第235話 アルマ様との戯れ
意気揚々とトレーニングルームの中央に立ったアルマ様は、にやりと楽しそうに笑いながら右手を横に伸ばす。
「行くよー!!レヴァ!!」
その言葉と同時にアルマ様の手に、以前目にしたことのある深紅色の剣が握られる。ナインの機械仕掛けの剣に負けず劣らずの禍々しい雰囲気を醸し出しているにも関わらず、俺の武器は変わらずこの木刀のみ。
というのも、まさか自分の主人であるアルマ様を間違っても傷つけるようなことはあってはならないからな。
「えいっ!!」
無邪気にアルマ様がレヴァという剣を振るうと、ドリスが放った炎の斬撃とは比べ物にならないほど強力な黒い炎の斬撃が飛んでくる。
「っ!!」
流石は魔王の名を冠しているだけあって威力は桁違いだ。
試しに全力で飛閃を放ってみるが、あっさりと威力負けしてしまい消滅してしまう。
(真っ正面から打ち合うのは……ちょっと分が悪いな。)
威力負けしたのを見て、正面からの打ち合いでは不利だと判断した俺はアルマ様の斬撃を飛んで避ける。すると、それを狙っていたかのようにアルマ様はぐっと空中にいる俺へと距離を詰めてきた。
「アルマの勝ちっ!!」
その言葉と共に振るわれるアルマ様の武器レヴァ……それが俺へと届く刹那時間がピタリと止まる。
しかし、普段と違うのは止まった時間の中でもアルマ様は少しずつ動いていたことだ。
(時間が止まった世界でも問答無用……。前はこの時の流れの中では俺の動きを目で追うのが精一杯のはずだったんだが。進化を繰り返すことでここまで時間が止まったはずの世界に介入してくるとは……。)
今はまだゆっくりと体を動かせるだけだが……いずれ進化を続けていけば、このスキルも通用しなくなるのかもしれないな。
そんなことを思いながらも、俺はスッとアルマ様の背後に回り込む。すると、時間の流れがもとに戻っていく。
そしてアルマ様の背後をとった俺は肩をポンポンと叩いた。すると、すぐにアルマ様は後ろを振り返ろうとするが……。
「んにっ!?」
ぷにゅんと、柔らかいアルマ様の頬に俺の人指し指が当たる。
「今日は俺の勝ちですね。」
「む~っ、カオルやっぱり速いんだよ~。勝った!!って思ったら目の前からいなくなるし~。」
少しむすっとした様子でアルマ様はレヴァをまたどこかへとしまった。
「今日はケーキ食べれないかぁ……ざ~んねん。」
しょんぼりしながらそう口にしたアルマ様に、俺はある提案を持ちかけることにした。
「アルマ様、それではこうしましょう。カナンとメアと一緒に、この部屋の中を逃げ回る俺のことを捕まえられたら……今日のお菓子はケーキにします。」
「えっ!?そんなアルマ達が有利な条件でいいの!?」
「構いませんよ。」
まぁ、実のところ……アルマ様が俺との勝負に勝とうが勝たまいが、ケーキは作るつもりだった。アルマ様が食べたいものを作るのが俺の仕事だからな。
そしてカナンとメアを引き連れたアルマ様は再び俺の前に立った。
「あ、あのカオルさんよろしくお願いします……。」
「パパ、私もケーキ食べたい。だから絶対捕まえる。」
「カオルにアルマ達のコンビネーション見せてやるもんね!!覚悟してよ?」
「お手柔らかにお願いしますよ。あ、それと……これは単なる鬼ごっこですので、武器の使用と攻撃魔法は禁止でお願いします。」
流石に保険はかけさせて貰おう。魔王と勇者……そして幻獣の三人を同時に相手取るからな。それに三人はギルドで一緒に依頼をこなしているから連携は慣れているはず、ただでさえ強いこの三人が何の制限もなしで向かってきたら……マジで一瞬で終わる。
「わかった~。じゃあカナン、メア頑張るよ!!」
そして俺の前に立っていた三人のうちアルマ様とカナンの姿が消え、一気にこちらへと向かってくる。動き自体は目で追えているから対処はできているが……。唯一動いていないメアが不穏な動きを見せていた。
「パパおとなしく捕まってね?」
メアのその言葉とともに、アルマ様とカナンから逃げていた俺の足が何かに絡めとられた。
「っ!?」
ガクンと前のめりに崩れ落ちる刹那、見えたのは床から生えた触手のようなものにガッチリと足を絡めとられている光景……。
それと同時に転び行く俺に満面の笑みのアルマ様と、少し恥ずかしそうにしているカナンが背後からのし掛かってきた。
「捕まえた~!!」
「ごめんなさいカオルさん!!」
「私も乗るっ!!」
アルマ様とカナンに続きメアまでもが俺の体にのし掛かってきた。
柔らかいものが体にすごく密着する感触があったが、俺はひたすらに無心を貫くのだった……。
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