第219話 黒衣の男再び
エンラとソニアが魔王城の住人に加わり、前よりも日常がにぎやかになった気がするな。アルマ様達も楽しそうだし、ラピスもエンラという友人がすぐ近くにいて退屈してないみたいだ。
そして今日も何気ない……いつもと変わらない日常を過ごすのだろうと、思っていたその時だった。
「っ!!」
突然俺の周りの時間がピタリと止まる。これは危険予知のスキルが発動している証拠だ。しかし、今俺の周りには人はいない……。じゃあなぜ危険予知が発動した?
状況が理解できずにいると、時の流れがもとに戻ると同時に魔王城が大きく揺れた。
「な、なんだ!?」
すると、俺が状況を把握する前にスリーとナインの二人が俺の前に現れた。
「マスター敵襲です。」
「敵襲!?」
「外に敵性反応が二つあります。そのうちの一つは以前マスターが戦闘したあの人物かと。」
「なるほどな。直接攻撃を仕掛けてきたって訳か。」
このまま好き勝手させるわけにはいかないな。
「スリー、ナイン。攻撃してきた奴らを倒すぞ。」
「「了解しましたマスター。」」
そしてスリーとナインを連れて外に出ると、無残に破壊された城門の前に黒いローブを羽織った男と、白衣を身に纏った女性が立っていた。
黒いローブを羽織った男はこちらに目を向けるとポツリと言った。
「来たか。」
「お前……いったいなんのつもりだ?」
「その質問への答えは、これで充分だろう?」
そう男は告げると背中に背負った大剣に炎を纏わせて凪ぎ払う。すると、炎の斬撃がこちらへと向かって飛んでくる。
俺はそれを即座に抜刀した剣で放った飛閃で相殺した。
「……以前より少しは腕を上げたか。」
「おい、お前はここで働いていたんだろ?なんで急にアルマ様に危害を加えようとするんだ?」
俺はヤツに問いかけた。
「魔王と勇者というものが、この世に存在し続ける限り争いは終わらない。平和条約なんてものを二つの種族間で結んでいるが、そんなものいつ破棄されるかもわからない脆弱なものだ。」
ヤツはそう語ると、俺の背後に目を向けた。
「なぁ、ジャック?」
「…………。」
いつの間にか俺の背後にはジャックが立っていた。ヤツを目の前にした彼は普段温厚な表情を浮かべている姿からは想像もできないほど、今の表情は怒りに染まっていた。
「ドリス……再びこの地に足を踏み入れ、こんなことをしでかしたからには、もちろんただで済むとは思っていませんな?」
「ハハハ、いい表情だジャック。殺意がビンビン伝わってくる。そっちの人間よりな。」
「カオル様、ドリスは私めが相手をさせていただきます。」
有無を言わさずにそう告げて、一歩一歩ドリスという男へと歩み寄っていくジャックはその姿が徐々にもとのワーウルフへと変化していた。
そして完全にワーウルフへと変化した彼はドリスという男の前に立つと鋭い眼光をドリスへと向ける。
「場所を変えましょうか。ここではいろいろな被害が出ますからな。」
「フン、ここから動かすことができたら……な。」
「そうですか……では。」
ヒュッ……とジャックの右足が一瞬消えたかと思えば、彼の右足はドリスの腹部へと突き刺さっていた。
「っぐ!!」
とんでもない威力の蹴りをモロに喰らったドリスは大きく吹き飛び、街全体を取り囲む壁を突き破って彼方へと飛ばされてしまう。
そんな彼をジャックは目にも止まらぬ速さで追いかけていく。
そして一人取り残された白衣の女性はやれやれと気だるげにため息を溢すと、こちらを向いてきた。
「はぁ、では私の相手はあなた方三人ということですねぇ。」
「嫌ならとっとと回れ右して帰ってもいいんだぞ?」
「あぁ~生憎それは無理な相談ですねぇ~。魔王と勇者はともかく、
「……裏切り者?」
「ここに少し前からいますよねぇ~?エンラって裏切り者が。」
「……!!なるほど、そういうことだったのか。」
「こちらの情報を知ってる以上しっかり殺しておかないとぉ~、私がお師匠様におこられちゃいますからねぇ~。お師匠様、怒ると怖いんですよぉ?ですからぁ、邪魔しないでくれませんかねぇ~?」
「生憎そいつは無理な相談だ。ここから先には行かせない。」
俺が剣を彼女に突きつけると、彼女は再び大きくため息をついた。
「はぁ~、まぁですよねぇ~。三人相手は面倒ですがぁ~、ドリスが帰ってくるまで時間稼ぎでもしましょうかぁ~。」
そう言うと彼女は白衣の内側から赤い液体の入った試験管のようなものを取り出すと、その液体をくいっと飲み干した。
「ふへぇ……美味しくないですねぇ。」
「マスター、気を付けてください。あの液体を口にした瞬間から魔力が凄まじい勢いで増幅しています。」
「わかった。」
「さぁてぇ~、数には数で勝負しましょうかぁ~。
ポツリと彼女が何かの言葉を呟いた瞬間、彼女の背後から彼女と瓜二つの容姿をした何かが5人……姿を現した。
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