第215話 エンラ来訪
「いでででで……なんだってこんな目に遭うんだ。」
突然俺の目の前に現れたエンラに思いっきり頬をひっぱたかれ、大きな湯船に突っ込んだ俺は頭からずぶ濡れになりながらよろよろと立ち上がる。
そんな俺にエンラは周りの状況を見てハッとしながら謝ってくる。
「あ、ご、ごめんなさいね?水浴び中だったの?」
「そうですけど……。」
「それなら裸でもしょうがないわよね。ついつい驚いちゃって手が出ちゃったわ。」
そして騒動を聞き付けたラピスが浴場に飛び込んでくる。
「なんだ今の音は!?カオル無事か!?」
「あら、ラピス。」
「むっ!?エンラ!?なぜお主がここにいる?」
「ちょっとあんたの従者に用事があって寄ったのよ。」
「カオルに?」
二人がそんな話をしていた隙を見計らい、俺は急いで服を着て二人の元へと戻る。すると着替えた俺の姿を見てエンラがほっとしたように一つ頷いた。
「そうそう、大事な部分位しっかり隠しなさいよね。」
「あんなの不可抗力ですよ。入浴中に突然入ってきたあなたが悪い。」
「そんなこと言ったって~ねぇ?入る場所がここぐらいしか見当たらなかったんだもの。そこにあんたがいた。それだけの話よ。」
う~ん、何という屁理屈だろうか。
「それで、我のカオルに何用なのだ?」
「いや~、ね?今朝美味しいもの食べさせてもらったじゃない?ラピスがそれを毎日食べてるって思ったら羨ましくなっちゃってね。」
「我のカオルを奪いに来たというわけか。」
「ん~奪うっていうのは平和的じゃないし?ワタシが提案したいのはラピス、あんたの従者にワタシのご飯も一緒に作ってもらいたいのよ。」
びしっと俺のことを指差してそう言った彼女に俺はゆっくりと歩み寄る。
「な、なによ?」
「料理を作る作らないの話の前に
俺はバッキバキに割れたガラスを指差すとエンラの首根っこを鷲掴みにしてずるずると引きずっていく。
「ふぇっ!?ちょっ……な、なにするの!?離しなさ~い!!ラピスも見てないで止めさせなさいよ!!」
「まぁ自業自得じゃな。一つ助言をするぞエンラよ、そやつにはあまり逆らわん方がよいぞ?」
「んぎぎっ!!!!ちょっ、なんなの!?力強すぎじゃない!?」
「暴れないで下さい。ガラスの修理費用について、お話しするだけなんで。」
そうして俺はラピスとともにエンラを引き摺ってジャックの部屋の前までやってきた。
「ジャックさん、ちょっといいですか?」
「カオル様ですかな?どうぞお入りください。」
二回ノックして入室の許可を得ると俺はエンラを引き摺りながら彼の部屋へと押し入った。
「むむ?その女性は……どなたですかな?」
髭に手を当てながら首をかしげるジャックにラピスが説明する。
「そやつは我と同じ五老龍の一角、焔を支配する龍エンラだ。」
「おやおや、それはまた大物ですな……いったいどうされましたかな?」
「大浴場のガラスを粉々にぶち割ったので、ひとまず捕まえておきました。それからはジャックさんの判断を聞こうかと思って。」
「ふむ、大浴場のガラスを……。それは困りましたな。」
「な、なに?ワタシそんなに大事なもの壊しちゃったかしら?」
「幸い、明日の夜までは時間がありますし修復作業はなんとか間に合うでしょう。ですが、問題は誰がその費用を支払うか……というところですな。」
スッとジャックは立ち上がると、エンラと目線を合わせて問いかけた。
「エンラ様はこの国で使われている通貨をお持ちですかな?」
「お金のこと?」
「はい。」
「お、お金……あったかしら。」
ゴソゴソと身体中を探ってエンラが取り出したのは銀貨3枚……。とてもじゃないがあのガラスの修復費用の足しにはならないな。
「銀貨3枚……あのガラスは一枚金貨30枚のガラスですので、全く足りませんな。」
「うぅ、そんなこと言われたって……あんた達が使うようなお金なんてワタシ持ってないわよ。」
さすがに不味いことをしたという自覚が出始めたのか、おずおずとしながらエンラは言った。そんな彼女ににこりと笑ってジャックは言った。
「ではこうしましょうか。ガラスの修復費用は私が一度立て替えましょう。」
「いいの?」
「しかし、条件があります。」
「やっぱりそうよねぇ……。何をすればいいの?」
「返済が終わるまで、このお城でメイドとして働いてもらいましょうか。」
「
「このお城の掃除をしたりする人のことですな。この条件を飲んでいただけるのなら、三食部屋つきでお雇いいたしますよ?」
「……その三食ってのは彼が作るのかしら?」
チラリと俺へと視線を向けてくるエンラ。俺は同意の意思を示すため一つ頷く。
「作ってくれるそうですよ?」
「ならやるわ!!もともとそれが目的だし?その
「ホッホッホ、それについては明日にでもお仕事を教えましょう。心強い先輩メイドもおりますからね。」
すっかりやる気になっている様子のエンラ。そんな彼女の横でラピスは悪魔的な笑みを浮かべていた。
どうやら何か悪巧みしているらしいな。
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