効果を発揮する前に収納袋から闇オークションに行った時に貰っていた仮面を身につける。


 するとちょうど仮面を着けた瞬間に視界が光で覆い尽くされ、次に目を開けた時には俺とカーラは大きな学校のような場所の前へと転移していた。


「ここがステラの学校……ですか?」


「あぁ、中からステラの魔力も感じる。間違いないよ。」


 そう話していると異変を感じ取った警備員らしき男達が俺とカーラを取り囲む。


「何者だっ!!」


 そう問いかけてくる警備員の男にカーラは言った。


「ステラに伝えな。カーラが会いに来たってな。」


「カーラ?……ま、まさか!?」


「アタシのことを知ってるならとっととステラに伝えてきな。」


 ざわつく警備員達にカーラがそう告げるが……。


「き、北の魔女は魔族の味方だ。ステラ様に会わせるわけ……に……は…………。」


 敵意をむき出しにしたかと思えば、今度は突然彼らは意識を失ったように前のめりに倒れていく。カーラが何かしたのかと思っていると、建物の方から見覚えのある女性がゆっくりとこちらに向かって来ていた。


「これはこれは、珍しい来客だな。」


「アタシが用事があってきたわけじゃない。お願いされたから連れてきただけさ。」


 そう言ってカーラは俺へと視線を向けた。それととともに仮面越しに俺はステラと目があった。


「……平和の使者殿か。何用かな?」


「聞きたいことがあって来た。」


 それだけ伝えると彼女は何かを察したように頷き、クスリと笑った。


「複雑な話題になりそうだ。中で話そう。」


 そう言ってクルリと踵を返す彼女。


「この人達はこのままでいいのか?」


「心配ない、軽い記憶処理の魔法をかけただけだ。もうすぐ目を覚ます。」


「相変わらずそっちの類いの魔法は得意だねぇ。」


「ハハハハ、そう言ってくれるな。この方がそっちとしても都合が良い……だろ?」


 そう笑って、俺とカーラのことを学校の中へと案内するステラ。ここまでの流れで俺は確信した……ステラは真にヒュマノの味方ではないということを。

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