第230話 弐の太刀陽炎
今日も、俺はナインとスリーと戦闘訓練に励む。とは言っても、エルフの集落での療養を終えてからはこれが最初の訓練になるんだが。
それと……彼女達曰く、近頃はエンラとソニアっていうメイドの業務をしっかりとこなせる人材が増えたため、この訓練の時間を長くとれるようになったらしい。
「ではマスター、お体の調子も元に戻ったようですので……本日から戦闘訓練を再開しましょう。」
「あぁ、頼む。」
ここでいつもならスリーから相手になってくれるのだが……今回は珍しくナインが俺の前に立った。
「復帰直後ということで、マスターもまだ本調子ではないようですが……。本日からは多人数の相手を想定した訓練を始めます。」
「……つまり、ナインとスリーの両方を相手取るってことか?」
「そういうことになりますね。」
「復帰直後からとんでもないことをやらせてくれるな。」
「これもマスターの戦闘能力強化のためですから。では……参ります。」
愚痴る暇もなくナインは機械仕掛けの剣を構える。
それを見て俺はいつも戦闘訓練の時に使ってる木刀を手に取り構えた。
すると、ナインは音もなく間合いをぐっと詰めてくる。そして近距離での打ち合いに発展した。
「なるほど……以前にも増して身体能力の向上が見受けられますね。」
激しい打ち合いの最中にナインはそう分析する。
「そりゃあどうも。」
そう軽口を叩いた直後、キラリとナインの背後で何かが光る。
「っ!!」
ナインとの打ち合いの最中に飛んできたのは、スリーの放つ計算され尽くした正確な銃弾。
動き回るナインをすり抜け、俺へと一直線に向かってくる。
それを避けるためにナインとの打ち合いを切り上げ、回避に専念していると、一瞬でナインに懐を取られた。
「マスター、その動きは悪手です。」
その言葉と同時に迫るナインの攻撃……この距離じゃ受けも回避も間に合わない。
覚悟を決めたその瞬間、ドクン……と心臓が大きく脈打つ。それと同時に時間がピタリと止まった。
(この感覚は……。)
覚えている、あの時ドリスとエミルの二人を相手取った時と同じだ。
再び自分の身に起こったこの感覚に動揺していると、頭の中に声が響く。
『強者との戦いを経験したため、龍昇華の効果が適用されます。』
その声が途切れた瞬間、止まっていた時間の流れがもとに戻る。
それと同時に迫り来るナインの攻撃……。
だが、その時妙な確信が俺の心の中に生まれていた。
(今なら……やれる。)
そう思った時には俺は既に動いていた。ナインに普段から教わっている足さばきを極限まで無駄を削ぎ落とし、高速でナインの背後に回り込んだ。
すると、ナインは残された俺の残像を剣で切り裂いた。
「これは……。」
ナインが背中を見せている最中に、俺はコツンと木刀を軽く彼女の頭に当てた。
「ほい一本っと。」
「陽炎……これはついにやられてしまいましたね。実戦なら死んでいたところです。」
少し残念そうに呟くナインに、スリーが声をかけた。
「ナイン、データの早急な修正が必要です。」
「わかっています。」
すると、二人は共に武器を収める。
「龍昇華を摂取したマスターの成長速度は
「へ?」
呆けていると、ナインとスリーに両腕を拘束される。
「マスター、ナインとスリーは本日は戦闘訓練よりもマスターの情報収集が最重要事項と判断しました。」
「そういうことですので、ご同行お願いします。」
「え、あ……ちょ…………。」
相も変わらず俺の意思はすっぱりと無視され、ナインとスリーは俺のことをいつも……というかメディカルチェックをする部屋へと運び入れた。
すると、部屋に入った瞬間に俺の着ていた服がパンツ以外全て、綺麗に畳まれた状態でナインの手の中にあった。
「……どういう仕組み?」
「効率化のためです。さぁマスター、ベッドの上に仰向けで横になってください。」
「はいはい……。」
俺に拒否権はない。俺は促されるがままベッドの上に横になると、メディカルチェックの時に使われる得体の知れない何かをペタペタと体に貼り付けられていく。
そしていざメディカルチェックが始まるとナインとスリーは大忙しといった様子でメモを取ったり動き回っている。
(しばらくここから動けそうにないな。)
そう思ったとき、頭の中に声が響いた。
『熟練度が上昇したため、アリス流剣術のスキルレベルが1上昇しました。』
(お、これでレベル2……か。)
さっき陽炎を使えたからだろうな。技を一つ覚える毎にレベルが1上昇するって考えると……残りの技は9つか。
(まだまだ先は長いなぁ。)
まぁ、アリスという人物が人生をかけて極めた剣術だからな。それを考えると先が長くて当然……か。
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