第214話 龍の力


 スリーが出力を上げると言った次の瞬間、俺の目の前に彼女の姿が突然現れる。


「っ!!」


 すると飛んで来たのは目にも止まらない高速の蹴り。それを何とか躱すべく後ろにバックステップすると、それを狙っていたかのように銃弾の雨が降り注ぐ。


 下がりながらも俺を的確に狙ってきた銃弾を木剣で弾くが、その最中にスリーは俺に距離を詰めていた。


「やっぱ速いなぁっ!!」


 速いし動きに無駄がない。五老龍の従者たちとはやはりレベルが違う。


 詰め寄ってきたスリーへと向かって木剣を振り下ろすが、あろうことか彼女はそれを銃で受け止めると、銃をくるりと回転させて受け流したのだ。


「マジかッ!?」


「少々飛びますよマスター。」


 そして俺の腹に銃口をくっつけたスリーが引き金を引くと、大きな衝撃とともに俺は吹き飛ばされた。


「っぐ……。」


 俺がよろけていると、スリーは持っていた銃をどこかへとしまう。


「スリーとの訓練はこのぐらいで良いでしょう。データも十分取れました。」


「ふぅ……やっぱステータスが上がったぐらいじゃまだスリーには勝てないか。」


「それでもマスターの動きは目を見張るものがありましたよ。特にその動体視力は以前よりもかなり強化されているようですね。」


「あぁ、なんか今日はスリーの動きとか撃ってきた銃弾が良く見えたよ。」


 これも少しずつ体が龍へと変化してきている証拠かな。まぁでもこんな感じで体が強化されることに関しては文句はない。自分自身が強化されているだけだからな。


「それではマスター今度はナインと戦いましょうか。」


 そして次に前に出てきたのはナインだ。もうすでにその手には機械仕掛けの剣が握られていた。


「あぁ、やろうか。」


 体を起こすと俺は木剣をナインへと向けて構えた。


「ふぅ……。」


「行きますよマスター。」


 その掛け声とともにナインが俺の目の前から姿を消した。それと同時に下段からナインの剣が迫ってくるのが見えた。


「はっ!!」


 その剣が俺へと届く刹那、体との間に木剣を挟む。


「確かに反応速度、そして動体視力はかなり増しているようですね。ナインの太刀筋が見えましたか?」


「ほんの一瞬な。」


「それでも以前見えていなかったものが見えるようになったことは大きな成長ですよマスター。」


 そう言って俺の剣をはじきながらバックステップを踏んだナインに向かって俺は一気に詰め寄ると、彼女へと向かって剣を振り下ろした。

 すると、俺の振るった剣は斬った感触がないままそのナインの体を突き抜けた。その直後……。


「ぐぁっ!?」


 峰うちで体を叩かれた感覚が突然襲ってくる。


 この現象は……いや、この技は……っ。


「陽炎ですマスター。」


「いてて、この前までそれは使わなかったじゃないか。」


「マスターがアリス流剣術の壱の太刀を取得しましたので、次は陽炎を覚えていただくために使わせていただきます。」


 さっきのナインの技の陽炎……強化されてる俺の動体視力をもってしても動きが捉えられなかった。マジで一体どういうからくりなんだよあれは……ナインは普段教えてくれてる足さばきを高速でやっているだけと簡単に言っていたが、とてもじゃないが簡単そうには見えない。


 それからも俺はナインと戦闘訓練に励んだが、俺が攻撃をすると必ず彼女は陽炎を使い、俺の攻撃が外れ彼女の攻撃が当たる。理不尽な後出しじゃんけんにずっと負け続けているような感覚に心が折れそうになりそうだ。これから毎日こんな感じで来られることを考えると、すぐにでも陽炎を取得してナインをアッと言わせてやりたいところだな。










 そしてその日の夜、アルマ様たちに夕食を作り終えて、俺が湯船に浸かっていた時だった。


「ふはぁ~……やっぱり一日の終わりの風呂は最高だな。」


 ここから眺める城下町の夜景も綺麗だ。これを眺めながら入る風呂……魔王城にいるからこそこれが楽しめる。


 ゆったりと夜景を楽しみながら湯船に浸かっていると、突然大きな何かが目の前を横切った。


「んん?なんだ?」


 何が横切ったのか首をかしげていると、城下町にサイレン音が響き渡る。


『緊急事態です。上空にドラゴンが接近!!住民の皆さんはすぐに避難してください!!』


「ドラゴンだって!?」


 まさか今ここを横切っていったのは……。


 そう思っていた瞬間だった。


「お邪魔するわよっ!!」


「おわっ!?!?」


 聞き覚えのある声とともに俺の目の前にあったガラスが割れ、深紅の髪色の女性が飛び込んできた。


「今日の朝ぶりね、やっと見つけたわよ。」


 そう言って俺の目の前に立っていた女性は五老龍の一角であるエンラその人だった。彼女は手で髪をたくし上げてこちらに目を向けると顔を真っ赤にして叫んだ。


「ちょっ……あんた裸で何してんのよっ!!」


 それと同時に飛んで来たのは彼女の強烈な威力の平手打ち……こういう時に危険予知が発動してほしいものだ。理不尽すぎる。


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