第221話 覚醒?


 ドリスが剣を構えると、俺の体も反射的に剣を構えた。そして隣にいたエンラに声をかける。


「エンラ、ジャックを連れて中に逃げろ。」


「は?あんた何言って……。」


「いいから早く行けっ!!」


 俺がそう怒号を上げたその瞬間再び時間がピタリと止まり、今度はエンラの喉元にあの黒い短剣が現れようとしていた。


「ッチ!!」


 エンラの喉元へと突き刺さろうとしていたそれを剣で弾き飛ばすと、俺はジャックを無理矢理エンラに預け言った。


「行けっ!!」


「~~~っ、わかった。」


 そしてジャックを抱えて城へと飛び込んでいくエンラ。しかし、そうはさせまいとドリスが動く。


「目の前で逃げる獲物を逃がすと思うか?」


「行かせねぇ……よっ!!」


 逃げるエンラ達を追撃するべく炎を纏った剣を凪ぎ払い、炎の斬撃をとばした。俺はそれを飛閃で相殺する。


「ほぅ?少しは腕を上げたか。だが、貴様一人で俺達を止められるか?」


「充分だ。」


「少し強くなった程度で図に乗るな人間ッ!!」


 少し煽ってやるとドリスのやつはすぐに激高して向かってきた。それを迎え撃っていると、背後に魔法陣が現れる。

 そこから現れる短剣を剣で弾きながら俺がドリスと応戦していると、奥でちょっかいを出してくるエミルが口を開いた。


「いよっと!!」


「あらぁ~失敗ですねぇ。あなた後ろに目でもくっついているんですかぁ?」


「後ろをがら空きにするなっていつも言われてるもんでね。」


「貴様ずいぶん余裕があるみたいじゃないか。それなら俺も少し本気を出そうか。」


 ドリスはそう言うと炎を纏っていた大剣を2つに分割し、双剣として構えた。


「なるほど、それがあんたの本来のスタイルってわけだ。」


「もう貴様に俺以外に集中させはしない。」


 そしてドリスが闘争本能をむき出しにしたその瞬間だった……。


 ドクン……。


(……?なんだ今、心臓が……。)


 相手の投資をむき出しにしたその姿を見た瞬間に、俺の心臓が大きく脈打ったような感じがした。それと同時に感覚がより研ぎ澄まされていくような、不思議な感覚に包まれる。

 危険予知が発動しているわけでもないのに相手の動きが遅く見える。それになんだろうかこの感じは……次に何が来るかがわかる?ような気がする。


 その不思議な感覚に身を任せながらドリスと、エミルの二人を相手にしていると、突然ドリスが驚きの声を上げた。


「っ!!貴様、その腕はなんだっ!?」


「腕?」


 ちらりと自分の腕に目を向けてみると、腕に真っ黒な鱗がびっしりと生えていた。そして指先はまるでラピスたちのように龍のように凶悪な形に変形していた。


(これは……俺の体がどんどん龍に近づいてる証拠か。だが、それで今の状況が喰いとめられるのなら、!!)


 そしてドリスの剣を打ち払うように剣を振るうと、ヤツの体は大きく吹っ飛んでいく。体が龍へと近づいていくたびに力も上がってきているようだ。


 ドリスが吹き飛んだのを見計らってエミルに目を向けると彼女は焦ったように魔法を展開し始めた。


「こ、これはよろしくありませんねぇ~。」


 俺が彼女へと向かって剣を振り下ろすと同時に彼女とドリスの姿が目の前から消え去ってしまう。それとほぼ同時にナインとスリーが戻ってきた。


「申し訳ありませんマスター。少々手こずって……マスター!?」


「あ、あぁナインにスリーか……無事で何よりだ。」


「マスター!?体が……変形しています、いったい何があったのですか!?」


「よく、わかんない……な。」


 ナインとスリー二人に寄り添われると、急に意識が朧気になっていく。


「悪い、ちょっと休む……。ジャックさんのことを頼む。」


 俺はそれだけ彼女たちに告げると、意識が闇の中へと沈んでいった。

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