第233話 龍昇華の副作用


 翌朝、アルマ様達に朝食を作るために廊下を歩いていると、メイドの業務をこなすエンラとそれをからかうラピスの姿が目に入った。


「おはよう二人とも。」


「む?カオルか…………っ!?」


「お、おはよカオル……。」


「??」


 俺が朝の挨拶をしながら歩み寄っていくと、何かを感じ取った二人は突然俺から距離を取った。それに困惑していると、少し頬を赤くしたラピスが口を開く。


「カオル、おぬし……その匂いはなんなのだ?」


「匂い?」


 なんか匂うか?毎日風呂に入っているし……服も生乾きとかのを着ているわけじゃないんだがな。


 くんくんと自分の服の匂いを確かめるように嗅いでいると、今度はラピスの言葉を言い直すようにエンラが言った。


「あ、いや……ち、違うのよ?カオルから変な匂いがするって訳じゃなくて……その、何て言ったらいいのかしらぁ。」


「じゃあなんなんだ?」


「うむぅ……まぁハッキリと言うのならば、おぬし今日はなぜかのだ。」


「うん、そうなのよねぇ……。あ、勘違いしないでよ?その、雄くさいっていうのはフェロモン的な意味合いで、多分ワタシ達以外には感じ取れない匂いだから。」


「うむ、というかなぜ人間であるカオルが龍の雄の匂いをこんなにも強く放っているのかが謎で仕方がないのぉ。」


 なるほどな、彼女達がなぜこんなに動揺しているのか少しわかった。そして、俺の体からその龍の雄の匂いがしている理由もなんとなく……理解した。


「多分……多分これのせいか?」


 俺は片腕を部分龍化させ、二人に見せた。すると、二人は驚きすぎて固まってしまう。


「か、カオル……お、おぬしその腕はどうしたのだ!?」


「あ~、どこから説明したからいいのか……まぁ簡潔に言うと、龍昇華を食べたらこんな風なことをできるようになった。」


「なんとな!?」


「う~ん、龍昇華はワタシの知ってる限り龍にしか効果がないはずなんだけど……。」


「それが、実は龍昇華ってのは普通の人間だった俺にもバッチリ効果があるものだったらしい。」


「ほぉ~……そうなるとエルデのやつからは良いものを貰ったの。だがしかし……こんなに強い雄の匂いを嗅がされるのはなかなかくるものがあるな。」


「ホントよね。」


「なぁ、ちなみに俺のその雄の匂いって……普通はどんな時に匂うものなんだ?」


「我ら龍種は数年に一度雄雌関係なく発情期がくるのだが、その時ぐらいだの。」


「発情期……って、じゃあ今の俺は二人から見たら発情してる雄の龍……って認識なのか?」


「まぁそういうことだの。」


「う~ん……。」


 そう言われてもなぁ……フェロモンを止める方法なんてわからないし、こればっかりはどうしようもないな。


「ちなみにこれ……ラピス達に何か影響があったりとかは?」


「まぁ我らは特に問題なかろう。な?エンラ?」


「まぁワタシ達は……ね。」


「じゃあ今のところは問題ないか。俺の方でもこのフェロモンってやつを放たないようにする方法を探ってみるよ。それじゃあ、俺は朝ごはん作ってくるから。」


「うむ。」


 そして俺は二人と別れて厨房へと向かうのだった。


 カオルを見送ったあと、ラピスとエンラの二人はほぅ……と小さくため息をこぼす。


「初めてあんなに濃い雄の匂いを嗅いだのぉ。我ともあろうものが、一瞬腹の奥がキュンキュンしたぞ。」


「ワタシもよ。五老龍で集まったときに誰かが発情期でもあんなに濃い匂いはしなかったわ。」


 二人は自然に下腹部に手を当てて擦っていた。


「あんな濃い雄の匂いを並の雌の龍が嗅いだら、即発情期突入ね。」


「間違いないな。」


 うんうんと二人がそう頷いていると、エンラがあることに気がついた。


「……あ、ヤバいかも。」


「む?どうした?」


「ソニア……。」


「あ……。」


 エンラがポツリと自分の従者であるソニアの名前を口にすると、ラピスも何かに気がついたようでハッとなりカオルが向かった厨房の方へと目を向けた。


「あの子にはこれは……まだ早いわっ!!い、急ぐわよラピス!!」


「う、うむ!!」


 エンラが走り出すとともにその後ろをラピスもついていく。そしていざカオルがいる厨房へとたどり着くと、そこでは……。


「ちょ、ちょっ!!ソニア!?」


「スンスン……すぅ~~~はぁ~~~、いい匂い~♪雄の強い……強~い匂いっ!!」


 時既に遅し、カオルの放つ雄のフェロモンを嗅いだソニアはすっかり発情してしまい、彼を押し倒し、色んなところの匂いを堪能しては恍惚とした表情を浮かべていた。


「フーッ……こ、交尾っ!!交尾するわよ!!」


 そしてメイド服を脱ごうとした彼女をソニアとラピスの二人は拘束する。


「はい、そこまでよソニア。」


「うぅ~エンラ様ぁ、ラピス様ぁ。放してください~。」


「ダメよ、ちょっと一緒に来なさい。」


「うぁ~!!」


「まぁこればっかりは……仕方がないのぉ。」


 すると、ラピスとエンラの二人はソニアのことをどこかへと連れていった。

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