第202話 真に美味いものとは


 ラピス以外の五老龍達の従者が獲物を狩ってくると、彼らは元の龍の姿へと戻り豪快に魔物を喰らい始めた。バリバリと魔物の骨を砕きながら肉を喰らうその姿をラピスはニヤリと笑いながら眺めていた。


 そんな彼女に、口元を鮮血で真っ赤に染めた雷を支配する龍グロムが話しかける。


「にしても珍しいなあんなに食い物には目がねぇラピスが、オレらが喰ってるときにただ指咥えて見てるなんてよ。美味いぞ?」


 グロムが最後に言った言葉にラピスはクスリと笑う。


「グロム、お前はそんな鉄の味しかしない肉が美味いのか?」


「あぁ?どういうこった?」


「エルデも、タラッサもエンラも……今喰っているものがと感じるか?」


 ラピスは一人一人に問いかけていく。すると、彼らはお互いに顔を見合わせながら口々に言った。


「魔物の肉なんてこんなものだろう?美味いか不味いかで聞かれれば不味くはないが。」


「そうね、いっつも食べてるものだし。」


「海にいる魚の魔物なら塩味で美味しいけど、淡水のやつはあんまり味がする感じはしないわぁ~。」


 そう口々に言ったエルデ達。そんな彼らに向かってラピスは言った。


「我はあの忌まわしいキノコの森で毒キノコを喰って腹を壊して動けなくなった。空腹で死にかけていた我を救ったのが……こやつなのだ。」


 話しながらラピスは俺に視線を送る。すると、他の五老龍達の視線が一気に突き刺さるのを感じた。


「その話の流れから察するに、そこの従者がラピスに何かを喰わせて助けた……というところか。」


「うむ、そして我は己の無知さを知ることになったのだ。今までただ空腹を満たすために喰っていたものが決してと言えるものではなかったことを……な。」


「ふ~ん?じゃあ逆に美味しいものってなんなのよ?」


「むっふふ、それは今からおぬしらの目の前で我が喰らってやるのだ!!さぁカオルよ準備するのだ!!」


「承知しました。」


 一応雰囲気に合わせるべきだと踏んだ俺はラピスのことを様づけで呼ぶ。すると、彼女は背筋をぶるりと震わせながら耳元で言ってきた。


「お、おいカオルよ。なぜ突然我にをつける?」


「他の五老龍の従者もみんな様づけしてるだろ?だから俺も空気に合わせたって訳さ。」


「む、むぅ……。そうか、だがこの場のみにするのだ。その呼ばれかたは違和感があって仕方がない。」


「わかったよ。」


 ラピスはそう告げると再び席につく。俺はその背後でせっせと準備を始めた。

 収納袋の中から野外でも使える調理台とコンロ、そして調理器具一式を取り出すとラピスのご飯となる予定の食材をまな板の上に置いた。


「よっと……。」


 俺が食材をまな板に置くと、それを見たグロムが口を開いた。


「なんだぁ?結局肉じゃねぇかラピス。」


「まぁ黙って見ておれ。」


 俺はまな板の上に置いた巨大な肉の塊を切り分けると、シンプルに塩とブラックペッパーを振りかけたのち、熱々に熱したフライパンで焼く。

 すると、辺りにたちまち肉の焼ける香りが漂い始める。


「焼けた肉の匂い。でも、ブレスで獲物を焦がした時とはちょっと違うわね。」


「当たり前だ。これは焦がしているわけではないのだからな。」


 そしてステーキの焼き加減をレアで止めた俺は、ステーキをフライパンから取り出すと、フライパンに染みでた肉の旨味と脂を使って醤油ベースの和風のソースを作る。


「お?お?」


「むっ?」


 醤油が軽く焦げる香りと、香りづけで入れたバターの香りをひくひくと鼻をひくつかせながら嗅ぎ始めるエルデ達。


 そして俺はステーキを熱々に熱した鉄板の上に乗せて、その上からソースをかけるとラピスの前に置いた。


「うむ!!」


 その出来に満足そうに頷くラピス。すると彼女はフォークとナイフを上手く使ってステーキを切り分けるとソースをたっぷりと絡めて口の中へと放り込む。


 その瞬間、他の五老龍達のみならず、その従者達からもゴクリと生唾を飲み込む音が聞こえてきた。


 ラピスはそんな彼らの目の前で見せつけるようにステーキをゆっくりと咀嚼し飲み込むと、ほぅ……と熱のこもった吐息を吐き出した。


「うむ、。」


 そう一言呟くと彼女はまた切り分けたステーキを口に運ぶ。

 そして見せつけるように食べていたラピスに、遂に我慢ができなくなったグロムが声をかけた。


「なぁラピス~。」


「む?なんだグロム。」


「それ一つくれよ。なっ?」


「おぬしはそこの魔物の肉塊で充分なのではないのか?」


「っ、おまっ……それだけ見せ付けておいて……。」


「むふふ、冗談だ。せっかくこうして我らが顔を合わせたのだ、おぬしらにも真にとはなにかを教えてやる。カオルよグロムにも作ってやるのだ。」


「承知しました。」


「やったぜ!!」


「では此方こなたもいただこうか。」


「ふん、ラピスがそこまで言うならワタシも食べてあげるわよ。」


「お肉はあまり気が進みませんが、私もいただきましょうか。」


「カオル追加だ。」


「はい。」


 そして俺は全員分ステーキを焼くことになった。まぁ、最初からラピスはそのつもりだったから想定通りだな。


 さて、どんな反応をしてくれるか楽しみだ。


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