第197話 三つ巴?
ナインに教えられながら、剣の手入れを終えた俺は夜が更けている最中に街へと足を運ぶ。
そしてくたくたになった体で未だ灯りが点っているギルドの扉を開けた。
「ん?カオルかい?」
「んぁ?キミ~……今日はずいぶん遅くに来たね~?」
ギルドの酒場には深夜だというのにリルとカーラの姿があった。まぁ、二人がまだいる……って思ったからここに足を運んだんだが。
「久しぶりにちょっと酔い潰れたい気分になったんで……。」
「ほぇ~?珍し~……まぁキミにもそういう時はあるんだね。まぁまぁ座んなよ~。」
二人が囲んでいたテーブルにお邪魔すると、いつも俺がここで飲んでいる酒とおつまみが運ばれてきた。
いつもはちびちびとゆっくり飲むのが俺のスタイルだが……今日は運ばれてきたジョッキになみなみと注がれていた酒を豪快に呷った。
「んっ……んっ…………ぷはっ!!」
剣を振るって疲労した体……そして剣の手入れという新しい知識を大量に詰め込んでショートしかけている脳にアルコールが流れ込んでくるのを感じる。
「いつもと違って今日はずいぶん豪快に飲むじゃないか。何かあったのかい?」
いつもと違う様子の俺の姿を見てカーラが問いかけてくる。
「いえ、特に何かあった訳じゃないんですけど。なんか無性に……飲みたい気分だったんです。」
言葉で言い表すのは少し難しい。普段こんな風に体が酒を欲しがるようなことはないのだが……。
そしてあっという間にジョッキに入っていた酒を飲み干すと、俺は再び酒場のマスターに同じやつを頼んだ。
すると、その時リルが俺の首もとを眺めて目を細くした。
「ん~?ねぇキミ、そんなペンダントみたいなの着けてたっけ?」
リルが指差したのはクリスタにもらったエルフの集落へと入るための通行証になる紋様が彫られたペンダント。
しかし、このペンダント……実際はクリスタが好きなときにこれを持っている人の所へと移動できるという簡易的な魔道具だ。
「実は昨日エルフの集落に行ってきて……帰り道にこれをもらったんです。」
特に隠すようなことでもないので俺はペンダントはエルフの集落で貰ったものだとリルに告げた。
「ふ~ん?ちょっと見せて~?」
そう言ってきた彼女に俺は首からペンダントを外して手渡した。すると、リルはそれを怪しい目で眺めながらカーラと話し始める。
「ねぇカーラ、これってさぁ~……。」
「あぁ、間違いないねぇ。」
「だよね~。」
そして二人は話を終えると、こちらを向いて問いかけてくる。
「キミ、これさぁ何て言われて貰ったの?」
「え?」
「これ貰った時にエルフに何て言われたの?って聞いてるの~。」
「その時は通行証になる……とだけ。」
「ははぁ~?やっぱりね。まぁ、もしこれが本当はどんな効果の魔道具か……知ってたら無防備に首からぶら下げてるわけないもんね。」
一応……クリスタ専用の移動魔法の術式が組み込まれてるのは知っているが、彼女はエルフの長という立場がある。今朝のようなことは今後まず起こらないだろうと思って、何気なく身につけていたのだが。
そんなことを思っていると、突然リルはペンダントへと向かって言葉を発し始めた。
「あ、あー?んねっ?聞こえてるよね~?
「え゛っ?」
そんなまさか……と思いリルの行動を見ていると、突然ペンダントから声が響く。
「フフフ、懐かしい声が聞こえますね。
「アタシもいるよ
「流石魔道具を作り続けているだけあって貴女の目は誤魔化せませんでしたか……
「え……え゛っ?」
困惑する俺の目の前でリルが手にしていたペンダントの紋様が一瞬光ったかと思えば、次の瞬間……俺の横の席にクリスタが座っていた。
「お久しぶりですね二人とも?」
「しばらく見ない間にずいぶん良い趣味見つけたみたいじゃんクリスタ?」
「フフフ、そんなに褒めないでください?」
「褒めてるわけじゃないんだけどねぇ~?」
クスクスと悪戯に笑うクリスタと、彼女に冷たい視線を送るリルとカーラ。
何が起こっているのかわけがわからずに混乱していると、カーラが俺にクリスタが手渡してきたペンダントについて教えてくれた。
「カオル、そのペンダントには二つ魔法が組み込まれてる。一つは移動魔法、そしてもう一つは……
「つ、通信魔法?」
「まぁ簡単に言えばそのペンダントの周りの音が聞こえるってことだ。」
「それって……つまり?」
「ま、所謂盗聴ってやつだね~。どういう目的で仕組んだのかは本人に聞いたほうが早いんじゃない?」
チラリと俺はクリスタの方に視線を向けた。すると彼女はにこりと笑みを浮かべながら口を開いた。
「フフフ、目的……ですか。それは貴女達と
クスクスと笑うクリスタとは正反対に、どこか焦ったような表情を浮かべるリルとカーラ。
にしても、まさかこの三人が知り合いだったとは意外だったな。あぁ……でもジャックから繋がりが広がってるって考えると、わりと考えられる可能性だったか。
とにもかくにも、俺は今この三人の雰囲気……そして話の流れに全く着いていけていない。
今俺がやるべきなのはこれ以上三人の雰囲気が悪くならないように、余計な口は出さないこと。口は災いのもと。とも言うし酒のジョッキで口は塞いでおこう。
……あ、クリスタには心の声が筒抜けだった。無心だ、無心を貫こう。
そう思っていると突然頭のなかに声が響く。
『スキル隠密を発動します。』
今の状況的にはありがたいかもしれない。そして隠密状態になった俺は三人の会話に耳を傾けるのだった。
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