第232話 部分龍化の使い道


 部分龍化というスキルを獲得した俺は、夜……寝る前にそのスキルの使い道を模索してみることにした。


「まずはまぁ……腕からだな。」


 俺が腕に意識を集中させると、ビキビキと音を立てて腕が黒い鱗で覆われていく。


「うん、すんなりいける。この状態だと……なにができるんだ?」


 腕が龍のようになったのはいいんだが、こいつで何ができるのかがわからない。


「防御力は、まぁ流石に鱗があるだけあって申し分ない。」


 爪で自分の腕を覆っている鱗をコツコツとつついてみると、硬いのが伝わってくる。並の刃物なら弾けそうだ。


「攻撃には……使えそうにないかなぁ。」


 今のところただ体を龍のようにできるというだけで攻撃とかには転用出来そうにはない。


「鱗は緊急時の防御用かな。」


 あと首とかそういう急所を狙われたときに、咄嗟に鱗で覆えば……致命傷を避けたりできるかもしれない。

 防御面ではかなり有用なスキルだな。


「足とかを龍化させたらどうなるんだ?」


 試しに足を龍化させてみると、腕と同じように鱗で覆われていく。しかし、爪先がまるで凶器のように鋭利になっている。

 これで蹴りを繰り出したら殺傷力は高いんじゃないか?


 龍化させる部位によって色々用途はあるな。そうなると……色々と試してみたくなった。

 とは言っても、龍化させられる部位なんて残り限られているけど。


「背中とか……どうだ?」


 背中に意識を向けてみると、その途端にビリッと何かが破ける音と共に俺の背中から何かが飛び出した。


「……は?」


 嫌な予感を抱きつつも、俺は鏡の前に立ち背中を確認する。するとそこには想像通りの厳つい翼が生えていた。


「…………これは使い道あるのか?」


 飛べるなら使い道があるかもしれないけど…………。


 俺はチラリと窓の外へと目を向けた。そして体の赴くままに窓から体を乗り出した。


「あとはこれでっ!!」


 自由落下している最中に大きく背中に生えた翼を羽ばたかせると、落下していた体が一気に上へと持ち上げられるような感覚が俺を襲う。


 そして翼をバサリと大きく広げると、俺の体は空中でホバリングし、目下には綺麗な夜景の城下町が広がっていた。


「おぉ!!飛べるぞ!!」


 内心めちゃくちゃ安心した。仮にもし翼が生えるだけ生えただけで使い道がないってなったら……まぁ使わないもんな。


 にしてもこうやって自分で空を飛んで街を見下ろすようなことができるようになるとはな……マジで人生何があるかわからないもんだな。


 あ、そういえば俺はもう人間じゃなかったな。


 まぁそれはひとまず置いといて……だ。


「飛べるようになったのはかなりいいな。空中でも身動きがとれるようになったのは戦闘でも役に立つだろ。」


 それに空を飛んでる魔物にも真っ向からぶつかれる。こいつは良いものだ。


 少しの間空を飛び、翼の扱いに多少慣れたところで俺は自分の部屋へと窓から戻ると、翼をしまった。


「服は……破けたが、それ以上にいい収穫だった。」


 あと試してないのは…………。


「顔か。」


 顔はどんな風になるんだ?やっぱり龍化だからラピス達みたいな厳つい感じになるのかな……。


 多少の不安を抱えながらも、俺は顔に意識を集中させた。そしていざ目を開けて鏡に写る自分の姿を見ると……。


「ん?意外とそんなに変化はない……な。」


 少し牙が伸びたり、なんか黒い鱗が紋様みたいに顔に刻まれただけで他にはたいした変化は……。


 と、思いながら鏡に写る自分の顔を眺めているともう一つある部分が変わっていることに気がついた。


「あ、目の色も変わってる。」


 黒色だった瞳の色がルビーのような深紅色に染まっている。


「でもそれぐらいか。」


 少し拍子抜けし、ため息を吐いたその瞬間だった……。


 ボゥッ……。


「うぉっ!?」


 ため息を吐き出した筈だったのだが、実際に俺の口から吐き出されたのは青い色の炎だった。こいつは所謂ブレス……ってやつなんじゃないか?


「これなら攻撃に使えそうだな。」


 特に近距離での奇襲の一手にはなりうる。ただ、暴発注意だな。下手にこの状態でため息を吐こうものなら火事になる。


 俺は火事になる前に龍化を解除すると、ベッドの上に横たわった。


「ふぅ、試すことは大方試したな。あとは実戦でどれだけこいつが使えるか確かめるだけだ。」


 恐らくこいつを試す最初の相手はナインかスリーのどちらかになるだろう。


 新しい動き、技でまた一本取れればいいな。


 そう思いながら俺は目をつぶると微睡みへと落ちていった。

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