第220話 絶体絶命!?
白衣の女性の背後から姿を現した、彼女と瓜二つの容姿の何かをナインは即座に分析し俺に伝えてくれた。
「マスター、あれは幻覚魔法の類いではありません。膨大な魔力で自分と同じ姿の分身体を構築しているようです。」
「なるほど。」
「おやおやぁ~あっさり見破られましたねぇ~。まぁ、見破られたところで何も問題はありませんけどねぇ。」
余裕の表情を崩さずに白衣の女性がそう口にした瞬間、ジャック達が行った方角から大きな衝撃音が響いてくる。
「あちらも始めたようですねぇ~。ではこちらも始めましょうかぁ~?」
「マスター、ナインとスリーは分身体を2体ずつ撃破します。マスターには本体と分身体1体をお願いしてもよろしいですか?」
「あぁ、任せろ。」
「それでは……。」
俺の横からナインとスリーの姿が一瞬で消えたかと思えば、彼女達は白衣の女性の分身体を連れ去り、城から離れていた。
「あちゃぁ~、やっぱりあのメイドさん達は相当に強いみたいですねぇ~。」
残った分身体1体を控えさせながらナインとスリーが行った方角を眺め、ポツリと呟く彼女。そしてまたひとつ大きくため息を溢すと俺の方を向いた。
「さてぇ、じゃああなたは私が直々に遊んであげましょ~。」
彼女がそう言ったと同時に分身体と彼女は鏡合わせのように動きをシンクロさせると、俺へと向かって杖を構えた。すると、二人の杖の先に魔法陣が現れる。
「
魔法陣が現れ、彼女がそうポツリと呟くと魔法陣からまるで弾丸のように無数の光が放たれる。
「ふっ!!」
だが、こちとら生憎スリーとの戦闘訓練でそういう系の攻撃は見慣れてる。俺は放たれる光弾を剣で弾きながら二人へ距離を詰めた。
「おやぁ……これはこれは。」
弾幕を掻い潜り、懐へと潜り込めた俺は躊躇なく剣を振るおうとした。だが突然目の前に現れた魔法陣から強い光が発せられ、視界が奪われる。
「くっ……。」
それでも剣を感覚で振り抜くが、何かを切ったという感覚はない。
強烈な光をモロに直視したせいでチカチカする視界の中で、彼女はニタニタとこちらを見て笑っていた。
「いやぁ~、ドリスから聞いていた報告とはまるで別人ですねぇ~。報告ではそこまで戦闘能力は高くないと聞いていたんですがぁ……修正が必要ですねぇ。ま、仮にもラースホエールを倒した人間ですしぃ~……ね?」
「こっちの情報は筒抜けってわけか。」
だが、詳細なところまでは把握していないようだ。ラースホエールを倒したのは俺じゃない、カナンだからな。
「情報を征するものが戦いを征すると言いますしねぇ~。情報はた~くさん集めてますよぉ?」
さて……ちょっとした会話を挟んで視界はもとに戻ってきた。次で決める。
そして俺が剣を握る手に力を籠めたその時だった。
「ずいぶん派手に壊してくれたじゃないエミル。修理代いくらかかると思ってんのよ?」
城からエンラが現れた。
「おやおやおや、てっきり隠れて出てこないものかと思っていましたがぁ……。案外潔いですねぇエンラ、死ぬ覚悟ができたという認識でいいですかねぇ?」
「死ぬ覚悟?笑わせないでくれる?ワタシは自分の後始末をつけに来ただけよ。」
こちらへと一歩一歩歩み寄るごとにエンラの体が龍の姿へと変化していく。そして完全に龍の姿に戻った彼女は上からエミルと呼んだ白衣の女性を睨み付ける。
「後始末ですかぁ~。それなら大人しく死んでくれるだけでいいですよぉ~?」
すると、エミルの分身体がエンラへと向かって魔法を放つ。
俺はその魔法を剣で両断し、エミルに視線を送る。
「お前の相手は俺だ。」
「あぁ~……めんどくさいですよぉ~。そういうの。」
またまたため息を吐きながら彼女が俯いたその瞬間……ピタリと時間の流れが止まる。
「っ!!」
(何が……起こってる?)
俺への攻撃は来ていない……となれば考えられるのは……。
即座にエンラの方に視線を向けると、彼女の真上にいつの間にか魔法陣が出現していて、そこからもう1体……エミルの分身が現れ始めていた。そしてその手にはどす黒い短剣が握られていた。
(あれは……なんかヤバい!!)
俺は止まった時間の中で飛び上がると、短剣を握っていた分身体の腕を切り落とし、それをエミルへと向かって蹴飛ばした。
すると、時間の流れがもとに戻っていきエミルの眼前に黒い短剣が迫る。その瞬間、初めてエミルの表情から笑みが消えた。
サクッ……。
エミルの眉間に深々と短剣が突き刺さった瞬間、彼女の体が粒子となって消え去り、その背後からまたエミルが姿を現した。
「いやぁ~……今のは危なかったですよぉ~?分身を盾に使わなかったら今頃はぁ~。」
どうやらエミルはあの瞬間に隣にいた分身体を盾にしてなんとか直撃を防いだらしい。
そして彼女はカランと音を立てて転がった短剣を拾い上げると、ニタリと笑う。
「今のでエンラは殺せたと思ったんですがねぇ……。あなたぁ、なかなか面白いスキルを持っているようですねぇ~キヒヒッ♪」
そう不気味に笑うエミル。すると、ふと彼女は視線をチラリと背後へと向けた。その次の瞬間だった。
バコン!!という激しい音と共に、俺達の立っていた場所にボロボロになったジャックが飛んできたのだ。
「ぐ……ぅ。」
「ジャックさん!?」
俺がすぐに駆け寄ると、先ほどまでジャックと戦っていたはずのドリスがエミルの背後から姿を現した。
「お前っ……。」
鋭い眼光をドリスへと向けると、ヤツはニヤリと笑う。
「いい眼だ。怒りに染まっている。昔の自分を見ているかのようだ。さて……裏切り者エンラ、そして魔王の従僕カオル、ジャックお前達にはここで退場してもらおうか。」
ドリスはそう言い放つと、炎を纏う剣を構えた。
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