第199話 動き出す者たち
「うっ……痛てて。」
ふと目覚めると俺は魔王城の自室のベッドに横になっていた。起き上がると頭がズキンズキンと痛む。記憶が無くなる前のことを思い返してみれば、あの世界樹の果実で造られたお酒を飲んで、それから……。
それ以降の記憶がない。
ひとまずベッドから這い出てみると、ひらひらと足元に一枚の紙が落ちてきた。
「ん?」
それを拾い上げて読んでみるとそこには……。
『おはようございます。昨晩はわたくしの不手際で殿方に飲ませるべきではないものを飲ませてしまい申し訳ありませんでした。机の上に二日酔いに効く薬を置いておきましたので気分が悪いようでしたら飲んでみてください。あと、ペンダントにかけられていた声を聴く魔法はカーラによって解除されてしまいましたのでご安心を。あ、わたくしが自由に移動できる魔法だけは残してもらいましたよ?それではまた……近いうちにお会いしましょう。』
そう書いてあり、クリスタが書いたものであることがわかる。ふと机の上を見てみるとそこには水色の液体が入った小瓶が置いてある。
「これを飲めばこの頭痛は治るのか?」
まぁこの状態では仕事に支障が出てしまうし、今はこれを飲むしか選択肢がない。
俺は小瓶の蓋を開けるとそれを一気に飲み干した。すると、口いっぱいに苦い味が広がった。
「うぅっ!?」
良薬は口に苦し……とは昔から言うものの、これはとんでもない苦さだ。メアが飲んだあの薬もこの位苦かったのだろうか?
苦さに苦しみながらもなんとかそれを飲み干すと、体の中にスッと染み込んでいくような不思議な感覚とともに、一気に体の不調が嘘のように消え去った。
「う、お、おぉ?」
こいつはすごいな……一瞬の苦ささえ我慢すれば二日酔いの頭痛も気持ち悪さも全部吹き飛ぶのか。日本にもこれぐらい即効性のある薬があればよかったんだが……。まぁこれもエルフという種族のなせる業なのだろう。
「後でお礼を言わないとな。」
今回俺がこんな風になったのはクリスタのせいではある。だが、しっかりとこういう風に薬をもらったのなら感謝の言葉は言わないとな。
「さて、今日も一日頑張るか。」
俺は早速コックコートに着替えると、アルマ様たちの食事を作るために部屋を出るのだった。
カオルたちが日常を過ごしているその裏側……。
「それで……進行状況はどうなっている?」
円卓の中央に座る男が、そこに集まっている人々に問いかけた。
「ヒュマノから消えた勇者の動向は現在捜索中です。しかし、にわかには信じられませんが魔王城の城下町でそれらしき人物を見かけたと目撃情報が上がっています。」
円卓に座っていた白衣の女性がペラペラと紙をめくりながら答える。
「勇者が魔族の国にか?」
「不確定な情報ですから信憑性は低いかと。」
「ふむ。魔王の方はどうだ?」
円卓の中央に座っている男は、今度は以前カオルと戦った男に問いかける。
「ダイミョウウオを食しまた一つ成長した模様。」
「ラースホエールを呼び起こしたが、それすらも打ち破ったというわけか。なかなかどうして強いようだな件の魔王のハンターは。」
「あの時討ち損じなければ……。」
「過去のことは気にするな。力をつけているのならそれを上回る魔物を差し向ければいいだけのこと。そのために魔物を作り出す研究もしているのだ。」
そうしてその男は円卓の向かい側にいる女性に目を向けた。すると彼女はぽつぽつと語り始める。
「研究は、進んでる。魔物に変わる直前に強い感情を抱いているほど強い魔物になる。それと魔物を服従させる薬ももう少しで完成する。」
「強い魔物を作り出すには強い感情を抱かせなければならないというわけか。」
「一番いいのは生への渇望。死ぬ寸前……ギリギリまで追いつめてから魔物化させると強いのになる。」
「しっかりと研究結果が出ているようで何よりだ。その調子で頼む。」
そして一通り報告を聞き終えるとその男は、パンと一つ手を叩く。
「では以上で定期報告を終了する。各々戻れ。」
男がそう口にすると同時に円卓に座っていた人々がどんどん姿を消していく。そして男を一人残して全員がいなくなると、その男はポツリと呟いた。
「行方不明の勇者……そしてラースホエールをも打ち倒す強者。一筋縄ではいかないな。だが、魔王と勇者の存在は世界の均衡を歪める。不要な存在は消さねばならない。」
男はそうつぶやいて立ち上がると闇の中へと消えていった。
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