第6章 龍闘祭

第201話 五龍会合


 次の日、俺は朝早くにラピスに叩き起こされると早速彼女達五老龍の会合の場へと向かうこととなった。


「くぁ~……こんな朝早くから出発なんて聞いてなかったぞ?」


「すっかり言うのを忘れておった。すまんな。」


「まぁ良いけどさ。」


 職業柄、朝は強い。まぁ欠伸は出るが目は冴えている。


 そして城下街の外へと出て、ラピスはもとの龍の姿へと戻ると俺に声をかけた。


「ほれ、乗るのだ。」


「くれぐれも安全運転で頼むぞ?前みたいに凍えるのは御免だからな。」


「向かうのは北ではない故凍える心配はなかろう。」


「ん、なら良いか。」


 それを聞いて少しホッとした。


 凍える心配がないと聞いたところで俺は彼女の背中に跨がった。


「しっかり掴まっておるのだぞ?振り落とされんようにな。」


「振り落とさないように飛んでくれよ……。」


「むっふふ、まぁ善処する。」


 ラピスはくつくつと笑いながらそう口にすると、突然遥か上空へと一気に飛び上がる。


「うぉぉぉぉぉっ!?」


「さぁ~、ゆくぞ!!」


 かなりの高度まで飛び上がると、ラピスはもう一度翼を羽ばたかせる。すると一瞬にしてとんでもないスピードまで加速し、俺の体にとんでもない負荷と風圧がぶつかってくる。


「うぐぐぐっ……。」


「むははは!!まだまだ飛ばすぞ~!!」


 ラピスは楽しんでいるようだが……掴まっている俺はそれどころではない。少しでも掴まっている手の力を緩めれば落下するし、体勢を少しでも上に傾けようものなら風圧で吹き飛ばされて落下しかねない。

 

 そうして必死になってラピスの背中にしがみついていると、飛んでいる彼女が口を開く。


「カオルよ、見えてきたぞ~。」


「ホントか?」


「うむ、目の前に見えるあの山の頂上が会合の場所なのだ。」


 と彼女は言うが、俺はしがみつくのに必死で顔をあげて目の前を見る余裕はない。


 しかし徐々にラピスが速度を落としていき、やっと体に当たる風が緩やかになったところでふと顔を上げてみると、目の前には大きな山が聳え立っていた。


「山頂はもっと上か?」


「うむ。あの雲を抜ければみえるかの。」


 先程までとは違うゆったりとした飛行でラピスは上へ上へと上昇していき、真上にあった雲を突き抜けると、やっと頂上が見えた。


 この大きな山の山頂の中心には火山の噴火口のような窪んだ場所がある。その窪んだ場所は辺りのゴツゴツとした岩肌がある大地とは違い、整地されたようにまっ平らな平地になっている。

 そしてそこには岩で作られている巨大なテーブルと、5つの椅子が並べられていた。


「ふむ、まだ我以外の者は来ていないようだな。」


 ラピスと共にそこへ降り立つと、彼女は龍の姿から人の姿へと姿を変え、5つの椅子のうちの一つに腰かけた。


「相変わらず座り心地の悪い椅子だの。城にある椅子を持ってくれば良かったな。」


 と、ラピスがぼやくと上から声が響いた。


「なんだ、今日は早いじゃないかラピス?」


「む、か。」


 声のした空の方を見上げてみると、二人の人影がゆっくりとこちらへと向かって降りてきていた。


「久しぶりだなラピス。珍しく集合が早いかと思えば、従者も連れてきているじゃないか。」


「我もようやっと優秀な右腕を見つけてな。こやつをおぬしらに見せびらかしたくて仕方がなかったのだ。」


「ほぅ?それはそれは……良いことだ。」


 ラピスがエルデと呼んだ彼は、ちらりと俺の方に視線を向けてくる。一応俺は彼に向かってペコリと一つ礼をする。


「ラピスが認めたその腕は、後にゆっくりと見せてもらうとしよう。」


 そしてエルデはラピスの隣の椅子に腰かけた。


 それから少し待っていると、次々に五老龍の面々が現れ、5つの椅子が埋まる。

 全員揃うまでにラピスに教えて貰ったのだが、この椅子に誰が座るのかは決まっているらしく、ラピスの位置から時計回りに名前を言うと……。


 大地を支配する龍エルデ、海を支配する龍タラッサ、焔を支配する龍エンラ、雷を支配する龍グロム。


 そこに空を支配する龍ラピスが加わることによって五老龍……というわけらしい。


 そして五老龍全員が揃った所で、大地を支配する龍のエルデが口を開いた。


「揃ったな。では此度の会合を始めようか。」


 会合の内容は意外にも、お互いに変わりはないか?等々……昔の知り合いが話すような会話ばかりだった。

 てっきりなんか物々しい雰囲気の場なのかな~と思っていたが、どうやらこの会合というのは人間で言う同窓会のような場らしいな。


 ラピス達が話しているのを傍らで眺めていると、焔を支配する龍のエンラがおもむろに口を開いた。


「そういえばラピス、あんたキノコの森で死にかけてたんでしょ?」


「む、それをこの場で言うかのエンラ。」


「ほぅ?それは面白い話題だ。是非とも聞かせてもらおうか?」


「なに、大したことではない。毒キノコを喰って腹を壊しただけだ。」


「ははははは!!いかにもラピスらしいな。」


「キノコなんてショボいもん喰ってるからそうなんだぜ?やっぱ肉を喰わねぇとな!!」


「あらグロム、お肉だけじゃなくて魚も美味しいのよ?」


 グロムに向かってそう言ったのは海を支配する龍のタラッサだ。彼女は海を支配しているだけあってやっぱり肉よりも魚派らしい。


「あんな小骨の多いもん喰ってられねぇよ。あ~、食いもんの話ししてたら腹減ってきたじゃねぇか。おい、なんか肉付きのいい魔物狩ってきてくれ。」


「了解っすグロム様。」


 そしてグロムは連れてきていた従者を狩りに向かわせた。


「エルデ様もなにか召し上がりますか?」


「そうだな。」


「では行って参ります。」


「頼んだぞ。」


 五老龍の面々はラピスを除いて連れてきた従者に獲物を狩りに向かわせた。そして一向に俺に動くように命じないラピスにエルデが問いかける。


「ラピスはいいのか?」


「むっふふ、我は良いのだ。」


 にやりと笑うとラピスはチラリと俺の方を向いてきた。そんな彼女の思惑に答えるように俺は一つ頷く。


 そして数分もすると、五老龍の従者達が各々魔物を狩って帰って来た。

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