第234話 根に持っていたナイン


 龍昇華のせいで、俺の体から発せられていたらしい龍のフェロモン(?)により朝から一悶着あったが……俺のそのフェロモンは龍種のみがかぎ分けられるものらしく、アルマ様やカナン、メア達は普段通りだった。

 

 俺のフェロモンを直に嗅いでしまったソニアは、エンラとラピスと行ったっきりまだ帰ってくる気配はない。彼女達の分のご飯はラップで覆っておこう。


 そして1日の最初の仕事である朝食を作り終えると、決まってナインとスリーがやって来るのだが……。


「マスター、戦闘訓練の時間です。」


「今日はナイン一人なんだな?」


「はい。スリーは急遽エンラとソニアの分の仕事を片付けていますので……本日はナインのみとなります。」


「ん、そっか。わかった。」


 ナインの後に続いてトレーニングルームへと向かうと、そこには何故かアルマ様とカナン、そしてメアの姿があった。


「あ、カオル来た~。」


「アルマ様にカナン、それにメアも……どうしてここに?」


「今日はなんかラピスが来ないから魔物討伐に行けないの、だからカオルとナインの見学に来たんだよ~。」


「そういうことだったんですか。」


 監督者であるラピスがソニアへの対応に追われている以上、アルマ様達は魔物の討伐依頼を受けに行けない。かといって城の中で遊ぼうにも遊び方というのは限られている……それよりも俺とナインの戦闘訓練を見ていた方が面白いと判断したのだろう。


 俺が納得していると、早速ナインが機械仕掛けの剣を手に握った。


「それではマスター、参ります。」


「ん、オッケーだ。」


 ナインが剣を構えたのを見て、俺もいつもの訓練用の木刀を構えた。すると、その瞬間ナインが一気に加速し俺へと距離を詰めてくる。


「ふっ!!」


 間合いへと入ったナインへと剣を振るうと、俺の剣は彼女の体を通り抜けていく。だ。

 自分でも使えるようになったからこそ、この技への対応ができる。俺はナインの残像を切りながらも、トン……と後ろに跳んだ。すると、俺の目の前をシュン……とナインの剣撃が通り過ぎていく。


「腕を上げましたねマスター。」


 陽炎で残像を残し、俺の背後へと回り込んでいたナインはこちらを向くとそう言った。


「毎日さんざん鍛えられてるからな。」


「成果が出ているようでなによりです。」


 そんな風に軽口を叩きながらも激しく打ち合っていると、再びナインは陽炎を使ってくる。

 それに対処しようとした瞬間……足に一瞬衝撃が走ると共に俺の体勢がぐらりと崩れた。


「なぁっ!?」


「マスター、陽炎は体術にも応用できるのですよ。」


 どうやらナインは陽炎で残像を残し、それに対処しようとする俺の動きを見切り、足払いをかけてきたらしい。それを理解する時には既にナインの剣が眼前に迫っていた。


「っく……。」


 完全に体が地から離れているこの状況で、このナインの攻撃をかわす手段は一つ……。


 俺は背中に意識を集中させると、生えてきた翼を羽ばたかせ急加速し、ナインの剣をかわす。


「ふぅ……危ねぇ。」


「部分龍化ですか。なるほど……。」


 ナインと距離をとった俺は部分龍化を解除する。昨日夜中に練習しといて良かったとこの時心底俺は思っていた。ぶっつけ本番で今の動きはできなかっただろうからな。


「ふぇ~……カオルもナインもすご~。いっつもこんな感じでやってるんだ。」


「そ、それよりもアルマちゃん、今カオルさんの背中から翼が生えたよ!?」


「パパ、ついに人間やめた?」


 傍観していたアルマ様達は俺とナインの戦闘を驚きながら見ていた。


 それと、メアの言っていることはかなり的を射ている。龍昇華を食べたその時点で俺は既に人間ではなくなっていたからな。それに今は人間でもない、龍でもない……種族だからな。


「部分龍化で翼を生やし、それによって空中での回避行動が可能になった……というわけですね。これは貴重な戦闘データがとれました。」


 ポツポツとナインはそう正確に分析する。


「流石に空を自由に飛ばれる……となるとナインも少々搦め手を使わざるをえませんね。」


 そうナインは告げると、機械仕掛けの剣を大きく振り抜く。


「飛閃。」


 それと同時に飛んでくるのはアリス流剣術の壱の太刀飛閃。

 それに合わせて俺も飛閃を放ちなんとか相殺すると、目の前にナインの姿がなかった。


 咄嗟に後ろを振り返ると同時にコツンとナインの剣が俺の頭に当てられる。


「一本ですマスター。」


「……昨日のやつ根に持ってるだろ?」


「いいえ?そんなことはありませんよ。ただ、昨日やられたことと同じ事をマスターにしてさしあげようかと思っただけです。」


「それを根に持ってるって言うんだよ。……それにしてもあの距離からどうやって視界に入らずに後ろに?」


「マスターはナインの剣の性能をお忘れのようですね。」


 そう言ってナインが俺の前から一歩横にずれると、彼女の背後には空間の切れ目があった。


「はぁ~……なるほど?飛閃を撃ったと同時に空間を切り裂いて俺の背後に繋いでたってわけだ。」


「そういうことです。」


 流石にそれは予想外すぎる。俺がガックリと肩を落としていると、ナインは早々に剣をしまった。


「あれ?今日はもう終わりか?」


「はい、ナインとは終わりです。」


 そしてスッとナインが移動すると、待ってましたとばかりにアルマ様が俺の前に立った。


「カオル!!次はアルマとだよ!!」


「あ、アルマ様とですか……。」


「んっふっふ~♪アルマもすっごく強くなったからね~。今日はカオルのこと捕まえるよ?」


「お手柔らかにお願いします。」


「あ!!アルマがカオルのこと捕まえたらご褒美にケーキ作ってね?」


「もちろん構いませんよ。」


「えへへ、そうこなくっちゃ!!じゃあ行くよー!!」


 アルマ様と相対したのはかなり前だからなぁ……。あれからかなり進化を遂げたアルマ様はどこまで強くなっているだろうか。できればまだ、危険予知が通用することを願いたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る